ソードオフ・ショットガンはハンターの主力装備の一つである。狩猟用として入手しやすいうえ、取り回しが素早く出来る。とかく接近戦になりがちな「この世ならざる者」との戦いにおいて、美点を兼ね揃えた銃器なのだ。

 そしてショットガンの実包に、散弾ではなく塩を詰めるのも戦い方の常道だ。発砲して拡散した塩は、対象の一点を撃ち抜く銃弾よりも物理的な威力は低いが、ことに悪霊と悪魔を大いに怯ませる効果があった。

 マイケルの依頼に応じ、この場でショットガンを構えるのはシュテファン・マイヤーと王広平。マイケルはファイティングポーズを取り、さり気にステップを踏んで右に回った。対して、ゴーマーが再び包丁を振り上げた。

 発砲。そして発砲。シュテファンと王が申し合わせたように、順繰りで塩散弾をゴーマー目掛けて叩き込んで行く。一発を貰う度に仰け反るものの、ゴーマーは一歩も後退しない。血の巡りもない動く死体が、何を原動力に稼動しているのかさっぱり分からないが、単純な筋力は普通の人間とは比べ物にならない、という所だろう。ガンナーが全弾を撃ち尽すと同時に、マイケルは一気に間を詰めた。

 容赦ないストレートがゴーマーのこめかみにヒットした。その一発で頚椎が折れ、首がだらりとぶら下がる。マイケルはプロボクサーのなり損ないだ。なり損ないでも、ボクサーがやってはいけない殴り方を知っている。それを度外視すれば、マイケルの拳は凶器になる。しかしゴーマーは、まだ動く。

 下から掬い上がる肉切り包丁の一閃を、スウェイバックしてかわし、マイケルはゴーマーの背後に回った。2発のブローが脇腹を抉る。振り回された包丁を沈んで避け、こちらに向いた顔目掛け、喉元にアッパー。真っ直ぐに突き抜ける左腕と共に、ゴーマーのどっしりとした体が宙に浮いた。そのまま横臥の格好で地面に叩き付けられる。これだけされても、まだ包丁を手放していない。

 マイケルの右足が振り上げられ、ゴーマーの手首を踏み躙る。体重と勢いが乗った固い靴が、手首の筋肉を圧迫し、条件反射で掌が一杯に開いた。包丁が跳ね上がり、床に転がり落ちる。ゴーマーはピクリとも動かなくなった。

「やったのか」

 駆け寄ろうとする王を、しかしマイケルは手を挙げて制した。そして懐から聖書を取り出す。

「この包丁に妄念が憑いているんですよ。多分、オーナーは長らく隠されていたこれに触れたが為、こんな事になってしまったんだ。悪魔祓いを執行します」

 マイケルは包丁に塩と油を撒き、火を点けた。燃え上がる青白い炎を指差し、聖書を心臓に当て、宣言。

n nomine pater et filius et spiritus sanctus

 朗々とラテン語がマイケルの口から紡がれ続け、それに合わせて包丁は燃え上がりながらも、カタカタと揺れ始めた。

『すまない。おまえ、すまなかった』

 何処からか声が聞こえる。男の声だ。恐らく妻の顔を肉切り包丁で割り、狂ってしまった前の主人の声。

『しかし面白いんだ。あんなに簡単におまえの顔が。そして俺の顔も。愉快、愉快。もっと割りたい。もっとだ』

excusare

 そして次第に黒い煙が燻り始め、その全てを吐き出し終えたと同時に、炎は収束した。

 マイケルが包丁を拾い上げる。素手で持てば火傷だが、手袋をはめているのでそれは無い。マイケルは刃先を指で弾き、鼻を鳴らしてまな板の上に置いた。

「これはもう、ただの包丁ですよ」

「しかしコンクリート詰めにして地中深く埋めてやる」

 王の如何にも嫌悪感丸出しの言い様に、ハンター達は、ちょっと笑った。

 

 結局この件の犠牲者は、オーナーと不動産屋の2人である。店内改装の際に昔の包丁を見つけたオーナーは、それに触れて体を乗っ取られた。自らの顔を包丁で殴りつけ、彼が最初の犠牲者になる。その次が不動産屋。何も知らずにやって来た彼も、同じような殺され方をしたのだろう。事が済んだ後に警察へ通報したのだが、鑑識が程なく彼の死体を見つけた。冷蔵庫に首を始めとする切り分けられた体のパーツが、全て保存されていた。

 ビニールシートで覆われた店舗、それに慌しく出入りするSFPD。それを取り囲んで見守る野次馬達。全くもって観光地に相応しくない状景だが、それでも王広平は安堵した。

「あのまま警察を招き入れていたら、最終的に事件は解決しなかった可能性が高い。警察は真犯人が包丁だとは思わないからな。包丁は闇から闇を旅し、人に取り憑き、顔を割り続ける」

 遠巻きに喧騒を眺める目を、王は事件を解決した3人のハンターに向け直した。

「君らに感謝する。ありがとう」

「ご褒美とか出ないの?」

 と、サラが冗談めかして言う。しかし言われた方の王は複雑な顔になった。

 ハンターに見返りは無い。ただ「この世ならざる者」と戦うのみだ。無用に失われる命を少しでも減らす為だけに、彼らは戦っている。王としては、個人的に幾ばくかでも謝礼を出したい。彼らははした金など見合わぬ仕事を、自分の生まれた街の為にしてくれたのだ。しかし彼のボスである京禄堂は、ハンターとの過度の付き合いを禁じている。報酬を出した事が京に知られれば、どのような罰が加えられるか知れたものではない。それを告げて、王は頭を下げた。最も危険な武闘集団と言われる「庸」の最高幹部の平身振りに、3人は頭を掻いて苦笑した。

「しかし」

 と、王は言った。

「世話になった友を接待するのは全く問題無い。ちょっと歩いた所に、私の親族が経営するダイニングバーがある。いい酒もあるし飯も旨い。一杯やっていこう」

「そりゃいいや」

「一杯だけで済むと思います?」

「明日の昼の分まで食い倒すわ」

「結構な事だ。思う存分飲んで食べようではないか」

 

 

 

<判定者より:ポイントゲッターの役割>

 何しろポイントゲッターの美点は、その使い勝手の良さに尽きます。素の状態でも銃刀、格闘の使いは他のロールを上回るうえ、初期アイテムの購入によって防御や偵察もそれなりにこなせます。欠点らしいものはほとんどありません。点取り屋、つまり戦いに最終決着をつける者という意味が、ロールの名称にはあるのです。

 この話では格闘術を使っていましたが、ポイントゲッターはありとあらゆる戦い方が出来ます。身体能力で上回ってくる吸血鬼の戦士級と比べても、ポイントゲッターは同格かそれ以上の戦闘能力を有しています。しかし積極的に前へ出るのが役回りですので、自然危険な仕事の連続になってしまいがちです。

 前に出るからこそ、その機会を伺う際は慎重になるべきでしょう。

 

 

 

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この世ならざる者の戦い:『ポイントゲッター』