「どうだった? 怖かった? 小便チビった?」

「うるせえぞアバズレ。こんなもん序の口もいいとこだ」

 シュテファンは一旦室内を離脱し、店の入り口で待機する仲間達の所へ戻っていた。王の手回しで一時封鎖されているチャイナタウンの一角には、後から駆けつけてきた王を含めて4人しか見当たらない。喧騒が通りを一つ隔てた向こうから聞こえてくる。しかし今この場は静かだ。4人の打ち合わせる声同士が、互いの耳にやけに響いてくる。

「では、今のオーナーは死んでいるというのか。残念だ。不動産屋はどうした?」

「分からんね。昔の事件同様、何処かにディスプレイされているのかもしれん。それはさて置き、塩、聖水が効く相手だ。敵は悪霊の類と見て間違いない。しかし実体がある。ハエがたかっていたからな。おまけに臭えのなんの。ゾンビだったら塩だろうが何だろうがお構いなしに乗り越えてくる。どういうんだ?」

「敵の様子で何か変ったところはありませんでしたか?」

「意味もなくニヤついてやがる。ゴーマー・パイル(微笑みデブ)みたいに」

「じゃあ敵の仇名はゴーマーで」

「彼にはちゃんとした名前がある」

「彼は最早『彼』ではありませんから」

「…ハハン、大体読めたわ。そう、彼は彼ではない。彼は意思の無い単なる乗り物よ。悪霊が操っている。正体は殺された妻か、自殺した主人のどちらか。王さん、死んだ肉屋の夫婦だけど、遺体はどうなったの?」

「火葬にされたはずだ。妻の方は、集めるのが大変だったらしいが」

「それじゃ、場所か物に執着しているな。そうか、包丁だ。ゴーマーが持っていた肉切り包丁。顔面を叩き割る殺し方に、妙にこだわっているからな」

「包丁をどうにかゴーマーから切り離さないと駄目ですね。奴の動きを封じる必要がある」

「その役回りはあたしって事でOK?」

「OKも何も、その為にお前が居る。行くぜ」

 ガーディアン、サラ・スーラは頷き、しっかと目線を入り口に向け、一同の先頭に立った。そして大きく息を吸い込み、本命の突入を実行すべく扉を開いた。後から3人が、彼女の左右と背後を固める。

 ゴーマーは既に居ない。元に戻ったと言うべきなのだろうが、リズミカルに包丁でまな板を叩く音が、またも厨房から聞こえてきた。まるでゲームの画面切り替えだ。敵を倒し画面から出て、また戻れば敵が復活している。悪霊はかつて人間だったが、その行動はまるで機械のようだ。一定のパターンを律儀にこなしている。それを見切りさえすれば、勝ち目はある。

 サラは開け放たれたままになっている仕切りから、厨房を見た。そして口の端を曲げ、懐中電灯の光をゴーマーに向ける。彼は包丁を叩いたまま、サラの方に顔だけを傾けた。ゴーマーが反応したのは光ではなく、サラの感情の波だ。サラはゴーマーに対してこう思った。

「失せろ、腐れ○○○」

「いや、口に出してるし」

 再生したビデオテープのように、ゴーマーが包丁を振り上げて襲い掛かってきた。サラは臆する事無く懐から五枚の札を取り出し、側面の壁に貼り付けて行く。

「除邪、除邪、葬式化殺、收凶神鬼邪、老君鎮殺」

 五枚全てを貼り終えると、ゴーマーの動きがぴたりと止まった。と言うより、行動範囲が極端に狭まった。敵は塩で扉を遮断した際よりも、さらに強力な行動制限を加えられている。背後の王が感嘆の声を上げた。

「符呪術の使い。道士か。白人の道士は珍しいな」

「まぁ色々あって。それはともかく、ゴーマーの行動半径は約半径2m弱まで抑え込んだわ。でも、抑え込んだだけだし、そんなに長く持たない。とっとと奴をぶちのめして包丁を叩き落とさなければいけないんだけど、そんな芸当、あたし無理ですから」

 成り行き上、目線は際立って大柄な男に集中した。先程から丁寧な口調でしゃべっていた彼は、名をマイケル・スミスという。役回りはポイントゲッター。鋭い形相に似合わぬ溜息を吐き、マイケルは両掌に皮の手袋を装着した。

「それじゃ王さんとシュテフさん、援護をお願いします」

 

 

 

<判定者より:ガーディアンの役割>

 ここに出て来たガーディアンの技は一つだけですが、話の進行やアイテム(スキル)の拡充によって、実は全ロール中、最も多彩な戦い方が出来るようになります。概ね現実という縛りが強いルシファ・ライジングにおいて、魔法使いのような奔放さがガーディアンにはあります。

 しかしながら、そのポジションは大方の場合サポーティングに収まる事となるでしょう。使える技の中に、相手にとどめを刺す系統のものがほとんど無いのが、その理由です(悪魔祓いは別ですが)。しかし超常的なガーディアンの力は、今後の厳しい展開に無くてはならなくなるでしょう。

 霊符の中でも比較的知名度の高い道教の符呪を使っていましたが、これは初回登録アイテム「霊符の作成1」の使用例です。どのような宗教に基づいた札を使うかは自由ですので、創意工夫の幅を広げてみて下さい。

 

 

 

<戻る>

 

 

 

 

 

この世ならざる者の戦い:『ガーディアン』