第0回プライベートリアクション
No.P100101 担当:lindy

「シューティングスター」

(このプライベートリアクションは、以下の行動選択肢を選ばれた方の一部希望者に
送られています)

■学院内を練り歩く
――――――――

アメリア・リンドバーグ(−・−)は、文字通り飛ぶような速さだった。
「きゃあぁぁぁ遅れちゃうぅぅぅ」
八十神学院の廊下に、彼女の声がドップラー効果を響かせつつ走り抜けていく。
衝突を恐れる生徒は思わず飛びすさる、それ以前に視認できた生徒はさりげなくよけ
る。彼女のトレードマークの、片側2本のサイドテールを速さで後ろにたなびかせ
て、頭頂部の癖っ毛が前に伸びるように、真ん中に彼女が、
「(ごめん!ひめ子ちゃん、また遅れそう!)」
今月だけで幾度目かの、本人は真剣なのだろうが実感は伴ってない懺悔の思いを呟き
ながら。
廊下を走り、角を曲がり、階段を3段4段は当たり前のように飛び降り、踊り場を手
すりに反動をつけるようにターンして。
踊り場から加速を更につけて4段飛び、5段跳び、3階から2階への階段もあとわず
か、得意の空中で手を使って体を捻って軌道修正。
その先に、事件は訪れた。
「?!」

…事故に遭う人間は、まさか自分が事故に遭うなんて、普通は思わない。
『そのとき』にアメリアの脳裏によぎったのにそんな感慨。飛行機事故に遭う人間
だって、間違っても自分が乗る飛行機が落ちるなんて予想するわけがない。などと
思ったときには、もう目の前に見知らぬ青年が立っていた。
「きゃ」
どん、とぶつかる重さ、微かな小さな金属音がしたような気がしたけれども、膝を
打ってしまって、思わず痛みで片手でおさえる。
見ると、彼女が圧し掛かるように、金髪の癖っ毛の青年が仰向けに倒れて目をしばた
たかせていた。彼女同様に腰を打ってしまったようで顔をゆがめる。

「ごめんなさい――大丈夫?!」
見ようによっては妙な誤解を受けかねない体勢で倒れてしまった二人。上から体重を
かけていた彼女が体を離して立ち上がった。と、同時に青年を見る。
線の細い、見るからに繊細そうな雰囲気。穏やかな碧色の瞳。
彼女を気遣う視線から、ただ何もせずにぶつかったわけではないのは分かった。
ひょっとしたら自分の踏み切りが危険だったのかもしれない。そうでなくても今年だ
けで既に3回も空中衝突を起こしている。大事には至らなくても、かなり馬鹿っぽく
て恥ずかしい。
たおやかな瞳は、どこか所在なげな、心ここにあらずのような微妙な質感があるよう
な。でも、その物腰は優雅で、彼の周りだけ、時間がゆっくり流れているように感じ
た。
―優しい、な。

「ヘイキ。怪我、無い?」
彼がゆっくりと腰を上げて、小首を傾げて見せる。その仕草も、さまになっている。

その立ち居振る舞いについ見入ってしまったのを慌てて打ち消すように、アメリアは
わざとオーバーな素振りで、胸に手を当ててため息をついて見せた。
「よかったぁああ……。 あ、ごめんね、人待たせてるの!」
そんな芝居がかった態度にも、許してくれるように、小さく頷く。
自分は大丈夫、気にしないでいいから、と、短く。
かめへん。
 自然に微笑み、彼女も、それを見ると頬がふと、緩んだ。
「(…いけない! 謝らなきゃ!)」
大きく頭を下げる。片側の長く下ろしたサイドテールがふわりと跳ねる。
ちらりと見た彼の上履きには、腕蜜月(かいな・みつづき)と可愛い字で書いてあっ
た。アメリカ生まれ育ちの彼女は「(うでみつげつ…?)」としか咄嗟には読めな
かったが、むしろ。
小さく綺麗に書かれたその文字が「(可愛い字。彼女の子が書いたのかな…)」と一
瞬思ったり。

顔をあげる、人目をひく金髪の髪。
彼の表情を覗き込む。痛くないかな? 大丈夫かな? そんなことを思いながら。
すると、彼は軽く片手をあげて、先をゆくように視線を泳がせた。
「(あ、そうだった…ありがとう!)」
ばっと体を翻すと、アメリアは止まってしまった時間を取り戻すかのように急いだ。

まっすぐに、行くべき先に目が向かう。足が駆け出す。

ふと、一瞬、後ろを振り向く。
彼はまだ自分を見送ってくれていた。まるで振り向くことを予想してたかのように。

そう思うと急に恥ずかしくなって、顔を見られたくなくて角を曲がった。
悪い気はなかった、不思議なくらいに。
大空を飛び続ける最中に、ふと、手ごろな高さの止まり木にしばらくだけ乗れたよう
な。
ゆっくりと穏やかな休みを取れたような、そんな気持ちだろうか。

「…また、遭えるといいな」
この一瞬の偶然を大切にしよう。きゅ、と手を胸元で握る。次に会ったときは、彼の
名前を聞こう。友達になろうよって言おう。
今までにないような、唐突で、ドラマチックな出会いが、待っているような気がし
て、どきどきと胸が躍る。

出会いはいつだって、びっくりするほど突然なのだから…。

――――――――
マスターより
・はじめまして、「運命準備委員会」プラリアマスターのlindyです。以後よろし
く。
・腕蜜月さん、アメリアの好意度ちょこっとプラスです。ただし惜しむらくは、本
人、腕さんの名前(の読み方)を知りません。今後出会うことがあったら良いのです
が。
・ちなみにBGMは「流れ星☆」(CooRie)。「成恵の世界」OPと言った方が分かり
やすいかな。
 

 

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