あと、もう一息

 

 どうも。くちなわ谷の藤林源治です。さて、どこから見ても僕の翻意が丸出しだった御館様側への潜入から、はや数ヶ月。此度、ようやく源赤光さんが決起を実行し、自分もそれに参加したという次第です。狙いは風魔小太郎の捕縛。結果は、これまた反旗を翻した陰側が小太郎を確保し、赤光さんは死亡、後に反魂の術を施されて敵に回るという、正直言えば理想的な結末には程遠い代物でした。どらかと言えば、僕自身は小太郎捕縛の成否よりも赤光さんが生還する方を最重視していましたので、残念と言うに他はありません。

 一応、これまでの経緯を明かしておきましょうか。

 藤林竜胆が今際の際に遺した「源赤光と協力せよ」の言葉を受け、僕は今一度御館様側に入り込み、赤光さんを護衛、いざ、離反の際は手助けをするという趣旨で行動をしておりました。あの頃は向こう側も内部で色々とゴタゴタがありましたし、彼に刃が向けられる可能性もあろうと危惧した訳です。

 実の所を言えば、彼が小太郎捕縛の目論見を語った時、何とか行動を見直す事は出来ないだろうかと思ったものです。ただ離脱するだけでも相当な危険を伴うはずであり、それに加えて敵勢力中水色桔梗を除けば最強の戦力を、生かしたまま捕らえる。賭けにしては、随分分が悪いと言わざるを得ません。

 それでも事に及んだ彼の心の内を、今は知る事が出来ません。ただ、源赤光という人も、藤林竜胆と同じく忍の者であったのだろうと、僕は考えています。一つの目的の為に沈着を極め、自らの命すら手段として割り切る。対御館様勢力への痛撃と、飛騨忍軍の後継者の存在を鑑みた上で、赤光さんは賭けに打って出たのです。

 僕は普段から言うように、忍の道理が嫌いで仕方ありませんので、赤光さんや叔父貴殿のような立派な忍者にはなれそうもありません。ただ、彼らが異口同音に心を残していた浅葱丸の事は、是が非でも生存させたいと考えております。忍者ではなく、男としての筋を通す為に。

 次が最後の戦いになります。水色桔梗が完全に滅されるなら、あれに対抗する者、助力する者という敵対関係、或いは忍者達を縛り付けていたしがらみの一切が消え失せる事になります。そうなれば、残されるのは忍術と言う怪しげな伝統技能に秀でた人達の、統一されない集まりのみ。運命という度を越えた異能もありますが、これとて一代限りの代物です。

 しぶとく存えていた忍者の時代が、もうすぐ終わります。この戦いが終わったら。否、済んでいない事への願望を言うのは不吉なものですので、止めにしておきます。あと、もう一息。

 

文責:藤林源治

 

 

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