<西暦2007年以前:均衡の崩壊>

 全世界に情報網が張り巡らされ、昼夜の曖昧な現代都市が高速で浸透する今の時代にあって、幽霊や妖怪、それに悪魔等、「この世ならざる者」の存在は身近な恐怖譚ではなくなってしまいました。

 それでも物理科学で立証し難い怪異現象は、この時代においても途絶える事がありません。それは「この世ならざる者」が人間と強い関わりを持っているからであり、故に人の世が潰えない限りは、そうした怪異現象に終わりは無いのでしょう。

 ハンター達の活動は、この時点ではひっそりとしたものでした。彼等が相手にするのは専ら悪霊の類で、それ以外は時折妖怪の類に出くわしたりする程度だったのです。相変わらず悪魔はハンターの主敵であるのですが、これも大抵の場合は散発的な遭遇で済んでおりました。

 しかし、この年から様相が一変します。

 その高位悪魔は、一つの目的を持って現代アメリカに出現しました。曰く、「悪魔の軍勢を組織し、この世界に侵攻する」。己の欲望に剛直で、協調性という概念が存在しない悪魔としては、画期的かつ恐ろしい考えを「彼」は有していました。

 「彼」の慎重な計画は、およそ23年前から始まっていました。1歳未満の赤子に自らの邪悪な血を注ぎ込み、強力な兵士として覚醒させる。「彼」の血を受けた子供達は、成長すると様々な種の超能力が開花しました。そして「彼」は超能力者達を一箇所に集めて殺し合わせ、生き残った唯一人を己が配下とします。人の身でありながら悪魔の軍を率いる資格を持つ者、統率者が、これにて誕生したのです。

 「彼」はワイオミング州に作られた巨大結界を統率者に破らせ、結界の中央に位置する地獄の門の開放を実行しました。これによって無数の魔の者が、地獄から現世へと出現する結果となります。後はそれらを束ねられれば「彼」の目論見は粗方完了だったのですが、4人の優秀なハンターがその行く手を阻みました。

 ハンター達は統率者を倒し、不死の存在であるはずの「彼」をも抹殺し、開かれた地獄の門を再度封じる事に成功します。人類史が塗り替えられかねない危険な状況を、ハンター達は見事に防いでみせたのです。

 ただ、地獄から解き放たれた悪魔や死霊はあまりにも多く、近年では類例の無い怪異現象の大発生期を、以降から迎える事となります。次いで、倒された統率者に代わる新たな資格者が、当のハンター達の中に居たのも深刻な状況です。

 救いがあるとすれば、「彼」を完全に消滅せしめたハンター達の殊勲かもしれません。彼の名は「アザゼル」。大悪魔と呼んで差し支えない手合いです。アザゼルの消滅は、悪魔の側にとっても大きな痛手であったのは間違いないでしょう。

 

 

<西暦2008年:悪魔の跳梁>

 アザゼルが消滅してからの状況は、ハンター達にとって上から下へ引っ繰り返るような有様となりました。普通の生活を送る普通の人々にとって、それは変化として目に見えるものではありませんでしたが、特にアメリカを中心とし、これまで考えられなかったような数の悪魔を相手にしなければならなくなったのです。

 尤も悪魔の側に統率さえされなければ、低級の悪魔程度は中堅のハンターならば、個別で祓う事も可能です。勿論それは、死の危険と隣り合わせの戦いでもありますが。

 時間はかかれども、悪魔が跋扈する状況は少しずつ改善されるはずでした。何しろ地獄の門は再び閉じられましたので、大量の悪魔が新たに出てくる事はありません。それ以外に表の世界へ出現する手段としては「召喚」という策もありますが、そんな芸当が出来る人間は数えるほどしか居ません。

 ただ、地獄の門から這い出してきたのは、低級悪魔だけではありませんでした。もっと高位の悪魔が、その中でも非常に危険な手合いがハンター達の前に立ちはだかります。「リリス」です。

 リリスは、最も古くから悪魔の配下となった元人間です。元人間の出自でありながら、仕えた悪魔が強大であった事、あまりにも永く地獄にその身を置いた事などから、自身も強力な高位悪魔へと変貌を遂げました。正に邪悪の成れの果てとでも言うべき存在です。

 リリスもアザゼルと同じく、目的をもって地上へと出現しました。その一つは、アザゼルが目論んだ悪魔の軍勢を自らが引き継ぐ、というものです。存命する「統率者」を抹殺し、リリスがその立場に成り代わる。一見すると分かり易い動機であるのですが、それはリリスが企む真の目的への第一歩に過ぎなかったのです。

 明けの明星、ルシファの復活。この目論見に気付く事が出来た人間は、この時には居ませんでした。

 

 

<西暦2009年:ルシファ・ライジング>

 ルシファが神によって地獄に叩き落とされ、施された封印の数は66。

 リリスはそれらの封印を着々と破って行きました。そしてルシファの復活がいよいよ現実味を帯びた時点で、対処に動き始めたのはハンター達が最初ではありません。天使達です。

 天使は一部のハンターにその事実を告げ、悪魔との戦いの準備を始めます。ただ、既にお分かりの方も居られると思いますが、天使は神の下で秩序を執行する存在です。決して人間を守る為に現れた訳ではありません。

 加えて天使には、悪魔との戦い以外にもすべき仕事がありました。彼らの世界から居なくなってしまった、彼らの主、神の探索。このように人と天使が共闘の態勢にならない状況下において、差し迫る危機に対抗出来るのは、矢張りハンター自身という事になってしまいます。紆余曲折を経てリリスとの戦いは、ハンターであり「統率者」である者との一騎打ちという形に持ち込まれました。

 かつてアザゼルが「統率者」に付与した異能は、時間と共に強力なものとなっていました。その力は、人間でありながらリリスを圧倒出来る程だったのです。

 思えばアザゼルが悪魔の軍勢なるものを、易々と普通の人間に束ねさせるはずはありませんでした。「統率者」の体は、限りなく悪魔に馴染む体に作り変えられていた、という訳です。魔王、ルシファすら受け入れられる器そのものに。

 結局リリスは「統率者」によって消滅させられましたが、皮肉な事に、そのリリスの命こそが最後の封印でした。ルシファは悪魔達が望んだ通りに、復活を遂げました。

 

 今もって、ルシファと「統率者」は一体となっていません。彼らを巡る死闘は天使や悪魔を巻き込んで、今日もアメリカの何処かで続いています。その戦いに如何なる決があるのかは、未だ見えない状況です。

 ただ、全米各地で怪異現象が勢いを増している昨今、ハンターとしてはこれに対処する必要があります。平穏な日常の維持は、悪魔に対する最大のカウンターです。まずは出来る範囲で対応する。ハンター達は現在、その認識で一致しています。

 

 そんな中、サンフランシスコに特異な事態が起こっているとの情報が、ハンター達の耳に入ってきました。

 悪魔が跳梁する今にあっても、ある特定の街で二つ以上の怪異現象が発生するのは、極めて稀な事です。たとえサンフランシスコのような大都市であっても例外ではありません。

 しかしサンフランシスコで発生している事件は複数に跨っている、との事です。非常に不自然であり、それは悪魔の大規模な関与を強く疑わせる事象でした。そしてこれに対処するには、人手が全く足りません。事件一つ解決に導く事すら、大変な労力を要するものなのに。

 都合、ハンター達は続々とサンフランシスコへの集結を開始しました。基本一匹狼のハンターが一つの都市にそれ程集まるのも大変珍しい事です。それもサンフランシスコの深刻さを表す、ある意味で証左なのかもしれません。

 

 

 

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