ノブレムがサンフランシスコに居を構える、これは少し前の事。

 

「おまえ達の事は、予め知っていました」

 夜明け前、仕事帰りの道を塞いだ2人の男に向け、ジュヌヴィエーヴは冷静に告げた。

「サクラメントは静かな街ですからね。ちょっとした不審者が居ると、巷の意外なところで結構話題になるのです。おまえ達には、どう取り繕っても荒んだ雰囲気がありましたからね。おまえ達の存在が何となく街の人達の噂話になって、直ぐに私達も気付きましたよ。ハンターが来たって。おまえ達の行動は筒抜けでした。私達が見張らずとも、ありとあらゆる監視の目がこの街にはある。私はそれを聞きながら、おまえ達が私達の住処を突き止める一部始終を知る事が出来ました。それにしても、何故です? 最初は私達だってそうでした。集団で越してきた妙な異邦人扱いですよ。私は奇異なものを見るような目をやめて貰う為に、必死で人間の社会に溶け込もうとしました。それに引き換えおまえ達は何なんです? ハンターだって、人間でしょうに。どうしてそうまでして、社会から隔絶されようとするのですか。吸血鬼ですら、必死で共生の道を探ろうとしているのに」

 ハンター達はジュヌヴィエーヴの訴えかけを一通り聞いていたが、各々顔を見合わせて分からない顔になった。

「この吸血鬼は何を言っているんだ?」

「彼女は俺達を説得しようとしている。一体どういうつもりで」

「耳を貸すな。相手は人の血を貪る化け物だぞ。こいつの仲間が嗅ぎつける前に仕留める。見たところ、大した手合いじゃない」

「そう、私は大した事はありません」

 ジューヌは頭を振って、悲しげに言った。

「私は集団における働き蟻のようなものです。恐らく腕利きのハンターの前では、何の抗いも出来ず首を斬られてしまうでしょう。でも、よくよくお考えなさい。私は人間同士の繋がりに加わり、情報を拾い集め、おまえ達の出方を見極め、こうしてここで待ち伏せされる事も知っていたのですよ。働き蟻でも、警報を出すくらいの事は出来ます」

 その言葉の意味するところを知り、ハンター達の顔が青ざめた。

 ゆっくりと後ろに下がるジューヌと入れ替わるように、通りの両端から2つの影が暗闇の中に浮かび上がる。

「降伏しろ。そうすれば危害は加えん」

「気が進まないなら無理せず降伏するな。お前らを八つ裂きにするお題目が立つからねえ」

 ジューヌよりも遥かに危険な2人の吸血鬼が、街灯の下でその姿を現した。

 

 

 

<判定者より:月給取りの役割>

 月給取りの役回りは、何と言っても人間との交流です。彼らは人間相手に面と向かっても、吸血衝動が全く発生しないという特徴があります。他の戦士級の場合は少なからぬ確率で吸血衝動をチェックする判定が入りますので、街で聞き込みや調べもの、対人折衝をする為には月給取りの力が必要となります。

 そしてもう一つ、実は月給取りには重要な役目が将来待ち受けています。それが何なのかは、話が進行するにつれて、明らかになってくるでしょう。

 

 

 

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この世ならざる者の戦い:『月給取り』