城輪町・くちなわ谷

 

 東京都内の山奥深くには、伊賀忍者と全国各地の忍軍による最終決戦が行なわれている場所があるという。アメリカZ級映画ファン垂涎の状況ではあるが、八王子市城輪町のくちなわ谷で繰り広げられている有様は、映画ではなく現実だ。日本国民が持って然るべき倫理のたがから外れた無法者達の、其処はある意味パラダイス。

 それでも彼等は己が信ずるところの為、命を賭して戦っていた。尤も大半は高校生である。連綿と続く負の歴史を覆す為に。或いは忠節を誓った主君の為に。愛する人を守る為、というのもある。しつこいようだが、大半は高校生である。

 そんな彼らに紛れて、破壊された屋敷の再建作業に従事する人々もまた、違う意味で命を賭けていた。定められた工期を守る為だ。

 日本の土建業界は世界一厳しい。工期遅れが起ころうものなら、あっという間に噂が広まり、何も言わずに右へ倣えでやらかした会社をスルーして行く。だから彼らの作業の邪魔をしてはいけない。殺傷能力の高い工具を満載で携えているのだから。

 こんな人力飛行機とは全く関係のない出だしで、「バードマン!」第五回は始まるのだった。

 

「敵襲ーっ!」

 と怒鳴ったのは、くちなわ屋敷の撫子側忍者ではない。高見櫓を陣取った赤城烈人が発した大音声は、速やかに作業中の仲間達に行き渡った。櫓から滑り降りた赤城が、キンキンに先を尖らせたスコップを右手に、拡声器を左手に、御館様側の一隊が潜む茂みに向かって仁王立つ。ツルハシやらチェーンソーやら掘削機やら、凶悪な工具を携えてわらわらと集まった、怒りと埃で顔がどす黒い土木作業員の皆さんを後ろに従え、赤城は拡声器を構えつつ、あらん限りの罵声を放った。

「お前ら、工事の最中は休戦にするって、何度言ったら分かんだオラあっ!」

 恐らく、そんな約束は先方と交わしていない。

「あと3日くらい待ちやがれ! お前、俺は1週間の突貫工事で契約してんだぞ! 工期破ってバイト代が減らされたら、一体どうしてくれるんだよっ! お前ら補填してくれんのか!? くれないだろ。人力飛行機が飛ばなかったらお前らのせいだあっ! いい加減にしねーとダンプとパワーショベルを突っ込まして、森ごと耕して肥やしにすんぞド畜生!」

 バイト4日目で早くも心が荒んだ赤城の言は伊達ではない。屋敷の左右ではダンプとパワーショベルが低い振動音を威嚇気味に唸らせて、今か今かと発進を控えている真っ最中。屋敷の再建工事には必要性が薄いどころか、大型建機をどうやって持ち込んだのかが謎である。それを言うならこんな谷に屋敷を構えているのも謎であるし、そもそも忍者同士で合戦をやっている状況そのものが謎だ。

 しばらく待っても向こう側からの返答がない事を赤城は承知し、フウと溜息をついた後、右手を振り上げ、また振り下ろした。

「突撃」

 ダンプが地面を巻き上げ、パワーショベルが鎌首をもたげ、そこかしこで携帯工具が排気を噴き、土木作業員による進攻が一斉に始まった。警察でも逃げ出す光景である。

「…何時も何時も、御足労をおかけします…」

 100mも離れていない場所で繰り広げられる阿鼻叫喚を前に、青ざめた面持ちの服部撫子が赤城に声をかけた。屋敷再建のクライアント、つまり現場で一番偉い人。

「いや、うちは工期厳守がポリシーなんで。戦闘込みで給金を頂いている訳ですし。それじゃ俺、コンクリートを捏ね回す作業に戻ります」

 言って、赤城はさっさと自分の持ち場に戻って行った。件の場所では相方の古雅勇魚が棒をかき回しながら、

「全然丁度いい感じにならないわねっ! シャブシャブよ、シャブシャブ!」

 等とゲタゲタ笑っている。ここは地獄だと赤城は思った。何となくだが。

「…今頃仲間達は霞ヶ浦で第二次選抜戦の真っ最中だと言うのに、俺は大女と一緒にコンクリまみれの忍者まみれかあ」

 自らもコンクリを捏ねつつ、赤城が溜息をつく。対して大女呼ばわりの古雅が事も無げに曰く。

「でも、プロジェクトの資金も尽きちゃったし。お金が無ければ、人力飛行機だって作れないんだから。私達が稼いだお金は、きっとみんなを助けられると思う」

「そりゃそうさ。ヒーロー的には縁の下の力持ちって役回りも、中々燃えるシチュエーションだぜ。それにしても本当にシャブいな、このコンクリ」

「水の比率を間違ったのかな」

「わたし、現場監督に聞いてくるね」

 ペンギンぐるみの少女がピッと敬礼を寄越し、スタスタと詰め所へ走って行った。首を傾げながらコンクリートをかき回し、不図赤城が顔を上げる。

「あれ。何であいつ、ここに居るんだ?」

「設定的には御館様側だったよね?」

 

霞ヶ浦・第二次正パイロット選抜競争

 

 新しい朝が来た 希望の朝だ 喜びに胸を開け 青空仰げ

 月曜日の朝に聞くと気分が一層落ち込むラジオ体操の歌を一頻り鳴らした後、司会進行の屠龍隼は台上に駆け上がり、ラジオ体操第一を全参加者に張り切って扇動した。皆々の顔が一様に沈んだのは言うまでもない。

「腕を大きく上げて、背伸びの運動ー、ハイ! イチ、ニー、サン、シッ!」

 台上では強制的に屠龍の体操が繰り広げられ、仕方なく彼らも体を前と後ろに曲げたりする。確かに準備運動としてのラジオ体操は優秀だが、どうにも高めのテンションが選抜戦参加者に合っていなかった。

 第二次選抜の時点で五人にまで絞り込まれた面々は、既に全員が人力飛行機への高い適性を持っていた。人の能力を数値化出来るのだとすれば、ほとんど五分の状態と言える。それは各々が分かっていた。今日この日の選抜戦が、非常に競った際どい戦いになるだろうという事も。日常では潜んでいる闘争心が沸々と湧き上がる、今はその頃合だ。そこへラジオ体操第一。緊張をほぐす配慮もあるのだろうが、何となく膝かっくんを食らったような気持ちになる。

 ともあれ、選抜戦に待ったは効かない。今日の戦いで、間違いなく二人が脱落する。無論、参加者達はそれが自分だと、誰一人として思っていない。

 

<1.リコ・ロドリゲス・ハナムラ>

 競争は前回の成績で5位から順に行なわれる。実は鳥人間コンテストでも、所謂シードチームは優勝者が一番最後に飛ぶ方式だった。

「て事ぁ、アタシから飛ばなきゃならないっての!?」

 等と驚愕するリコではあるが、体は既にバラビェイの中に埋まっていたりする。司会役の屠龍による進行も容赦が無い。

「さあ、始まりました八十神学院・大渡鴉チーム内、正パイロット二次選抜競争。進行は私、屠龍隼でお送り致します。一番手は褐色の恋人、リコ・ロドリゲス・ハナムラ、フロムベネズエラ! この日に備えてアップダウンの激しいロードワークをこなし、鍛え上げたその脚力、どうか存分に発揮しちゃって下さい! ちなみに今回使われます機体は、オーニソプター「バラビェイ」と申します。弊社、コースマスが満を持して世に出します新鋭機でありまして」

 お約束の製品PRがとうとうと謳われる。此度は企業のバックアップに拠っているので、これはこれで割り切らねばならないが、時間を稼いでもらえるという一点で、リコ自身には有難い「無駄な時間」だった。

 フウ、と大きく息つき、リコはバラビェイを一番上手く扱った人間の飛び方を、頭の中でトレースした。司会進行がけたたましい、屠龍隼の飛び方である。

 ことバラビェイに関しては、彼女は正に手足の如くこれを扱っていた。十分な浮力を維持しつつ機体を前傾して突っ込ませ、速度に乗った所でまた上昇する。単純に言えば、この繰り返しである。それを如何にも単純に見せられるのが彼女の上手い所なのだろう。

(要はリズムなんだよね。リズム。繰り返し。リズム)

 リズムという単語を、リコは反芻する。事前に繰り返し見た鳥の飛行するフィルム、実際に前日テストフライトをして得た感触。それらから導き出して得た結論は、体力の続く限り一定のリズムを保ち続ける事。頭に叩き込んだイメージ。大丈夫。自分はやれる。

「…さあ、それでは競技を開始致します。第一飛行者、リコさんによる、エンジンスタートです!」

 屠龍の締めで、ハタと現実に戻される。大きく息を吸い込んで、吐き出し、リコはゆっくりとペダルを踏み込み、徐々に回転を加速させた。合わせてオーニソプターの両翼が、着実に羽ばたきを早めて行く。体が少し軽くなった。そして随分と軽くなる。フック解除。落ちない。前傾。スタート。

 リコの思うより猛然と、バラビェイが湖面へ向かって突進した。多少戸惑うも、リコは慌てなかった。ここ、というタイミングで操縦桿を引く。途端、天地が引っ繰り返ったような錯覚を覚える。急激に背もたれへ体が押しつけられる角度へ移行し、バラビェイは力強く羽ばたきながら上昇を開始した。そしてある程度の頂点へ辿り着き、また前傾。加速。急上昇。

 観衆からどよめきが起こった。リコは掛け値なしに上手い。屠龍の動きにそっくりと言えばその通りだが、しかし実際にトレース出来るのは、それだけの技量が備わっている証だった。

「初っ端から、いきなりコレか…」

 次の第二飛行者、神代神楽が溜息を漏らす。リコの飛び方は正にリズムに乗っているという感じで、果たして自分はあのように飛べるのかと、多少不安な気持ちにもなる。と、神楽はリコのバラビェイに若干の滞りを見た。

(重ッ!?)

 突如、リコの脹脛に負荷がかかった。人力羽ばたき機であるバラビェイは、相応に体力を要求する。上げ調子だったペダルの回転が、泥のように重くなる。むず痒い感覚を伴って、足が一気に疲労困憊の極みに達する。

「まだだ、落ちるかよおッ!」

 リコは絶叫して、過大な酸素を体内に引き込んだ。両脚の筋肉が呼応し、軋みを伴って膨れ上がる。一時的にバラビェイは爆発的な加速を見せたが、其処までだった。両翼が羽ばたきを止め、力強く飛翔していたその機体は嘘のように力尽きて、前から湖面に激突し、一度深く沈んで、また浮上した。

 バン、と派手に音を立ててハッチを開き、リコは過呼吸を宥めるべく外気を浴びた。しばらくしてから、屠龍の嬉しそうな声が聞こえてくる。飛距離は、204.6mなのだと言っている。

「…凄いかそうでないか、よく分かんないねえ…」

 経験無しの成人男性で平均飛距離50mとは聞いていたが、後に控える面々の顔ぶれを考えれば、リコは未だ安心など出来なかった。

 

<2.神代神楽>

 筋持久力を身につけるには、体の鍛え方がアンバランスであってはならない、というのが神楽の持論である。脚力と肺活量の増強は、こと人力飛行機のパイロットとしては向上が必須であるが、例えば肺活量を維持し続けるには胸筋の増強が有効に働く。だから神楽は水泳という、全身使用の総合運動としては最も有効的なトレーニングを、敢えて寒空の下で積んできた。低温化で脂肪燃焼を促す為だ。翻って持久力が損なわれる可能性はあったが、単発勝負ならメリットの方が大きいし、事前にグリコーゲン・ローディングを積んでおく、という事も出来る。

 結果、上着を脱いだ神楽の体は、ドライスーツの上からでも絞り込まれた様子が伺え、全参加者の中でトップクラスの身体能力を得るに至った。

「第二飛行者は神代神楽さんです! 見るからに洗練された身体能力で、果たしてリコさんの記録を越える事が出来るのでしょうか! 要注目です!」

(ま、身体能力だけで勝てるなんて、甘い事はないけどね)

 屠龍の煽りを他人事のように聞きながら、神楽はバラビェイの狭いシートに体を沈めていた。確かにこの選抜戦は、体力を過酷に要求する内容だったが、神楽のフライトプランはそれだけに頼っていなかった。

 フライトスタート。十分に揚力を得た神楽のバラビェイが切り離される。若干前傾しつつも、神楽は屠龍やリコとは異なり、比較的高度を保ったまま飛行を続けた。高度を維持したままの飛行は脚にかかる負担が生半可ではないはずだが、それでも神楽は一定の速度を得るまでそれを続け、不意に機首を下に向けた。

 グン、とバラビェイの速度が跳ね上がる。非常に鋭角的な突進。その途上、不意にバラビェイが、羽ばたきを止めた。

「これは、地面効果です! この場合は水面効果と申しましょうか! 低高度になると揚力が上昇する現象であります! 人力飛行機や滑空機ではよく用いられているテクですが、あまり滑空向きではないバラビェイを、神楽選手、上手く水平飛行させている!」

 屠龍の言う通り、神楽は降下から上昇に至るスパンを極端に長くし、上昇前に水面降下を用いて飛距離を稼ぐ作戦に打って出た。翼を羽ばたかせないという事は、ただでさえ引き上げた体力の温存に繋がるが、反面滑空を不得手とするバラビェイを上昇に向かわせるタイミングが非常に難しくなる。

 それでも神楽は、見た目優雅な飛行を延々と継続してみせた。タイミングを見誤って落水するも、距離はリコのそれを上回ったかに見える。

 ハッチを開き、然程息を切らせず、神楽はコクピットから身を乗り出して結果の宣告に耳を澄ませた。飛距離、209mジャスト。ヨシ! と咆哮し、神楽の拳が高々と突き上げられる。

 これをもって、彼女の記録を全員が追いかける立場となった。

 

<3.矢上ひめ子>

 そう言えばパイロット選抜が始まった頃は自分とアメリアの2強的に見られていたな、と、矢上は何となく呟いていた。それが今や、ライバル達は着々と実力を引き上げ、最早横並び一線の状態にまで持ち込まれてしまった。先の二人のフライトは彼女らの高い適正を存分に活用した様が窺われ、果たしてアメリアと自分は何処まで食い下がれるのだろうかと、考えざるを得ない。

 それでも、人力飛行機部員としての経験と実績は損なわれるものではないと矢上は信じていた。飛行機の構造と操縦を深く理解する自分に備わった、機先を読む才能を。何を、どのタイミングで操作すれば良いのか。風は。適正な高度は。人力飛行機が遠くに飛ぶにはどうすれば良いのか。矢上は飛行機操縦に関する全てのカテゴリィで、ベストを選択する自信がある。

 唯一の不安材料は、体力を極度に消耗するオーニソプターを何処まで制御出来るかだった。それも先の特訓で、リカンベントバイクを用いて実機の操作状況に限りなく近付けたロードサイクルによって、かなりのレベルまでリカバーしたはずだ。

 今はコクピットの中。オーダーメイドのような具合で、小柄な自分に狭さがフィットする。幸先の良い事だと、矢上は思った。

「いよいよ第二次選抜戦も真ん中の三人目、次に搭乗するのは矢上ひめ子さんです! 矢上さんは大渡鴉の開発面にアドバイスをする一方、飛行機操縦にも習熟する努力型の秀才タイプとの事。果たしてどのようなフライトを見せてくれるのでしょうか!」

 屠龍の区切りに合わせて、矢上がペダルを踏み込んだ。相応の重量が足に堪え難い負荷をかけるものの、確実に段速を切り替え、回転数を引き上げて行く。両隣から見える翼はバラビェイ独特のフォルムで羽ばたきを速め、あたかも自分が鳥になったような錯覚すら覚える。

 フック切り離し。良好。滞空維持。前傾して加速。これも具合がいい。速度が乗る。矢上が操るバラビェイは、何の問題も無く飛翔を開始した。

 セオリー通りと言えば、ここでは最上の褒め言葉となる。この類の人力飛行機は自らが招いたミステイクで墜落するものだが、矢上の飛び方は失敗する要素を極力排除した、実に安定したフライトとなった。自然、屠龍やリコのプランを踏襲する格好となる。上昇。下降。上昇。下降。ルーチンワーク。当たり前の繰り返し。それこそが航空機が最も必要とする飛び方なのだろう。問題は技術以外の要因から来るハプニングへの対応だが、矢上の場合は足から来た。

 ミシッ、と膝から軋む音を聞いたような気がした瞬間、矢上の両脚は膝から踵へ一直線に引き攣った。筋肉の硬直。矢上は息を飲み込み、そのまま体が呼吸を一旦止めてしまった。こうなると操縦どころではない。

 鍛え上げた体であるが、やはりバラビェイは消耗が激し過ぎる。矢上は激痛に目を滲ませ、酸素を求めて空に喘いだ。直後、ガラス越しの風景が一挙に水中へと変貌する。力尽く形で矢上のフライトは終了した。

 飛距離は206.5m。現時点第二位。現時点、トップとリコの差は5m以内に収まり、その真ん中に矢上が駒を進めた。極めて競った戦いだったが、次のフライトは前回選抜戦の一位と二位である。ひっくり返されるか否かは、最早誰にも分からない。

 

<4.アメリア・リンドバーグ>

 アメリアは思い出そうと試みていた。自分ではない誰かの感覚を。かつて戦闘機を駆って蒼穹を制覇した人の記憶を。

 こうして人力飛行機に携わっていると忘れがちだが、城輪町の住人はごく一部の例外を除いて、全てが過去の人物の経験を継ぐ者、輪楔者である。アメリアはその幾人かの内、撃墜王と呼ばれた男の影響を、性格、趣向にかけて色濃く受け継いでいる。だから航空機を操る事に無上の喜びを見出すのは、彼女にとって生まれた時からの定め事だったのだ。そして受け継いだ技能は、アメリア自身の研鑽によって磨き上げられ、世間一般で言う所の『天賦の才』が備わるに至った。

 今、アメリアはかつての猛者の記憶を辿ろうと、所謂「運命」を行使しようとしている。そうまでして確実に勝ちを拾いたかったのは、ライバル達の努力が才能に比肩し得る所まで跳ね上がって来たからだ。

 嬉しい、とアメリアは思う。親しい仲間達が自分と同じ道を目指し、互いの実力をここまで高められた事を。しかしながら勝負事を一歩下がって譲るような柔弱な優しさを、アメリアは持ち合わせていなかった。やるからには全力で戦い、そして勝つ。それが飛行機乗りとしての己が誇りであり、仲間達に見せられる最大限の敬意である。

 不図、遠くで屠龍の声が聞こえたような気がした。司会進行の弁であるはずだが、内容が分からないし、分かろうとも思わない。彼女の声はノイズとなり、何時の間にか消えた。無音の世界。集中力の窮み。アメリアの精神が、ゾーンに踏み込む。

 両手が勝手に計器類を触り始めた。操縦系統をチェックする仕草は単に撫でるのみであったが、アメリアはそれだけでバラビェイの構造を深く理解出来た。

 ペダルを踏み込み、両翼が羽ばたく。十分に浮力を得た所でフックを外し、滞空する。前傾しつつ段速を最高速に切り替える。発進。

 美しい、と誰もが思う。翼を懸命に羽ばたかせるバラビェイは、お世辞にも華麗な飛行機と言えないはずだ。それがアメリアの操縦によって、バラビェイは本来のコンセプトである鳥そのものの飛型を披露してみせた。飛び方自体はリコや矢上と同じであるにも関わらず、巨大な翼鳥のように雄雄しく突き進む、その姿を。

 機内のアメリアは未だ集中力を維持し、バラビェイの飛翔に必要なありとあらゆる技能を制御していた。外の状況、機体の状況、その全てが掌にある。技量的に言えば、この時のアメリアは全参加者どころか、機体に習熟しきっているはずの屠龍すら越えていた。このまま飛び続けられれば、誰も成功していない滞空したまま高度を下げて着地する事すら出来たかもしれない。

 しかしたった一つだけ、アメリアの力をもってしても制御出来ない要素がある。リコと矢上が失速した原因に重なるそれから、矢張り彼女も逃れる事は出来なかった。体力だ。

 アメリアの集中が体全体にかかる衝撃と共に容易く切れた。手と足が微動だにしなくなったのだ。高まりきった集中力は、蓄積した疲労を忘却させる程の代物だったが、疲労が限界に達した時、崩壊も速やかに訪れる。

「駄目! 最後まで諦めないで!」

 自分に対してか、或いはバラビェイへの叱咤激励だったのか、アメリアは絶叫して体中の神経伝達を再構築した。応えて小さな体がエネルギーの全てを振り絞る。ペダルが力の限り踏み込まれ、再び翼が浮力を取り戻す。まるで生き永らえようとする鳥の最期を見るように、バラビェイも高度を急上昇させた。そして両翼が力尽き、機体はひらひらと舞い落ちて行く。

 水上バイクに乗った救護班がハッチを外から開くと、コクピットに背中を預けて、アメリアは意識を途絶していた。だからこの時に発表された飛距離は、目を覚ましてから聞く事になる。

 205.4m。これにて神楽、矢上の決勝進出が確定し、リコ・ロドリゲス・ハナムラの敗退が決まった。

 

<5.双月響>

 機体がクレーンで吊り下げられ、内部構造からの水抜きを行なう合間に、双月は防水用のドライスーツへと着替え終え、会場へと向かっていった。その途中、ベンチで一人、ポツンと座り込む少女を見かける。この場所で自分と同じ柄のドライスーツを着ているのは、件の第二次選抜戦参加者くらいのものだ。両膝に肘を当てて支えとし、頭を項垂れる様に怯むところを感じたものの、双月は声をかけずにはいられなかった。

「リコ、一人か」

「双月かい?」

「お前のフライト、俺は凄いと思った」

「しばらく放っておいてくれ。少し泣くからさ」

 顔を上げないリコに双月は頷いてみせ、それ以上何も言わずに踵を返す。が、数歩行った所で、リコの明るい声が背中に飛んできた。

「勝ってきな、双月」

「そのつもりだよ」

 颯爽と双月が歩みを進め、何時の間にやら集まってきた観衆をすり抜け、己が搭乗する機体へと向かう。バラビェイに乗り込み、クレーン船が岸を離れたのを見計らって、屠龍が今まで以上に声を張り上げた。

「さあ、第二次選抜戦もいよいよラストフライトです! 人力飛行機のパイロット候補としては珍しいシチュエーション、五人の参加者の黒一点、双月響君! 何でも前回の一次選抜をトップで通過した実力者、現在の順位を覆せるのは、彼を置いて他にはありません!」

 それはどうかな、と、双月はコクピットシートの中で身を竦めた。薄々分かっていた事だが、前回は技術面と感性的な面を見られたのに対し、今回のセレクトで主眼に置かれたのは体力だ。他の4人は見事にそれを増強したが故、元々自分が持っていた頑強な身体というアドバンテージは、結果として薄まってしまった。

 それでも双月は、敢えて操縦技能を高める訓練に時間を費やしてきた。それが自分のディスアドバンテージだという至極シンプルな理由で。双月は第二次選抜の、その次を見据えている。だからこの戦いは、当然として勝ち抜くべく参加するのだ。

(そうさ。俺は勝つ。参加することに意義がある、負けてもいいなんて思うのは、予め逃げ口上を述べているに過ぎない。勝とうと思うからこそ、人は本当に戦う事が出来る)

 操縦桿を握る手に力が篭る。言い様の無い高揚感で双月の心が満たされて行く。そして双月は、慎重に、感触を噛み締めるように、ペダルを踏み込んだ。

 

 突如アメリアが、憑かれたように跳ね起きた。キョロキョロと周囲を見渡せば、起立して腕組みしながら湖を見遣る仲間達が居て、隣では心配げに顔を覗き込んでくる矢上が居た。

「アメリア、大丈夫?」

「記録。あたしの記録はどうだったの?」

 せっつくような問いかけに、矢上は少し口ごもったものの、顔を上げ目を見開き、己が親友にはっきりと告げた。

205.4m。現在、暫定三位」

「暫定?」

「もう落水してるけど、双月君のフライト結果がまだなのよ。見事だったわ。とても安定したフライト。操縦技術を更に上げてきているのが分かるくらい」

 二人は立ち上がって、屠龍のアナウンスを待った。落水したバラビェイのハッチが開き、機体の上でもたれるような格好で、双月も飛行結果を待っている。そして屠龍がスタッフからメモ用紙を受け取り、マイクを口元に当てた。

「只今の双月君の飛距離は、206mジャスト!」

 アメリアの双眸から、滂沱の涙が溢れ返る。それでも口の端は笑顔を作り、どうしようもない気持ちの高ぶりで、アメリアの心は一杯になった。悔しいとも、賞賛とも、安堵とも言えない、訳の分からない感情の発露。

「アメリア…」

 複雑な顔で見守る矢上に首を振って応え、アメリアは走った。岸壁を蹴って、まだ冷たい霞ヶ浦の湖に頭から飛び込む。予測不能の行動に面食らう仲間たちに向け、アメリアは彼女らしい屈託の無さで声を張り上げた。

「琵琶湖に着水したら、きっとこんな感じなのかなあ!」

 アメリアはクロールで湖面を切り、何時の間にか流れていた涙も洗い落としていた。気持ちが容易く切り替わる訳ではないが、それでも爽快な面持ちでアメリアは叫ぶ。

「頑張ろう、みんな! あたし達、まだまだ飛ぶ事が出来るんだから!」

 

 その後一頻り泳いだアメリアが、ガボボボと湖に沈んでまた引き揚げられたのはお約束通り。

 

都内・コースマス社

 

「…お前なあ、色々と金を出して今回の二次選抜をバックアップしたのは誰だと思ってんだ?」

「そんなもん、お前らの広報活動とデータ収集の経費と考えりゃトントンだろう。パイロットへの報酬は、また別の話」

 小ぢんまりとしたK社の応接室で、学院教諭の風間史浪は旧知のK社代表、弓月と面会していた。用件は金。金である。

「パイロットの皆々さんには、安全確保に随分と気を遣ったんだぜ? 万全の態勢で臨めるように、宿だって取った」

「安全を最重視するのは主催者側の義務だよな。それにお前、ありゃ一番安いCコースだったじゃねえか」

「いいよなあ、お手頃で。金の無いうちの会社にゃぴったりだよ」

 等と気の置けない世間話を装いながら、風間と弓月による丁々発止のやり取りが続いて行く。お互いが気性の似た者同、それだけに中々妥協する所までたどり着けない。しかしながら風間には、事前に連れてきておいた切り札が隣に居た。大人の駆け引きに蹴たぐりをかませるジョーカー。子供代表、神代風霞。

「代表さん、私達、とても頑張っています」

 両掌を祈るように握り締め、風霞は潤みを帯びた目で熱っぽく語る。

「対外活動が極端に制限された学校で鳥人間コンテストに出る為に、誰にも頼らず必死でお金を稼ぎました。でも、それも底が尽きそうになっています。私達には、もうバイトをしている時間はありません。図々しいお願いであるのは承知の上でお願いします。少しでも縁のある事と思われましたら、どうか助けて下さい」

「駄目。ダウト」

 煙草に火を点け、一息煙を吐き出し、弓月はつまらなそうに首を振った。

「俺は芝居が好きだが、芝居くさいのは嫌いでね。是非君の本音を聞かせてもらいたい」

「あ、そう。じゃあ遠慮は止めておくわ。開発を続ける資金が無くなったから、お金くれ」

 ズル、と隣の風間がソファに沈み込んだ。超剛速球大暴投。対して弓月は、口の端を曲げて目を細める。

「君は人力飛行機が好きなのか?」

「別に。ノリで参加してるだけ。ただ、本気を出してる連中と一緒に右往左往するのは楽しいからさあ。それにあの子達がへこむのを見て喜ぶような性癖は持ち合わせていないのよ、私」

「成る程ね。風間、お前はどうなんだ」

「俺は教諭だからな」

 少々照れ気味ではあったが、それでも風間は胸を張った。

「個人的趣向で参加している訳じゃねえ。一歩引いた所から教え子達を見守るのが俺の仕事だ。輪楔者である前に教諭として、生徒の自主性を尊びたい。そして外の世界に打って出て、色々な才能としのぎを削ろうとするあの子らの、後ろを固めてやりたい。それだけだ」

「けっ。先生なんざ、似合わねえ職を選んだもんだと思っていたけどな。取り敢えず、今回のトリコン挑戦が結果云々ではなく、子供達の成長を目的としているのは理解した。俺のポケットマネーから20万円出す」

 風間と風霞は思わず互いの顔を見合わせた。弓月は実にあっさりと承知をしたものだ。鳥人間コンテストへの参加の意義を、弓月は何より知りたかったのだ。こうなると風間が生徒を連れて行ったのは、正解の選択だったのかもしれない。風間はフンと鼻を鳴らしてニコリと笑い、しかし眉間にしわを寄せて断言した。

「安い」

「ええ!? 一人頭4万円だぜ!」

「本職のテストパイロットは、もっと高給を取るもんね」

「いやいや、本職じゃねえだろうが!」

 風間と弓月による交渉は一歩進んで振り出しに戻った。結局25万円で互いが手を打つ事になるが、これは臨時の開発費用としては、非常に大きな助けとなった。

 

公界往来実践塾・開発行動

 

<全体方針:青空つばめ 藤倉辰巳 ゲルトルード・ベーベル>

 そう、わざわざ赤城が戦闘込みの激務に就き、風間がK社に出向いて資金援助を申し出なければならない程、大渡鴉の資金繰りは圧迫されている。

 前回、安価でCFRPを量産できる体制に持ち込んだ青空つばめも、その点は十分危機感を抱いていた。何となく資金を消費していた今までの姿勢を根本から変える必要がある。所謂リストラである。日本では何故か「人員整理=クビ」という意味で通ってしまっているが、本来の意味は「組織再構成」、非常にポジティブな言葉なのだ。それに則って、青空は攻めのリストラクチャーを実現すべく、資金運用の大幅な引き締め断行を宣言。その第一歩がコレだった。

「柿の葉茶?」

「そや! 大体からして休憩の時間に紅茶なんちう瀟洒でノーブルなもんを飲んでるとこからして甘かったんや。ウチらみたいな貧乏チームには、青空家伝統の柿の葉茶で十分じゃあ! 健康にもええしな!」

「うう。紅茶は私の持参で、資金には関係ありませんでしたのに…」

 さめざめと涙するシャーリーをさて置いて、青空はとどめとばかりにお茶請けとして、パンの耳を揚げて砂糖をまぶしたものを出してきた。パンの耳を揚げて砂糖をまぶしたものは貧乏菓子として有名であるが、その割にパンの耳を揚げて砂糖をまぶしたものには正式名称が無いので、パンの耳を揚げて砂糖をまぶしたものと表記するしかない。柿の葉茶を苦々しく含み、パンの耳を揚げて砂糖をまぶしたものを齧りつつ、公界往来実践塾の教室にて、毎週恒例の全体会議が始まった。

「で、私とゲルトさんでタンデム型移行への検証を行なった訳ですが」

 壇上に立つ藤倉の切り出しは何気ないものだったが、その内容は大渡鴉にとって、言わば勝負の分かれ目とも言える重大な内容だった。

 タンデム型。つまりは現在開発している人力飛行機「レイヴンスⅡ」を二人乗りに改装するというものだ。一人乗りとして開発が続けられていたレイヴンスⅡを、今の段階から方針転換するのは確かに冒険である。藤倉は訥々と、検証結果について述べ始めた。

 まず、主翼長は35m。乾燥重量は80kg以下になる。これに人間二人が搭載される訳だ。かかる重量が大きくなれば、当然のように強度が問題になる。これをクリアする為には、今まで進めてきた開発進行速度が、ある程度遅滞する事も覚悟して作業を進めなければならない。

 しかしながら、それを補って余りある魅力がタンデムにはあるのも事実であった。加えて二人分の出力になる為、多少の風も力で乗り切る事が出来る。力配分が分散されるので、パイロットの疲労を軽減させる効果もある。つまり、高速でありながら実は長距離飛行にも向いているのだ。

「タンデムのアドバンテージとディスアドバンテージは分かったけど、もう一つ、決定的なディスアドバンテージを付け加えさせてもらうわ」

 腕組みしながら藤倉の言に聞き入っていた青空が、こめかみをカリカリと掻きながら曰く。

「資金を食う事やね。何もかもがスケールアップする分、資材はとても入用になるさかいな。資金が底を尽きかけとるタイミングで、これは危険な賭けになるで」

 それでも青空は、ひまわりのように笑ってみせた。

「まあ、資金の事は色々動いてくれとる人も居るし、ウチかって節約し倒してどうにでもしたるわ! 伊達にジャンクヤード漁って日が暮れとるワケちゃうねんし。どないでもして部品の数々を集めたるわ。さて、そろそろ烏丸はんも、何か意見を言ってくれへん?」

 と、青空はコクピットに腰掛けて目を閉じたままの烏丸弥生に声をかけた。対して烏丸は、何時もの陽気な反応をおくびにも出さず、落ち着いた声で皆々に問い掛けた。

「タンデム型に変更するという、その意義をお聞かせ願えませんでしょうか」

「…先の報告にもあった通り、湖上の変則的な風をパワーで突破する、というのが一番の目的よ」

 即座に矢上が烏丸に答えた。矢上は藤倉とゲルトルード・ベーベルがタンデム型への検証を開始した際、アドバイザ的な役割を果たしており、技術論に関しては重要な部分を担っている。

 しかし烏丸の反応は、皆の予想以上にネガティブなものだった。

「今まで本戦に出場したチームで、タンデムタイプが好記録を出した実績はありません。人力という出力的にどうしても弱い動力では、それだけに開発が困難な機体なのでしょう。今からの変更で、煮詰められるかどうか。風の影響はどのチームだって同じ事です。一人乗りというのは非常に無難な選択であります」

「でも、それはそれで結局無難な結果になってしまうんじゃないの」

 スクとゲルトルードが立ち上がった。大渡鴉に入ったのは最近でありながら、タンデムの設計に深く携わった娘だ。

「タンデムはトライアルだ。でも、大渡鴉のプロジェクトは最初からトライアルの連続だったんだろ。若輩のあたしが言えたもんじゃないかもしれないけど、機体設計を更に良いものにしようというトライアルは、結果云々よりも大事なんじゃないのか? 動ける、と考えた時点で動かなきゃ、アイデアは陳腐化してしまう。あたし自身は、やってみる価値のあるトライアルだと思うけど、どうだろう」

「それが聞きたかった」

 烏丸は満足そうに頷き、何時もの調子で皆に語りかけた。

「私自身も、タンデムのレイヴンスⅡをとても見てみたいと思っています。しかし、今は飽く迄検証段階でありますので、これより皆さんの総意を求めて、本格的にタンデム改装へ踏み出すか否かを決定致しましょう。まずは今回、どちらに転んでも良いように、機体の開発を進めようではありませんか!」

 こうして、タンデム移行への本格的な開発は、少し先に持ち越される事となった。今は十分吟味を重ね、進められる所を進めて行かねばならない。確かに今なら、まだ間に合うのだから。

 

<主翼:神代雲母>

 翼長、幅、リブ数、強度。全てのバランスを鑑みて最適の数値を机上で弾き出すのは困難な事だ。それでも神代姉妹の弟兼下僕こと神代雲母は、当プロジェクト初参加の初手から、いきなりレイヴンスⅡの主翼開発を担当する事と相成った。性格にクセの有り過ぎる二人の姉を持つ身としては、こういう根気を要する作業はそれなりに得意である。

 しかしながら雲母の顔は険しい。現状、強度云々についてはそこそこの結果となる事が分かっている。前回、風間が提示した旋回能力込みの「曲がれる翼」というコンセプトを損なわず、今のままならば相当のレベルにまで食らいつけるだろう。そう、今のままならば。

「あんたもさあ、ストレス腹に抱えてますってツラが日常になりつつあるわね、きららーん」

「姉さん、その呼び方は止めてくれませんか。それはさて置き、この翼がタンデムになった場合の強度っていうのが問題でね…」

「名づけ親を恨むがよい」

 雲母の悩みの種などお構い無しに、風霞はチクチクと黒の布地を縫い合わせていた。心なしか目が虚ろである。

「おれの手伝いもせずに、姉さんは一体何をやっているんでしょうか」

「神楽が何かマスコットの着ぐるみを作れって言うのよ。トリコンには仲間の応援を評価するサポーター部門ってのがあって、これで賞を取ると10万円になるワケ」

「へえ、結構でかいな」

「でしょ? だからカラスの着ぐるみなのよ。着ぐるみのイメージ画はこんなカンジ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「…悲しいよ、姉さん」

「うるせえ。描いていて一番悲しかったのは私だ。実際に形になったら視聴者のハートを鷲摑みの胸キュン着ぐるみにしてみせるわよ畜生。応援は、パイロットとナビ以外は全員が参加するんだから、きららーんも気張んなさいよ。応援のアイデアはプレイヤーの皆さんのアクト次第だけどさ」

 雲母は溜息をつくしかない。

 ともあれ、あまりあてにならない風霞の手伝いもあって、雲母はどうにかタンデム移行の強度計算を完了させた。既に半完成品の主翼はあるものの、これに改装を施してスケールアップさせるのは、大変と言えば大変であるが、出来ない作業ではない。強度の問題はあるものの、主翼そのものに加えてワイヤー補強を更に工夫すれば何とかなりそうだ。

 目の下にクマが浮かびつつある風霞を横目に、雲母は取り敢えず設計を纏め上げる事が出来た。後は実際の作業で細かい所の工夫を考えて行けばよい。

 

<尾翼:音羽仁壬>

「へえ。もうほとんど仕上がっているじゃないですか。一体どこに手を入れたらいいんです?」

「それを掴む為にお前に手伝って貰ってんじゃねえか。何でもいいから、技術屋の意見を言えって」

 こちらは伊賀時代からの友人同士、藤林源治と音羽仁壬が尾翼の開発にいよいよ追い込みをかけていた。

 尾翼は各パートの中でも堅実に作業が進められていたものの一つである。形状としてはV字尾翼が決定し、既にモックアップによる耐久実験も幾度か繰り返されている。確実な仕事をするのが音羽の性分である為、この辺りの慎重さが尾翼開発に功を奏したという所だろう。

 今、音羽と藤林は尾翼の完成品を前にしている。二枚翼が35度の斜型でそそり立つ姿は、比較的小規模なパートとは言えども確かな迫力があった。

「しかしこの二枚翼、通常の尾翼に比べると接着が脆くなるような気がするんですけど」

「骨組み自体はCFRPで一体成型したから、ぶん殴りでもしない限り壊れる事は、まず無い」

「一体成型って、凄い技術ですね」

「まーな。勿論俺一人じゃなく、色んな人に手伝ってもらった結果さ。何の因果か大渡鴉に参加したお陰で、妙な技術を会得したもんだぜ」

 音羽は何となく、実直に作業を続けてきた約半年を思い返していた。本当はパイロットに立候補しようと思った事もある。身体能力には自信があったし、何より小柄な体がパイロットとしては美点になると思えた。それを敢えて抑え込んだのは、ひとえに実機の開発進行を懸案したからだ。損な役回りを選んじまうもんだと考える事度々であったが、組み上げられた尾翼を見ていると、言い知れぬ充実感を覚える。

「ゲン」

「何です?」

「田舎から上京して、まさかこういうもんに関わる事になるとは思わなかったよ」

「ですね。昔の僕らは、ありきたりが日常だった。それが琵琶湖の空を飛ぶ巨大人力飛行機を作るなんて、非日常そのものだな」

「統合風紀でガチバトルなんてのも非日常だぜ」

「くちなわ谷で忍者バトルだって非日常ですよ」

 不意に、軽口を叩き合っていた藤林が、尾翼をチェックする手を止めた。

「表面加工が少し甘い」

「何だって?」

「ほら、一つ一つのリブの曲線が、綺麗に揃っていない。研磨加工に若干ではありますが、不備があった」

「成る程。これでもフィルムは貼り付けられるだろうが、たわみが生じるな。たわみが生じれば、風の流れが所々で均一とならず、空力性能が落ちる」

「強度も落ちるでしょうね。どうします、やり直します?」

「ったりめえだ。しかしそいつは、次の作業に取っておこう」

 音羽がごろんと体を横たえ、つられるように源治も床に倒れ伏した。設計と実作を二人でこなした音羽と源治は、睡眠時間を削って作業時間に充てていたのだ。今の状態で根気の要る作業の継続は厳しい。

 

<プロペラ:シャーリー・エルウィング アルフェッタ・レオーネ>

 シャーリーとアルフェッタが、互いにペラの端を持って、研磨加工の出来栄えを丹念にチェックする。これまで幾度となく繰り返された仕上げの作業だが、今回は特に念入りだった。

「…いいんじゃないの、これで」

 アルフェッタが抑えきれない笑みをこぼしながらシャーリーに問い、応えてシャーリーも晴れやかな顔で大きく頷く。

「良いと思います。これでプロペラの作業は完了しました」

 二人はペラを大事そうに作業台へ横たわせ、用意していたクラッカーを揃って炸裂させた。

 パン、と軽い音が作業室に響き渡り、シャーリーとアルフェッタがここぞとばかりに飛び上がって抱き合った。ころころと笑いながら社交ダンスのように躍り回る様は彼女達らしい屈託の無さで、作業場の仲間も呆れ半分、羨望半分で喜びが弾ける様子を見守っている。プロペラパートは他の開発パートに先駆けて、遂に全ての工程をクリアしたのだ。

 何しろ人力飛行機の重要な動力源、甘い加工を施せば機体全体の性能が大きくダウンしてしまう。しかしシャーリーの繊細さとアルフェッタの剛直さという、バランスの取れた二人で進められた工程は、プロペラ自体の完成度を高いレベルで纏め上げる事に成功した。伸びやかに描かれた外形のラインと、それに相反する強靭さは、鳥人間コンテストに参加してくるどのチームを相手にしても遅れを取らないものである。

「風霞さん、仕上げのサポート、ありがとうございました」

「源治も可変ピッチ機構製作、ご苦労様!」

 二人が満面の笑顔を此度のサポート達に向けるも、彼等は申し合わせたように、体育座りで寝息を立てていた。

「んが? 終わったの? はいはい、オツオツ」

 寝ぼけ眼を開いた風霞が、雰囲気ぶち壊しの台詞を口にする。ちなみに源治は、まだ夢の中。

「おー。可変ピッチも見事に仕上がってらー。指で曲げても動くの、これ?」

「キャーッ!? 触らないで触らないで!」

 ペラをぞんざいに手に取った風霞から、シャーリーが慌ててモノを取り上げた。下手に弄られて壊されようものなら、さすがのシャーリーも旅に出る所だ。尤も、ペラは予備を作成しておくのが常識である為、複数枚の在庫は当然のように保持している。

「しかし全てのペラを可変ピッチ対応とは、感心を通り越して平伏するわ」

「そこンとこは源治に手伝ってもらったからさ」

 アルフェッタが胸を張って鼻を高くした。

 完成したペラにおける肝と言えば、加工の美しさと共に可変ピッチ機構が挙げられる。現状、参加チームでこれを導入している所は、ほんの一握りに過ぎない。技術力を要する上に、操者が使いこなせるかが不透明であるからだ。それでも、アルフェッタは手助けがあったものの、ペラに見事な五段階構成を備え付けてみせた。駆動系統の加工もリンケージを充分に踏まえ、後はコクピットが対応してくれれば、ペラは可変ピッチを確実に実行してくれるだろう。

「残るはパイロットが扱いきれるかどうかです。こればかりは、パイロットの方の技量によりますね」

「そういう意味じゃ、タンデムで操縦の作業が分担されるってのは、可変ピッチ的には良いかもしれないね」

 完成為っても話し合いを絶やさないシャーリーとアルフェッタを余所に、風霞は再び裁縫ごとを、マスコット作成作業を開始した。タンデム案も鑑みてのペラ開発であったし、最早風霞が関与する隙は無い。だから風霞自身の仕事である裁縫に移るのも当然と言えども、本当に嫌そうな顔で仕事をなさいますね、とはシャーリーの心の声。

「皆さん、本当にご苦労様でした! 遠目から見る私でも、最高のペラだとよっくよく分かりますですよ!」

 と、離れた場所のコクピットパートから、烏丸弥生がブンブン腕を振り回して賞賛を送る。

「いえ、こちらこそ色々とアドバイスを頂けて、感謝しておりますよ!」

「後でペラを持って行くからさ! 間近でじっくりと確かめておくれよ!」

 ペラパートとコクピットパート。同じ室内とは言え、距離を置いて大声のキャッチボールを交わす彼女らを見、風霞が首を傾げた。

「何で近くに来て話さないの、アレ」

「最近、コクピットに座り続けているんですよ、彼女」

「コクピットに座りたい年頃なんだろうねえ」

「私は遠くから見守るだけで充分なんですー!」

「だから何で」

 

<フレーム:山根まどか>

 山根も開発に携わって以来、それなりの経験を積んでいるのだが、何度やってもドライバーは回しづらい。何しろペンギン羽なので。悪戦苦闘を繰り返す内、遂に山根はバテた。遂にと言うより、何回もだが。

「飽きた。藤林くん、お茶請けにパンの耳を揚げて砂糖をまぶしたものではなく、シューアイスを持ってきて頂戴」

 藤林は深々と溜息をついて、シューアイスではなくカッターナイフを取り出し、山根の着ぐるみ、掌に当たる箇所に「ちー」と切れ目を入れた。

「ぬおっ!? 中身が出たっ! スプラッターッ!」

「お願いです。普通に人間の指で作業をして下さいよ。あ、意外に手が小さい」

「いやん。そんな、恥ずかしいです」

 こうして遊び呆けているように見える二人だが、開発行動自体は着実に進行の途上である。前回、大鳥が携わっていたフレームパートはそのまま山根に引き継がれ、主に各パートとの接続を修正する作業が続行された。今の状態なら、フレームそのものは充分な強度を保っているので、各部接続のアタッチメントに手を入れるだけでフレーム開発は完了に至るだろう。

 しかし、何分作業範囲が広い。山根が藤林を呼んだとしても、全てをカバーし切るのは難しい。それでも山根は出来る範囲で努力をし、幾つかの箇所を残したものの、何とか形になる所まではこぎつけた。

「ふう、疲れた」

 ベタンと腰を下ろし、山根は汗を拭きつつ冷たい柿の葉茶を堪能する。藤林はと言えば、しかしながら難しい顔だ。

「現行のレイヴンスⅡならば、問題無い強度ですね」

「そうでしょうとも」

「アタッチメントの作業も残りはしましたが、後少し」

「うんうん」

「…しかしタンデム案が採用されたら、話は別です」

 山根は思わず湯のみを取り落とした。そう言えばそうだ。タンデム化するという事は、それだけ機体にかかる重量が増すのは当然である。屋台骨たるフレームは、一人乗りを想定して強度と重量のバランスを可能な限り狭めた、ギリギリの代物なのだ。

「過重量を念頭に置いて、更に強度を高めないといけないの?」

「そうでしょうね」

「二人分のコクピットを設置する為に、フレーム自体を延長する必要は?」

「ありますね」

「ええええ!? そんなのヤダヤダぁ! 三歩進んで二歩下がるどころか崖から真っ逆様だああ」

 床の上をゴロンゴロン転げ回る山根の様は、最早駄々っ子のようだ。と言うより、駄々っ子だ。何とか宥めすかそうと右往左往する藤林を余所に、不意に山根はピタリと止まって、何事も無かったかのようなすまし顔で立ち上がった。難儀である。

「まだタンデム案は決定事項じゃないので、取り敢えずは現状維持ね」

「はあ」

「もしタンデムに移行しても、他のパートだって終わりに近付いているんだから、人海戦術で頑張ればいいのよ!」

 山根の爛々と輝く瞳には、開き直った人間の血走った輝きが宿されている。次回も山根がフレームを担当するか否かは不明だが、漲る熱気のようなものは伝わった気がしないでもない。

 

<広報活動:大鳥雷華 燕子花満月>

 大鳥と燕子花は開発パートから離れ、広報活動に励んでいる。燕子花が先月まで継続していたOB巡りに実利的な意味合いは無かったのだが、今回は違う。OB連や各種特設校、果ては商店街なども回って、広く寄付を募るのだ。燕子花には先月より、元OBの鶺鴒皐月という協力を申し出る人が現れ、大鳥はと言えば意外な程様々な特設校に顔が利く。正に二人がかりで一気に攻めに入った按配だが、それだけ大渡鴉の財政状況は切迫しているのだった。

「いやー、色々回ったな。こんな沢山の昔の友人に会ったのは久し振りだよ」

 ここは城輪町内の公園。皐月と燕子花が初めて顔を合わせた場所。皐月が心持ち上の空で語り掛けるのを聞き入りつつ、燕子花は心の中で彼の助力に感謝した。矢張り一人でもOBを味方につけると、訪問もスムーズに運ぶものだ。ましてや彼は、人力飛行機部空中分解の原因となった旧姓烏丸弥生の夫である。むげにお引取り願う訳にもいかないだろう。

「ありがとう、皐月さん。今度はみんな、ちゃんとぼくの冊子を読んでくれたよ。それにその場でカンパをしてくれる人が居るなんて」

「気にしなくていいさ。僕もカンパした彼も、やる気を出して手伝わせてもらったのだからね。それに僕自身、君達の二次選抜戦を見たり、あれから作業場を覗いたりしてる内に、昔の熱気をちゃんと思い出せるようになった。むしろ僕の方が感謝しているよ」

 とは言うものの、皐月のポジティブを引き出したのは燕子花である。チームとしての大渡鴉がどれだけ頑張ってきたのか、離れていったOBにも知ってもらいたいという率直な気持ちが、昔の当事者の一人である皐月を動かしたのだろう。それでも、燕子花には一つの心残りがあった。

「やっぱり、弥生さんは前の通り?」

「そうだね。こればかりは、彼女の意思を尊重しないと。もう少し気長に待ってあげて欲しい。取り敢えず、例の冊子は新しいのが上がったら引き取らせてもらいたいな」

「それはもう!」

「…それでは早速、実践塾の工作室に行きましょうか。『三月烏』、最新号が仕上がったそうですよ」

 顔を上げると何時の間にか大鳥が、彼らの座るベンチの傍に立っていた。手に持っていた冊子が無い所を見ると、どうやら商店街の方で配り終えたようである。

「雷華ちゃん、どうだった? 一般向けの方は」

「残念ですけど、芳しくないですね」

 雷華が残念そうに首を振る。城輪町は基本的に、輪楔者と呼ばれる人々のみで構成されている。輪楔者はその特異能力故、みだりに外の一般社会と交わってはならないのが原則だった。無論、例外的な措置はあるものの、鳥人間コンテスト参加等というイベントは、大人の輪楔者から見ればイレギュラーそのものだろう。正式に学院の許可を得た活動であるにしても、はいそうですかと受け入れられる度量の持ち主は早々居ない。

 翻って、特設校絡みの広報は中々の感触を得られたとの話だった。大鳥の顔利きも然る事ながら、元々輪楔者としては毛色の異なる集まりである。少なくとも、否定的な対応を取られたりはしなかった。それどころか、資金援助や資材提供を申し出た所もある。

 結論として、大鳥は全方位に広報誌「三月烏」の配布を継続すべきだと判断した。2回、3回と続けて行く事で、恐らく支援者が増える事はあれど、減る事も無いだろう。

「へえ、いい話じゃない!」

「いい話なんですけどね。これから風霞さんに会うのかと思うと…。三月烏の発行、今回は製本を彼女に振ったんですよ」

「あの面倒くさがりに?」

「ええ。昨日、督促の携帯を入れましたら『みんな私の過労死を狙ってんのかあ』って叫んで電話が切れました」

「うわあ」

「そして今日、仕上がった旨を御連絡頂きました。何か、半死半生という感じで」

 等々和やかに話しながら道行は進む。公界往来実践塾に到着。

「君達の人力飛行機は、何処まで仕上がっているんだろうね?」

 前回とは打って変わり、皐月が興味津々の体で引き戸を開けた。室内には居残り作業に従事する面々、三月烏の山に埋もれた風霞と、コクピットに佇む烏丸弥生が居た。

「ああ、確か見えないんだよね」

「…弥生!?」

 呟く燕子花の機先を制し、皐月は大股でコクピットに歩み寄った。

「あら、鶺鴒君、また来てくれたんだね」

 微笑む弥生の掌を、皐月が何も言わずに掴もうとする。が、力の篭った掌は空を切るばかりだ。

「君は、弥生か。それも昔の弥生だ。烏丸弥生」

「? どうしたの? 何だか変だよ、鶺鴒君」

「変なのは今の状況だ。僕の弥生は、僕の妻である弥生は今も家に居る。君は誰だ。一体誰だ」

「ええ!? 私、結婚したんですか!? 死人に結婚の口無しと申しまして」

「取り敢えず、くだらない冗談は脇に置いておこうじゃないか」

 その後大渡烏の面々も交えて小一時間、弥生に対する質問大会が行なわれたが、彼女は首を傾げるばかりで全く要領を得なかった。鶺鴒弥生の事も包み隠さず話されるも、弥生の基本姿勢は「はっはっは、ご冗談を」で貫かれる。怪しい事この上ないが、弥生自身からは嘘の気配が見えず、訳が分からなくなるばかりだ。

 結局、混乱した面持ちで皐月は帰るしかなかったのだが、今の時点では鶺鴒弥生の方には黙っておくとの事だった。「生きている君の他にも、死んでいる君が居るのだよ」等とは口が裂けても言えまい。言えば多分、黄色い救急車を呼ばれる羽目になる。

 

学院寮・よもやま荘地下

 

 ドカンと派手に地下室の扉が開かれた。中に居るのは、故あって寮に間借りしている一般人、平田安男。鯖缶と一膳の侘しい夕食を堪能中。対するは烏丸弥生を除いた大渡烏一同。ロープやスコップを各々手にし、物騒な事この上ない。

「何でございましょうか、皆さん。俺様は夕げを静かに食したいのですが」

 さして驚きもせずに口をモグらせるのは、物事への感受性が常人に比べて何処かおかしいからだ。しかしおかしさでは大渡烏の面々も負けていない。中からズイと出て来たのは神代神楽。一応、よもやま荘のオーナーの娘である。神楽は胸元から藁半紙を取り出し、朗々と以下の如く読み上げた。

「えー、よもやま荘地下室の更に地下に、三体のオンボロ人力飛行機が隠されていると、烏丸弥生がゲロしました。迷惑千万でありますが、三機とは如何にも都合良く、これを発掘して突貫再組み立ての後、次回の正パイロット最終選考に使用する旨を、大渡鴉の総意として決定する次第であります。つきましては平田さん、立ち退いて下さい」

「…代わりの部屋は?」

「廊下とか物置があるでしょうがッ。大体知り合いの紹介だからって、一銭も払わずに滞在してるのが気に食わない! もう、何でもいいから作業開始!」

 正に問答無用の情け無用。わらわらと入ってきた面々が、さくさくと床板を引っぺがして行く。

「あれ、床板、外れ易い」

「最初から取れてたみたいだけど、何で?」

「しまった。お前ら、ちょっと待て。具合良くスペースが在ったもんだから、実は俺も隠し物を」

 慌てふためく平田の制止が届く前に、床下の広い空間がライトで照らされた。

 見えるのは、大きめのビニール袋が十数個。そして狭間に埋もれるようにして、濃緑色の死体袋が一個。平田を除く全員が総毛立った所で死体袋はムクリと起き上がり、元気良く跳ね回るのだった。

『人でありますね!? 嗚呼沢山の人でありますね!? 近頃ヤスオは生意気にも私の夜の徘徊をば阻止しようと企んでおりましてこのようなところでヒマで仕方ないので誰でも良いですから私と一緒にカンバセーションとかいうアンニューイな娯楽を楽しむひと時でありますね? すいません今のは疑問符を使うシチュエーションではなかったのでありますね?』

 其処からの阿鼻叫喚は悲惨の一語に尽きる。

 長野県、諏訪湖にて行なわれる正パイロット最終選抜戦は、こんな非常に落ち着きの無い状況でもって、火蓋が切って落とされたのである。

 

<つづく>

 






今月のアクト補足




第5回アクトフォーム




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第五回:第2リアクション:『ここが勝負の分かれ目』