この世ならざる者は、たいていの場合私達が昔話で伝え聞いた魑魅魍魎の類が含まれています。しかしながら、その多くは言い伝えられた姿にそぐわない場合が多いのです。例えば実際の吸血鬼などは、弱点とされていたものはほとんど通用しませんし、容姿に至ってはほとんど人型肉食獣と言って差し支えなく、小説に出ているような耽美な趣は皆無です。

 その中にあって、人狼だけはほとんど伝承通りのセオリーを伴って、ハンター達の前に現れてくれます。そのうえ人狼は、その知名度の割にとても希少な存在で、ハンターの中には彼らと戦う事を大変な名誉に感じる者さえ居る始末です。

 尤も、実際に人狼と出会ってしまったら、そんな思い上がりは消し飛んでしまうでしょう。何しろ本物の人狼は、これも伝承通りの恐るべき手合いなのです。

 

人狼の成り立ち

 人が獣の姿を取る伝承は世界中に存在しており、その代表格とも言えるのが人狼です。

 人狼を実在しないものとする学術的解釈においては、欧州の森林開拓のさなかに人間と戦った狼を、恐怖する過程において作られた伝説、という事になっています。狼は悪魔の化身と考えられ、カソリック的な教義に反している者、破戒者などが人狼のレッテルを貼られて社会から追放される事象も多々ありました。つまり人狼は欧州に発生の起源があると考えて差し支えないでしょう。欧州ほど、人間と狼が敵対した地域は他にありませんから(人間が一方的に敵意を向けただけ、とも言えますが)。

 それでは何故人狼なるものが、伝承から飛び出して実際に誕生したのか、実はその原因については全く分かっていません。ただ、銀を弱点とする点を鑑みますと、色々と想像出来るところがあります。

 銀は霊的に不浄なものを清める物質です。つまり人狼は、自身の存在を不浄のものとするファクターを内包しています。ここからはあくまで想像の範疇ですが、人狼は不浄な存在に呪いをかけられた人間だったのかもしれません。優先的に人間を殺戮し、かろうじて生き残った人間も、噛み付かれていれば人狼に変化してしまうという、一連の特徴には陰湿な悪意が感じられます。種々の特徴があまりにも伝説に則り過ぎている点も、何か作為的なものを想像せずにはいられません。

 こういったやり口の数々は、とても悪魔の所行に似ていると思いませんか?

 

人狼への対処

 人狼の弱点は、皆さんもよく知っていると思います。前掲しました、銀だけが人狼に致命傷を与え得る物質なのです。銀を身体の重要器官に、最も効果的な部位は心臓ですが、これを捩じ込む事で人狼は完全に息の根が止まります。有名なところでシルバーバレットがありますね。勿論、銀製の携行武器でも効果はあります。ただし銀の弾丸ばかりが名を知られているには理由がありまして、つまり接近戦で銀を人狼に突き立てる事が限りなく難しいからなのです。

 率直に言って多くの人狼は、地球上のあらゆる猫科肉食獣を凌駕する強さを誇っています。戦士級吸血鬼の中堅クラスで、ようやく五分といった具合です。余程の技量を持つ高位ハンターでもない限り、距離を置いて銀の弾丸を使う事を強くお勧めします。勿論、途方もなく素早い人狼に弾を当てるのも、相当な技術を要するかと思いますが。

 ですから一番安楽な手段は、人狼が人間の姿の際に仕留めてしまう事です。

 人狼は、これも有名な伝承の通り、満月の夜にしか変身しません。つまり満月の夜以外はと言えば、ありきたりな普通の人間でしかないのです。この世ならざる者との尋常ではない戦いを経験しているハンターにとって、それは造作も無い仕事になるでしょう。

 ただし人狼は自分が人狼である事を、人間である時は知らない場合が大半なのです。頭では人狼だと分かっている目の前の者は、一方では普通の人間とも言えます。割り切って処断する決意が、人狼との戦いには求められるでしょう。

 補足しておきますが、もしも人狼に噛まれてしまったなら、強力な浄化の術を有するガーディアンを死に物狂いで探して下さい。もしもそんな救い主が見つからなかった時は、満月の夜が来る前に、自分自身に決着をつけねばならないでしょう。相手が子供だろうが構わず食い殺す、醜悪な怪物になりたくなければ。

 ただ、ほんのひと握りではありますが、変身しても理性を保てる人狼がこの世には存在するらしいのです。果たして理性を保てる事が、人狼に成り果てた人間にとって、幸いであると言えるかどうかは分かりませんが。

 

 

 

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この世ならざる者達:『人狼』