轉生糸内會事件
どう読むか一瞬躊躇するでしょ? それじゃ新字体で言い直しましょうか。
転生糸内会事件。てんしょうしないかいじけん、と読みます。
今月は糸内家で節分の豆撒きを敢行するついで、上記のアレについても調べてみた訳ですよ。案の定納谷悟郎、もとい糸内谷悟郎って名前だった現理事のお兄さんとも話しをしてね。
転生糸内会とは、大正時代に糸内奉氏が組織した、若手の輪楔者を集めて行なわれた教育・研究の為の私塾だったらしいのよ。これが関東大震災の直後、異能を持つ者達として訝しんでいた周辺住民達によって、殺戮の憂き目に合う。その最中で糸内家の人間が、つまりタニゴローの上の兄さん4人が命を落とした。これが所謂転生糸内会事件。タニゴローさんの言う事を鵜呑みにすれば、そんな所なのね。
これによって分かったのは、タニゴローさんが輪楔者でない人、つまり圧倒的多数の一般人と輪楔者が関わり合う事を、極端に恐れているって事ですね。そして輪楔者ではない谷六郎さんが理事に収まっている現状に、非常な憤りを覚えていると。そして彼等の対立軸の中心位置に居るのが、糸内得先生。恐らくは彼女が、糸内家の中でも飛び抜けて強力な運命を、或いは囁きを保持している故、その扱いについて丁々発止の駆け引きが行なわれているのが現状なんだわ。
…しかし、面白くないのよね。
何も知らされない内に糸内家の紛争に手を貸している、昼下がり特設校の在り方。ひいては周囲から完全に隔絶されたままを良しとする城輪町のシステム。私達は何者なのか、ってのを何時だったかに書いたけど、正直なとこ単なる人なんだと私は思うのよ。運命という異能を、才能として保持するだけの。その異能の及ぼす影響が極大であるから、それを克服する為にはどうすればいいのか、ってんなら私も城輪町を理解出来る。でも実際にやっている事は有形無形の管理社会形成、そして裏で進行する暗闘。自ずから悪い方へ突進してどうするんだって、私は小声で呟いてみます。
決めたわ、私。絶対城輪町から出て行ってやる。世界は運命なんか無くたって、偉大な才能で溢れていたんだもの。ホーキング博士、ガンジー、岸田今日子、モハメド・アリ、マイケル・ジョーダン、みかん農家で美味しいみかんを作る名人、果ては騒いでいる子供達を一瞬で集中させる、タケモトピアノのCM。狭い狭い、私達の居る城輪町は何て狭苦しい!
私は世界と交わって、私の努力を更に延ばしてみせる。その為には、糸内に絡む事々を含め、城輪町の在り方を変えて行かなくちゃ。次回、谷六郎理事がご来校らしいし。どう動くかは、取り敢えず思案中って事で。
才友刀さん絡みもかなり重要な話があったようだけど、それは神楽(妹)の発表に任せるとして、所で一つ気になる事があるのよ。
当日、軽い地震がありました。偶々かもしれないけど、糸内先生の囁きが発動してしまったらしい時と同じくして。転生糸内会事件の前にあった関東大震災。イコールにするのは早計かもしれない。でも、糸内先生の発動が、もっと大きいものであったなら。ぎえ。あのクラスの大震災が再現されるなんて、冗談じゃないわよ。そもそも転生糸内会事件って、本当は過去に同じ囁きが炸裂して引き起こした、関東大震災そのものの事なんじゃないの!?
…ふう。何時になく真面目に述べてしまったわ。納得先生の話のクセに。
こういう時、お茶を濁すのにもってこいなのが藤林。今月はどうでありましたか? 相変わらず活躍したのかそうでないのか、よくわかりませんっていう御返事でありましょうか。
…。
……。
おーい。
居ないの? どうしたのかしら。肉だけで生きられる事だけが取柄の大男が。もしかして、あんまり弄り過ぎて、スネちゃったのかしら?
藤林ー。御免。出来るだけからかわないからー。居ないは居ないで、ちょっと寂しい気がしないでもないのよー。
…本当何処行ったんだ藤林ー。
文責:神代風霞