ジェイズ・ゲストハウスから連絡を取ってくる事は然程ありませんので、今回の件は面食らいました。サンフランシスコのハンター達は、非常に珍しいこの世ならざる者を相手にされておられますね。

 まずは余談からですが、マペットと申しますのはパペット(手指の操り人形)+マリオネット(糸繰り人形)を組み合わせた、比較的新しい造語です。

 ですので、カースド・マペットと呼ばれるこの世ならざるものを、その名で定義したのは至極最近という事になります。別名「呪いの肉人形」は、比較的新種のこの世ならざる者という訳です。

 一見すると、これは人造亜人間、所謂ゴーレムの類と同系列の怪物に思えます。死体の肉を寄せ集め、仮初めの魂を封入した醜悪な怪物。それでは、呪術の使い手が作成するフレッシュゴーレムと、カースド・マペットの違いとは、一体何でしょうか?

 それには幾つかのポイントがありますが、大きな所では、作成者が悪魔である事でしょう。カースド・マペットにはゴーレムとは異なる、悪魔らしい余計なひと工夫が為されているのです。

 

カースド・マペットの成り立ち

 私はゾンビという項目を以前紹介しましたが、悪魔が死体を元にして作り出す点では、ゾンビとカースド・マペットには通じる点があります。

 異なるのは、ゾンビが人間の死体を丸々活用するのに対し、カースド・マペットが複数の死肉を組み合わせる点に尽きます。わざわざこのように面倒な手順を踏むには理由があり、それは恐らく、より邪悪な仮の魂を形作れるからだと想定されています。

 魂が昇華した死体は、最早モノ同然ではあるのですが、死を理解出来ずに現世をさ迷う魂が執着してしまう、哀れな死肉というのも存在しています。ハンター達がよく知るところの、悪霊などがそうですね。死体に火を放って強制的に浄化する、私達のお得意パターン。

 カースド・マペットは非常に厄介な事に、悪霊が執着する死体を寄せ集め、1つに固めた代物です。悪霊は通常、時間をかけて邪悪さが醸成されるものあり、その死体は腐りきって骨だけになっている事が大半です。死んで然程時間が過ぎない内に悪霊化した人間の死体をかき集める訳ですから、カースド・マペットが非常にレアな代物であるのはお分かり頂けると思います。そして悪魔は邪悪な魂達の複合という離れ業をやってのけ、極めて強力な邪念を持った非生命体を作り出すのです。

 このような複合魂を宿らせた結果、カースド・マペットの動作はゾンビとは異なり、極めてアグレッシブとなりました。行き場のない魂達は狭い器の中で暴れ回り、その衝動に引き摺られる形で肉人形は稼動します。そう、カースド・マペットは無尽蔵の邪念を糧にしているのです。

 そして奴らは、悪魔の忠実なマペットとなります。忠実という言い方はおかしいかもしれません。何しろそのような概念など消し飛んだ存在ですから。ただ、操演者であるところの悪魔は自由自在にカースド・マペットを操ってきます。ハンター達が戦うにしては、危険な事このうえありません。

 

カースド・マペットへの対処

 運悪くマペットに遭遇してしまった場合、その格闘戦は凄まじいものになるでしょう。

 敵は人間の筋肉の限界を無視した動作を可能とします。物理的な打撃は、実はある程度通ります。しかしながらそれで致命傷を与える事は不可能なのです。しかもカースド・マペットは、肉体の欠損を補う事が出来ます。例えば腕を切り落としたとしても、マペットが切断された腕を拾って患部に当ててしまえば、またくっついてしまいます。爆弾で全身をバラバラに吹き飛ばすと、その肉片はしばらくもすると集合し、元通りになってしまうという滅茶苦茶振りです。

 ゾンビ相手に通用した炎も、マペットの自己修復の早さの前には、何れ消し止められてしまうでしょう。つまり、ありとあらゆる物理攻撃が、カースド・マペットにとどめを刺せません。

 尤も、私達が戦っているこの世ならざる者の多くは、物理攻撃の一切合財が通用しないものばかりです。だからこういうものを相手にする場合、それなりの手段を私達は持っています。

・塩、聖水、銀は通用する。

 悪魔、悪霊との戦いに役立つアイテムは、その権化たるカースド・マペットにも通用します。勿論これでとどめを刺せる訳ではないので注意が必要ですが、とどめを刺すに至る筋道を作る為、これらは有効に活用出来るはずです。

・悪魔祓いの執行。

 現状、カースド・マペットを仕留めた実績と言えば、その手段は悪魔祓いしか情報が残っていません。マペットの体の中に蠢く悪霊を、それで浄化するという訳です。

 しかしながら前述しましたように、その浄化すべき魂は複数の悪霊が合わさった、非常に強大なものなのです。並大抵の悪魔祓いでは、カースド・マペットを滅ぼす事が出来ません。最上位クラスの執行者か、それが叶わねば複数のエクソシストが必要となるでしょう。実際、近年カースド・マペットを葬った手段とは、10人以上で取り囲み、一斉に福音を唱和するというやり方でした。これだけの数のエクソシストを揃えられるのは、極めて稀である事は私も承知しています。仮に少人数でマペットに相対さねばならない場合を鑑み、私は一つの手段を提示致します。

・近くにいる悪魔を祓う。

 カースド・マペットを作る悪魔は高位である事が想定されます。しかし作られたマペットを自ら操るという事を、術者はほとんどしません。配下の下位悪魔に与え、彼に操らせるという手段を上位悪魔は取ってきます。

 そして操演を任された悪魔は下位であるが故に、カースド・マペットから然程距離を置けず、その近辺に潜まねばならないのです。つまり、カースド・マペットそのものと戦うより、操り手の悪魔を退治する訳ですね。操り手を失ったマペットは糸の切れた人形のように崩れ落ちるでしょう。

 確かに下位とは言え悪魔も強力な手合いですが、マペットの操演には余程の集中力が必要となるはずです。悪魔の位置を特定し、その隙を突く事が可能であるなら、ハンターにも勝ち目は必ずあります。

 

 

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この世ならざる者達:『カースド・マペット』