さて、ゾンビです。

 かの有名なロメロ映画のおかげで、「死体が動けば、皆ゾンビ」というくらい世界的知名度を持つこの世ならざる者、ゾンビは、その種別が余りにも多く、ゾンビという枠の中だけで解説をするのが非常に困難なのです。

 本来はハイチの土着宗教であるところのブゥードゥ教にある、死体を労働者として使役する禁術からゾンビは来ているのですが、私のような欧米人が拠り所とするキリスト教とも奇妙な合致があり、とにかく動く死体はゾンビである、という具沢山のスクランブルエッグのような状況に陥っているのが、昨今の状況です。黙示録の予兆、死人がよみがえるという奴ですね。ロメロの「Dawn of the dead」も明確に黙示録を意識していました。破滅への情緒に満ちた残酷で美しい映画でしたが、実際にハンターが相手をする状況では、そんな事は言っていられません。

 

ゾンビの成り立ち

 ブードゥ由来のゾンビは無害なものです。死体を起こして働かせるという酷い仕打ちではありますが、ゾンビそのものは黙々と労働をするだけで、人間を襲うような事はありません。ただ、術者がそのような命令を行えば話は別ですが、そういう状況は極めて稀でありましたし、昨今は当の禁術を使える人などはほとんど残っていません。

 問題は別の要因で死体が動いた場合です。

 先に申しました黙示録の予兆については、これはゾンビへの対処云々以前の問題になってきますので、ここでは言及するのをやめておきます。考えただけでも恐ろしいですし。

 現代世界において死体を動かせる術を持つ者が居るとすれば、やはり悪魔を外す事は出来ないでしょう。それも第二級、Yclassis、元天使だった悪魔のレベルが行使する異能です。

 天使は人間の生と死に影響を及ぼす力を持つ者がほとんどです。力が強い天使ならば、死人を生き返らせる事すらやってのけるでしょう。その力を醜い心同様に捻じ曲げた代物が、Yclassisが作り出すゾンビなのだと私は解釈しています。

 死体を動かし、使役し、悪魔が何を狙ってくるかは千差万別でありますが、何れにしても人間の尊厳をないがしろにした、悪魔らしい下劣な所業と言えますね。

 

ゾンビへの対処

 ロメロ映画であまりにも有名な「脳天を撃ち抜けば動作が止まる」は、実際のところほとんど効果がありません。

 考えてみましょう。相手は死体であり、つまり身体機能の全てが死んでいる訳です。あの映画では死体とは言え、人間同様に脳から神経を通して信号が伝達し、筋肉が稼動するという前提でありましたが、そもそも死体は脳細胞が機能していません。例えば悪魔が行使する術は、糸の無い操り人形を動かしているようなものと言えますね。

 ですから銃器で全身を穴だらけにしようが、彼らは動けるだけの腐った筋肉が残っていれば、とことん動いてきます。何しろ腐っていますから、大した力も無ければ動きもとろいの一語です。その気持ち悪い外見に怯まない限り、実は一般人でもどうにかなる手合いなのです、ゾンビという奴は。

 以下、対処方法を3点ほど記します。

・手足をバラバラに切り刻む。

 幾ら死体が動こうが、手と足が無ければゾンビは単なる腐った肉の塊です。それでも多少は動くでしょうが、その間に土に埋めて放置すれば、何れ自然分解されるでしょう。

・燃やす。

 ゾンビは操られているとは言え、心許ない筋肉を元にして稼動します。ならば、筋肉全体に決定的なダメージを与えるのが得策でしょう。つまり、ガソリンをかけて燃やします。ゾンビは火を点けられても痛みという概念が一切ありませんから、しばらくは動いてくるでしょう。それでも数分後には確実に崩れ落ちているはずです。

・術者を殺す。

 最も確実な方法は、死体をゾンビにして動かしている張本人を仕留める事です。そうすれば術が解け、ゾンビは本来の動かない死体に戻る事でしょう。

 しかしながら、これは最も危険な手段でもあります。先に書きました通り、術者はYclassisの悪魔です。これを葬り去るくらいならば、素直にゾンビを火炙りにした方が無難です。

 

 

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この世ならざる者達:『ゾンビ』