かの偉大なるヴラド公からの依頼をうけての項目執筆である。私としても実に光栄な事だ。

 様々な種類のこの世ならざる者達が跋扈するサンフランシスコにあって、このティターンという奴は突出した化け物ではあるな。理由は突出してでかいからだ。マティアス君の報告によれば、身長凡そ20m弱だ。そんなものが地上に現れれば、普通に軍隊が出動せねばならんだろう。あの奇妙な地下空間に留まっているのは、不幸中の幸いと言えるかもしれん。

 巨人伝説は世界各国に数多く存在している。例えば神というのは人間よりも巨大に描写されるのが普遍的である。仏の姿を壮大なものとして作り上げる大仏や石仏も、ある意味巨人対する人間の感性を示していると私は思う。

 人間は、人の形をした巨大なものに特別な感情を抱いている。それは恐怖もあるだろうが、多くの場合は人の更にその先へと超越した存在に対する畏敬の念だ。しかしながら諸君、例の地下空間に出現したティターンには、敬意を表する必要は全く無いし、神性を有する要素は何処にも無い。

 何しろあれは、ルスケスが面白半分に想像し、サマエルがこね合わせた死肉と魂の成れの果てなのだからな。

 

ティターンの成り立ち

 マティアス君が例の奴を見て、ジャイアントではなくティターンと呟いたのは象徴的だ。例の地下空間には、ギリシャ神話に出てくる奈落の底、タルタロスを想起させられる。早い話が地獄みたいなものだ。勿論タルタロスは本来の意味において地獄ではないし、本物のそれは他所にある訳だ。が、無数の棺が地平線まで並べ置かれる様は、地獄と呼んでもおかしくはない。マティアス君が件の巨人を反射的にティターンだと看破したのは、つまり相当に的を射ていた、という事だ。あれを想像して創造したルスケスも、同じ連想をした可能性が高いと私は思う。

 ティターンはゼウスを筆頭とするオリュンポスの軍勢を相手に、ティタノマキアと呼称する大戦争を戦い抜いた者達の事だ。本来はゼウス達よりも前に生まれ出た古い神々であり、その中にはゼウスの親父であるところのクロノスも居る。当たり前だが、桁外れに強いうえに不死身だ。オリュンポス軍はそんな彼らを力押しで屈服させ、世界の奈落の底であるタルタロスにティターンを封じ込めた。それがティターンの成り行きである。

 もしも件の地下空間のティターンが、伝承通りに本物のそれであったなら、私は『如何にして戦うか』という思考を放棄してトンズラする事だろう。何せティタノマキアは世界を滅ぼす勢いの戦であったと言うではないか。かような書き方をすれば御理解頂けるものと思うが、当然地下空間のティターンは本物ではない。飽く迄ルスケスとサマエルによる贋作、もっとはっきり言えば出来損ないのまがい物なのだ。つまり、人間でも戦いが成立する。

 それでも相手は全長20m弱。例えば奴が人間と同じような挙動をしてきた場合、その速度と運動エネルギーは絶望的なものとなるだろう。しかしながら諸君、たとえ困難な課題であったとしても、何処かに必ず解はあるのだ。

 

ティターンへの対処

 恐らく、あらゆる攻撃が無効化されずに通用するだろう。

 奴は霊的な存在でありながら、物理的な肉体も有している。存在そのものが穢れていると言っていい。よってあらゆる種類の浄化を伴う物理的攻撃がティターンには通じるはずだ。そしてティターンが仕掛けると予想される、力にあかせた打撃による攻撃は、高い段階の結界であれば間違いなく防ぐ事が出来る。と言うのも、そのティターンの力の源、その運動エネルギーを支えるのは死霊の魂であるからだ。結界は邪悪な魂の侵入を防ぐ為のものだから、ティターンの攻撃を弾き返す、と言うより力の流れを捻じ曲げる形で術者達の身を防いでくれるものと私は考えている。

 問題があるとすれば、奴が不死身である点だ。其処はティターンの贋作であったとしても、その特性は適用されるだろう。それは恐らく吸血鬼を相手に戦う感覚に近い。幾ら敵の体に欠損を強いても、何事も無く修復してくる事が予想出来る。よって力押しのみで当たれば敗北は必至なのだ。

 巨大であるうえに不死身とくれば如何にも勝ちの目は無さそうだが、大丈夫。真の意味で不死の者などこの世には居ない。あの名も無き神だって、意外かもしれないが何時かは死ぬんだ。そして地球も、太陽もだ。つまりあれ程の敵であっても、弱点は必ずある。

 ティターンの巨体には、その体を駆動させる為の根源部分、つまりコアが存在する。それが何処であるかを想定し、探り当て、攻撃するのだ。しかしただの攻撃ではいかん。多分祝福された武器でも、銀兵器でも駄目だ。ダメージは通るだろうが、決定打にはならない。私はティターンと称するからには、その設定に準拠した存在なのだと考えている。よってある物質ならば致命傷を与えられるものと想定した。

 次回、ティターンとの戦いに赴くハンター、或いは吸血鬼に、その物質で出来た短剣を漏れなく渡そうと思う。如何にも頼りない代物に思えるかもしれないが、奴のコアにそれを捩じ込めば勝てるはずだ。

 

 ところでその物質についてだが、それが何なのかは予想出来たかな?

 命をかけた戦いを前に不謹慎ではあるが、少し趣向を凝らしてみたい。次回、ティターン戦に向かう者は、アクトで『その物質が何なのかと、その根拠』を書いてみ給え。正解者の中から1人のみにだが、私から途或るプレゼントをお渡ししよう。勿論短剣とは別物で、人間、吸血鬼を問いはしない。少し頭を捻ってみようじゃないか。

 

 

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この世ならざる者達:『ティターン』