2人のハンターに、男女の吸血鬼。男の名はイーライ。女はフレイア。ハンター達は申し合わせて、吸血鬼の首を刈り取る為の大型ナイフを鞘から抜いた。

 少数のハンター相手に集団戦を挑んでくるのが吸血鬼の常套手段だが、彼らはハンターの人数に合わせてきた。戦士級であるのは間違いないが、相当の強さを覚悟した方がいい。2人のハンターは、互いの背中を護る形で身構えた。

「フレイア、絶対に殺すな」

 と、イーライが呟く。フレイアは舌を打って応える。

「殺しゃしない。生かしたままの方が、血は断然旨い」

「ふざけるな」

「私は本気だ」

 イーライが鉄パイプを杖のように携えた。フレイアはチェーンを掴み、だらしなくアスファルトに垂らす。まるでくだらないチンピラ風情の獲物だが、使うのは戦士級の吸血鬼である。自分達にとって危険極まりない凶器になる事は、ハンター自身も重々承知していた。僅かな間、空白の時間が出来る。

 先に動いたのは吸血鬼だった。人気の無くなったビルの通りを、両サイドから吸血鬼が壁を這うように駆け上る。ハンターの連携を寸断するべく、それ以上の連携でイーライとフレイアは相手の死角から襲い掛かった。鉄パイプの一撃は受け流された。しかしチェーンがナイフに巻き付き、絡め取る。フレイアの相手は、ハンターとしてはまだ経験が少なそうだ。その弱みを吸血鬼達は見逃さなかった。

 イーライの鉄パイプがナイフと格闘戦を繰り広げる。これでベテランのハンターはルーキーのヘルプが出来ない。

 フレイアが地を蹴り、街灯に取り付き、ビルの壁に飛ぶ。チェーンはルーキーのナイフを捕らえたままだ。猿の如く飛び回るフレイアの高速機動に、ルーキーの目は全く追いついていない。戦士級の攻勢は剛直だ。破格の身体能力を惜しげもなく披露し、速度と力で圧倒する正攻法の戦い方を彼らは好む。何時の間にか距離を詰めていたフレイアが、彼をあっという間に押し倒した。

 後頭部をしたたかに打ち、ルーキーの思考が一瞬飛んだ。持ち直して見開いた目が、変形を始めたフレイアの顎部を見る。

 率直に言って、それは醜悪だった。上と下の顎から、普通の歯とは違う無数の牙がぞろぞろと生え揃う。顎全体の形が変化し、長大な牙に合わせて口全体が、そんなはずは無いのだが顔を覆わんばかりに見えた。ルーキーは恐怖のあまり身動きが取れなくなった。これは吸血鬼の捕食変形だ。

 苦し紛れに、彼は腰の予備ナイフを抜いてフレイアの左目に押し込んだ。深々と彼女の目に突き刺さったナイフは、しかし瞬く間に押し戻され、アスファルトに転がり落ちた。そして深刻なはずの眼球の刺傷は、有り得ぬ速度で回復する。フレイアがニタリと哂った。万事休す。

「お前、美味しそう」

「やめろ、フレイア!」

 身を翻そうとするベテランを抑え込みながら、イーライがフレイアに怒鳴りつける。対して彼女は聞く耳を持っていなかった。

「誰がやめるものかよ」

「フレイア、やめなさい」

 唐突に横合いから声が発せられた。それを聞き、フレイアは弾かれたようにルーキーから飛び退く。

 何時の間にか彼らの間近に、4人目の吸血鬼が居た。

 

 

 

<判定者より:戦士の役割>

 ノブレムにおける荒事担当、兵隊蟻に相当するのが戦士級です。

 戦士級の力は、最早かつての人間の面影を残していません。また別の意味で、人間とは全く別の生き物になったと言っても過言ではないでしょう。

 その運動神経と速度、単純な腕力は、人間よりも肉食の猛獣と比較すべきです。破格の力に任せた大攻勢は圧巻の一語で、人間は元より強力な「この世ならざる者」相手でも、終始優勢に戦いを進められるでしょう。ただし、この世ならざる者を滅する力は彼らにありませんが。

 素手でも十分強力な戦士級ですが、それでも何か武器を持つ事を推奨致します。鬼に金棒という言葉の意味を、相手は身に染みて知る事になるでしょう。

 気をつけねばならないのは、人間とのコミュニケーション能力が著しく欠ける点です。素晴らしい力がありながら、先の展開でこの欠点は、色々と厄介になるかもしれません。

 

 

 

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この世ならざる者の戦い:『戦士』