藤林竜胆という男

 

 どうも。干し肉に少しヤバイ目のカビが生えてきた藤林源治です。この学院に来てから一番泣ける出来事でした。

 さて、今月は一つ秘密を明かしましょうか。

 何と、僕は、藤林家当主の藤林竜胆の甥っ子だったのです。

 

 おーい。

 

 誰か居ませんかあ?

 

 

 まあ、こんなもんです。先輩の神代風霞さんにもかの秘密をバラしてみたのですが、何しろバラした相手が悪かった。何か、汚物でも見るような目つきで開口一番、

 

だから?

 

 これだけ。まあ、そりゃそうですよねえ。竜胆さんの甥だからって、別に何か特権らしいものはありませんし、今迄通りに淡々と僕は事を進めて行くだけです。

 秘密と言えば、実は浅葱丸君は、僕の従兄弟にあたるんですよ。

 

それで?

 

 もういいですよ神代先輩。

 しかしながらそれは藤林竜胆と浅葱丸が実の親子である事を意味しており、これは一部にそれなりの衝撃を持って知れ渡る事となりました。確かに竜胆が浅葱丸に接する際の態度は、色々と不自然な箇所があったのです。基本的に私達に対して大きく介入しない竜胆が、こと浅葱丸については突出した厳しさがある。あの竜胆という男の人柄を察するに、身内とは我も同然という事なのでしょう。

 その考え方は、忍者としては正しい。しかし撫子派というものは、僕が解釈する所の忍者達ではありません。本来の忍者が是とする、任務遂行という結果の前には人格すら全否定される苛烈さが、彼らには無いのです。素晴らしい。実に、素晴らしい。

 だから藤林竜胆は、自ずから孤立を深める事になるかもしれません。無論、任務遂行第一主義者であるならば、主である撫子の決断を問題無く丸呑みとせねばならぬが必定です。しかし、彼も悪い意味で僕達の影響を受けてしまったら、これは非常に危険な事だと予想するのです。

 此度、浅葱丸が拉致されました。僕達は彼の奪還に向かって団結しなければなりません。しかし、一人だけ違う方向を向いている者が居る。藤林竜胆です。彼の動向には、注意を払うべきだと考えております。

 

文責:藤林源治

 

 

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