以前、天使を「この世ならざる者」の範疇に収める事への違和感を、この項で申し上げました。しかし、実は天使以上に躊躇を憶えるのが、今回紹介するアンチ・クライストなのです。

 幾多の戦いを潜り抜けてきたベテランハンターと言えど、恐らくアンチ・クライストの姿を一度たりとも見た事はないでしょう。それ程に希少で、本当に実在するのかすらも分からない。それがアンチ・クライストです。

 こうして訳の分からない説明をしているのですが、私自身、アンチ・クライストに関しては知らない事だらけです。一つだけ確実に言えるのは、アンチ・クライストの正体が人間である、という事でしょうか。勿論、ただの人間ではありません。アンチ・クライストは悪魔の血を引く人間なのです。

 

アンチ・クライストとは何か?

 アンチ・クライストはスリラー映画に取り上げられる事が多い題材です。有名な所では「ローズマリーの赤ちゃん」、そして「オーメン」のダミアン・ソーンですね。人間と悪魔が交合した結果、生まれてきた赤子を巡る常軌を逸した出来事の数々。

 実際のアンチ・クライストも、成り立ちは似たようなものです。そしてその力は、伝えられるところによれば、縮小された神と形容すべきものだそうです。そして人間の身でありながら、天使の軍勢と渡り合えるのだとか。ハンターとアンチ・クライストが交戦した記録は残っておりませんが、関わった者が全て死んでしまったのならば、それも当然のことなのでしょう。アンチ・クライストは上位悪魔に匹敵する、恐るべき手合いなのです。

 それ程までに強大であるならば、悪魔達は競って人間と交合し、自らの尖兵として使役を考えるはずですが、実際にそのような事態には陥っていません。理由は簡単、人間と悪魔が交合して生まれた子供がアンチ・クライストになる確率は、ほとんどゼロに等しいからです。

 基準は定かではありませんが、アンチ・クライストは特別な人間からしか生まれてきません。その特別な人間を捜し当てる事は、悪魔にとって至高の価値があるといいます。彼等が度々地上に出てくる理由のひとつが、案外それなのかもしれません。

 ともあれ、アンチ・クライストを産む、ないしは産ませられる人間を見つけるなど、砂漠の中から砂金の粒を探るに等しい所行でしょう。悪魔の頑張りが徒労に終わる様を、私達は薄笑いを浮かべながら見守りましょう。

 

アンチ・クライストへの対処

 実はアンチ・クライストは不死身ではありません。どれだけ神に近い力を持とうが、その体は定命の人間でしかないのです。だから致命傷を負えば、アンチ・クライストは息絶えます。普通の人間と同じように、小さなナイフの一突きで。

 しかしながら、その状況に持って行く事こそが至難の業となります。何しろ相手は劣化版の神。少しでも敵意を気取られたら、その時点でアウトです。アンチ・クライストとしての力を行使された時点で、何をやっても私達には勝ち目がありません。ですからアンチ・クライストを屠るには、極めて周到な準備が肝要となります。

 ただ、実はもっと良い方法があります。それはアンチ・クライストを味方につけてしまう事です。

 確かにその名の通り、アンチ・クライストは悪魔のカテゴリーに属する存在です。天使の軍勢と戦える力も持っています。しかし、それはつまり悪魔をも圧倒する力を所持している事を意味するのです。

 忘れてはいけないのは、彼らが半分以上は人間である事でしょう。身も心も悪魔のものと成り果てる前に、もしもアンチ・クライストを正しい道に導ければ、私達は必ずや悪魔の狙いを頓挫させる事が出来るのです。

 

 

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この世ならざる者達:『アンチ・クライスト』