「この世ならざる者」に深く関わる組織としては、ハンターと吸血鬼のそれが2種類存在します。

 しかしそれら以外にも、サンフランシスコで発生する怪異現象に有形無形で関わる人々が居るのです。

 以下ではPCが所属する2つの組織と、彼らを取り巻く団体について紹介して参ります。

 

 

ハンター酒場 <ジェイズ・ゲストハウス>

【住所 : テンダーロイン地区】

 市内のほぼ中心に位置するテンダーロイン地区は、サンフランシスコでも特に治安の悪い地域の1つです。ヤク中や違法薬物の売人が闊歩するこの地域が、実はサンフランシスコにおけるハンターの拠点でもあります。

 入居者のいない古びた3階建て雑居ビルの1階。浮浪者や犯罪者が入って来られないよう固く厳重に閉ざされた扉が、ハンター酒場「ジェイズ」の入り口です。

 表看板の出ていないこの店に、一般客が入る事はありません。扉は呪的に鍵を掛けられており、ハンター同士しか教えられていない間合いと回数でノックを打つと、術が解除されて扉が開く仕組みになっています。ビル全体が霊的な結界で防御され、悪魔や悪霊の類はビルに近付く事すら出来ません。結界の能力を凌駕する大悪魔が出現した場合は、その限りではありませんが。

 禁酒法時代の闇酒場をモチーフにした店内は、マスターであるジェイコブ・ニールセンの趣味による産物です。薄暗い店内にへし折れそうなテーブルとチェアが数点。ビリヤード台。蹴りを入れられて側面がへこんだピンボール。カウンターの鈍い光沢。ずらりと並ぶウィスキー、バーボン。どれを取っても、ちょっと味のある酒場の風情です。

 勿論、酒や簡単な食事も楽しめますが、「ジェイズ」にハンターが来る目的は主として情報交換と装備調達の為です。ハンター達は狩の区切り毎に酒場へ訪れ、次の手段の模索や物品の準備を行なっています。酒場では闇ルートで仕入れた銃砲、刀剣、「この世ならざる者」に対抗出来るアイテム類の購入が出来ます。

 2階から上の空き部屋は、ジェイコブに頼めば無料で宿泊出来ます。霊的防御が施されていて安全と言えばその通りなのですが、決して広くない部屋は殺風景なうえにろくすっぽ掃除されておらず、最悪な事にベッドがありません。多少金を使ってでも、郊外の安モーテルに泊まった方が体は休められそうです。

 基本的に個人行動を取るハンターは、マスターから寄せられる情報を大いに頼りにしています。新しい展開があるかもしれませんし、なるべく「ジェイズ」には足繁く通うべきです。

 ついでに、寄付金が「ジェイズ」を通して、ある程度ハンターに支給されます。しかし武器類を揃えるには、はっきり言って心許ない金額です。マスターから紹介されるアルバイトは、まめにやっておいた方がいいでしょう。

 

 

吸血鬼組織 <ノブレム>

【住所 : ミッション地区】

 綴りは「noblem」。レノーラを首魁としたノブレムの前身たる吸血鬼集団は、1年ほど前にサンフランシスコへと流れ着きました。別の「酒場」を通して「ジェイズ」に彼らの安全性が伝えられ、この大都市で彼らはようやく安住の地を手に入れる事が出来たのです。今はレノーラの呼びかけに応じた吸血鬼達が寄り添い合い、ノブレムが結成されて今に至ります。

 彼らのアジトがあるミッション地区はヒスパニック系の住人が大半を占めており、昼の間はラテン情緒に満ちた明るい雰囲気を醸しています。夜は案の定、治安がかなりよろしくないのですが、吸血鬼達の力はギャング風情など問題にしませんので、彼らが住む分には十分安全な所です。

 2階建てパブリックハウジングに1人1部屋ずつ割り当てられ、吸血鬼達は一般市民と同化して生活しています。こうして人気の多い場所に身を置くのは、ハンターからの攻撃を受け難くする為なのです。「ノブレム」と「ジェイズ」は不戦協定を結んでおりますが、矢張りハンターはハンターです。一匹狼の傾向が強い彼らを全面的に信じる程、ノブレムは能天気ではありません。

 ノブレムが構成する集団は、蟻の社会に似ています。現在女王蟻の立ち位置には、女帝級の吸血鬼、レノーラが就いており、彼らの巣である住居は兵隊蟻、戦士級達が護衛しています。そんな彼らの生活を支えているのが働き蟻、月給取りなのです。月給取りとは随分暢気な階級名ですが、人間と共に働いてお金を稼ぐなど、凶暴な傾向が強い戦士級では中々出来ない事ですから、彼らはとても大事に護られています。パブリックハウジングだって、タダではありません。電気やガスが止まると、人の社会で暮らす吸血鬼もそれなりに困るのです。

 ノブレムの存在目的は、とにもかくにも人間と敵対せずに「生存」する事です。その為に人間への吸血をやめ、極めて屈辱的な牛の血を代替食料とし、ハンター側の意向にもかなりの部分で譲歩しています。しかし吸血鬼と人間には、捕食者と被捕食者という圧倒的に埋め難い差があります。その差を完全に無視するレノーラは、実は吸血鬼にとって異常な存在でした。一旦は仲間になったノブレムの吸血鬼達の中にも、次第に彼女への不満を露にする者が出始め、近頃は結成時の結束に綻びが見え始めている有様です。

 この現実を前にして、レノーラは仲間達に自らの夢を語りました。こうして吸血鬼を集めて、何故ノブレムを結成したのかを踏まえて、彼女は次のように言いました。

『私達は、人間に戻れるかもしれない』

 

 

サンフランシスコ市警察

 街の平和を維持するサンフランシスコ市警察(SFPD)は、市民にとってお馴染みの存在です。全米有数の大都市であるにも関わらず、サンフランシスコにおいて比較的凶悪犯罪が少ないのは、ひとえに彼らの奉仕の賜物だと言えましょう。SFPDは給料面でも優遇されていて、荒廃した街によくある警官の汚職とも無縁です。加えて市警察特殊部隊のSWATは精強で知られており、倫理、攻守共にハイレベルな、サンフランシスコにおける最強の組織。それがSFPDなのです。ただし、表の世界においてですが。

 裏の世界、つまり「この世ならざる者」が暗躍する世界において、彼らの戦闘力は残念ながら通用しません。事件捜査の延長線で、裏の世界に入り込んでしまった警察官も少なからず居ましたが、軒並み死ぬか破滅するか、何れか2つの結末を迎える羽目になりました。何故そのようになってしまったのかを突き止めるノウハウもありませんので、今に至るもSFPDは「この世ならざる者」に対抗する力を持っておりません。

 しかし裏の世界との関わりから、たった1人だけ辛くも生き延びた警察官が居ます。彼の名はジョン・マクベティ。SFPDの警部補です。彼はその戦いの過程で「この世ならざる者」と「ハンター」の存在を知りました。そして、自分の培ってきた知恵と経験では、裏の世界の戦いに介入出来ない事も。

 そこでマクベティ警部補は、個人の責任の範囲内で事件情報を、「ジェイズ」を通じてハンターに提供するようになりました。勿論一般人への捜査情報漏洩は完全な違法行為ですから、マクベティ警部補の治安維持に対する気構えがお分かり頂けると思います。無理のない限り、彼に頼めば様々な手助けもしてくれるでしょう。ですから、多少の違法行為に目をつむって貰えるのをいい事に、極端な犯罪行為に手を染めてはいけません。さもないと、折角の味方を強大な敵にするのはおろか、仲間内のハンターからも見捨てられる事になるでしょう。

 ちなみに、マクベティ警部補は「ノブレム」の存在も知っています。スタンスとしてはジェイズと同じです。彼らに対しては静観の構えを取っています。

 

 

チャイニーズマフィア<庸>

 あなたは観光でチャイナタウンを訪れました。しかし雑然とした雰囲気に呑まれて、次第に表通りから外れた場所を歩く羽目になっています。後ろ暗くなる街の雰囲気に焦りを覚え始めた頃、あなたの肩を誰かが掴みました。彼はあなたに言います。『ここから先は、あまり良くない場所だから表に戻りなさい』。彼に連れられてあなたは無事に表通りへ帰りました。あなたを引き止めてくれた彼は、何時の間にか雑踏に消えています。親切なチャイナタウンの住民か、或いはチャイナタウンを仕切るマフィア「庸」の構成員だったのかもしれません。

 中華系マフィアは、ほんの数十年前まで、ここサンフランシスコにおいて組織間の武力闘争に明け暮れていました。それらを制圧・統一し、支配下に置いたのが庸です。庸は今でも強力な武闘派組織で、SFPDの厳しい監視下に置かれています。ただ、現在の庸は中国大陸との交易やタウンのみかじめ料を主な収入源としており、極度に違法性の高い犯罪行為には手を染めていません。みかじめ料にしても、経営難で支払いが滞る店主には気長に待つ事もしますし、他の仕事を回しもします。病気等で本当に苦しい時は、みかじめ料の取り立て自体を中止さえするのです。庸は本来の意味でマフィアが成立した互助団体の性格を、現代において復活させようとしている訳です。チャイナタウンの収入向上の為、治安維持にも目を光らせており、都合タウンの住民からも深く信頼されています。それらは組織の首魁である大人、京禄堂(けい・ろくどう)の意向に拠るものです。

 京大人は庸の構成員の中に「ジェイズ」と繋がっている者が居る事を容認しています。自分達の力が及ばない相手と戦い、ひいては地域の治安を護るハンターを、感知しない範囲で利用している訳です。ですから京大人自身、そして庸という組織自体はハンターを積極的にバックアップする事はありません。悪魔を相手にするのは、SFPDと真っ向から激突するよりも恐ろしいと承知しているからなのです。ついで「ノブレム」に関しては、活動地域が異なる為か、ほとんど繋がりを持っていません。ただ、そういう集団が居る事は京大人も知っています。

 

 

イタリアンマフィア<ガレッサ・ファミリー>

 イタリアンマフィアと言えば、東海岸やシカゴあたりで猛威を奮っていた時代が有名ですが、ここサンフランシスコにおいても一定の基盤がありました。しかし米国内において組織全体が衰退化する中、サンフランシスコで組織を名乗るのは「ガレッサ・ファミリー」のみとなりました。

 ガレッサは中規模の土木建築会社「ガレッサBld」を運営しており、傍目にはマフィアである事を全く伺えません。否、既に自分達がマフィアであるという自覚すら、ファミリーの中では希薄になっている者さえいます。事実、100人程度の従業員の中で、マフィアの構成員は10人にも満たないのです。その他大勢は、普通に会社勤めをしている一般市民。昔とは異なり、ガレッサの存在はSFPDからすっかり忘れ去られてしまいました。

 しかしながらファミリーのドン、と言うよりビッグママ、更に言うなら若き女性社長のシルヴィア・ガレッサは、栄光のガレッサ・ファミリーが普通の会社になりつつある現状に地団駄を踏んでいる有様です。普段から「何かマフィア的な事をやらねば」と模索しているのですが、根が善良な為か、やる事はせいぜい喧嘩の強そうな部下を引き連れ、睨みを効かせながら街を闊歩するくらいです。これはこれで治安の維持にとても役立っており、シルヴィアお嬢さんのボランティア活動として、地域の人からは大変喜ばれています。

 そんな訳で「ジェイズ」への協力は「如何にもマフィア的」という事で、シルヴィア自身が大変乗り気で行なっています。違法物品の密輸ルートとの繋がりは今も存在しているのですが、実はガレッサが現状においてもマフィアのカテゴリーに位置するのはこの為なのです。リーマンショック時の大不況も、密輸という副業のおかげでガレッサBldは乗り切る事が出来ました。密輸に関して言えば、シルヴィアはほとんど関与していません。全て1人の古株によって仕切られています。

 事実上、ガレッサBldの運営を管理しているのは、先代からの配下、マルセロ・ビアンキ専務です。ビアンキは一見すると柔和な老紳士の風情で、なおかつ社員達の面倒見も良い好々爺ですが、荒事には狡猾な知性で処し、自身もその歳にして化け物じみた強さを誇っています。「庸」の京大人もビアンキには重々注意しており、ガレッサとは絶対に事を構えるなと配下に厳命する程警戒しています。

 そんなビアンキも孫のようなシルヴィアには甘々で、「酒場」で余計な事に首を突っ込む彼女を心配する毎日です。が、今日も今日とてシルヴィアは、「酒場」協力者の社員と共にジェイズへと足を運んでいます。

 

 

市民団体<ル・マーサ>

 ミッション地区に程近い、ヘイト・アシュベリを拠点とする「ル・マーサ」は、ほんの1ヶ月ほど前に出来たばかりの新興市民団体です。マーサのリーダーは、元ミッション・ドロレスの教会のシスター、カロリナ・エストラーダが務めています。

 カロリナは「宣託を受けた」という理由で教会を辞しました。それからル・マーサという団体を立ち上げた経緯については、よく分かっていません。このように書くと如何にも胡散臭い新興宗教団体の臭いがするのですが、カロリナはマーサの会員に違法な詐欺行為を働いた事はありません。一応、彼女は会員の寄付金で生活をしてはいても、暮らし振りは極めて質素で、寄付金のほとんどは活動資金やボランティアに充当されているという健全振りです。

 マーサは何らかの倫理観念や価値観を押し付けるような事はしておらず、ただ、皆で共に正しく暮らそう、というのが活動の主たる目的です。団体としてやっている事はと言えば、カロリナによる会員を集めての講話、清掃活動、ホームレスへの炊き出し、バザーの催しなど。何処にでもあるまともな慈善団体と、何ら変わりはありません。

 それでもマーサは、着々と会員数を増やしつつあります。それと言いますのも、どれ程人格的に欠落した粗暴な人間であっても、マーサに入会すると不思議な事に、その傾向が収まって大人しい人柄になるからです。カロリナが素晴らしい人格者で、彼女に感化されて悪党も真人間になれるのだと、周辺住民の間では高く評価されています。

 事実、カロリナの語り口はとても魅力的です。まだ歳若い彼女ですが、その魅力の一端に興味がありましたら、ヘイト・アシュベリに足を運んでみるのもいいでしょう。

 

 

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