<虜囚>
悪夢を見た。それは激痛を伴う思い出でもある。
かつてハンターになる前の自分は、米軍の士官であった。それも国外のテロ組織に対する攻撃任務を主とする特殊部隊を率いていた。その危険度は並大抵ではないが、幸い部下を失う事も無く、数々の仕事を成し遂げてきた経歴は今でも誇りだ。
生まれつき運がいいのかもしれない。そのように考えていた。しかし、今迄の自分が薄氷の上を闊歩していただけなのだと、ある時思い知らされた。薄氷を踏み抜いてしまった訳だ。士官として最後に戦った相手が、こともあろうに反社会的宗教組織、サタニスト共であったのだ。
悪魔というものが実在すると知ったのは、その時からである。悪魔はいとも簡単に部下達を捻り潰し、子飼いのブラックドッグをけしかけてきた。精強な集団が、全滅に要した時間は僅か5分強。自分が助かったのは、偶々初手の段階で昏倒したからに過ぎない。敵は自分が死んだと思ったのだ。
自分は今も生きているという、その事実一点のみを考えれば、悪運はあったのかもしれない。だが、昏倒状態から目覚めた自分の目前に広がる惨状を見たとき、誰が運等と口に出せるものか。心から信頼していた部下達は、誰一人としてまともな人の形を保っていない。
冷たい床の上で目を覚まし、ドグ・メイヤーは改めて周囲の状況を眺めた。石造りの狭い部屋だった。部屋には明かりが無い。廊下に繋がるらしい鉄製の扉に、設えられた鉄格子から漏れ出る光で、辛うじて中の様子が覗える。
次第に、ドグの瞳に冷えた炎が揺らめき始めた。激怒の感情が全身を支配するまで、そうはかからない。
「…サタニストがッ!」
石床を拳で殴る。二度、三度。しかし四度目を振り上げた時点で、ドグは沈着を取り戻した。追い込まれた状況にあって、ハンターとしての気性が鎌首をもたげてくる。自分はここから脱出して、サタニスト、ゲイリー・カーティスの目論見を砕かねばならない。さもなくば、大量の人間が死に至る。ドグは今一度、現在の状況を纏めるように努めた。
カーティスは上司である悪魔の命により、次席帝級吸血鬼、ジル・ド・レエを完全復活させるべく、呪いの儀式を実行していた。それはマクダネル家惨殺事件を事の発端としていた。
何の効果があるかは分からないが、「これ」と見定めた子供に、カーティスは呪い歌を教え込んでいた。この歌を歌い、家族にも歌って聞かせた子供は、親諸共吸血鬼にその血を吸い尽くされる。それはどうやら、ジルに与えられていたらしい。これによってジルは、現実に活動を開始したという事だ。
だが、更に本来の姿へと戻すには、まだまだ血が足りなかったらしい。カーティスは2人目の子供を狙う。だが、それはハンター達の尽力によって阻止された。そして3人目も同じく未然に救い、カーティスはサタニストとしての本性を表した。
ドグがサタニストに拉致されてから、既に相当の時間が過ぎている。その間に連中は着々と準備を進めているに違いない。準備とは、恐らくジルに力を取り戻させる為の最終手段である。カーティスは大聖堂の少年聖歌隊を利用すると言っていた。大聖堂と言えば、サンフランシスコには一つしかない。グレース大聖堂。大聖堂男子学校の真裏にある。グレース大聖堂では、定期的に男子学校の聖歌隊による発表会が催されていた。カーティスは子供達の晴れの舞台を、おぞましい儀式の場へと変える腹なのだ。ドグはあの時、あの修羅場を再び思い返した。
「…殺してやる。必ず殺してやる。必ずだ」
呟き、それでもドグは、意識を一変させて鉄の扉にへばりついた。そして大声を張り上げて扉を叩く。
「おーい! どなたか居ませんかね! ちょっとお願い事があるんですけどー!」
返事が無いのを承知のうえで、ドグは扉をガンガンと叩き続けた。そうして根気良く10分程喚き散らした挙句、ようやく1人のサタニストが怒りの形相と共に部屋の前へと歩んで来た。
「うるさい。黙れ。犬をけしかけるぞ」
「おお、やっと来てくれた。ありがたい。すまんが、煙草をくれ。吸いたい」
「煙草だと?」
男は胡散臭そうにドグを睨んだ。
「そんな健康に悪いものなど持っているものか。馬鹿か」
「いいだろう、吸いたいんだよ。ろくなもんくれねえだろ、お前等。煙草くらいくれよ。お前等が掻っ攫った俺のバッグに入っているからよう!」
そしてドグは、煙草を連呼しながら再び扉を叩き始めた。男は耳を押さえ、怒りに任せて扉を蹴り飛ばした。
「やかましい! 取ってきてやるから黙れ!」
肩を怒らせながら、男は踵を返して来た道を戻って行った。その後姿を、ジョンはくまなく眺めた。腰の後ろに、何かを紐で括りつけている。呪い袋だ。その使い道を想定し、ドグは口の端を曲げた。考え通りならば、自分は助かるチャンスがある。
1分もしない内に、男は戻ってきた。つまり、そう遠くない場所に自分の荷物は置いてあるらしい。それが分かれば十分だ。
乱暴に投げ入れられた煙草を手に取り、ドグは火を点けて煙をくゆらせた。そして再度、鉄格子の向こうを覗き込む。しばらく待つと、例の『定期巡回』が接近して来た。
それは、姿形が見えなかった。聞こえるのは足音のみ。犬の足音である。ハンターならば、その恐ろしい怪物の名を知らぬ者は居ない。地獄の猟犬、悪魔の飼い犬。ブラックドッグ。
ブラックドッグは何時もと同じように扉の前で立ち止まると、ドグを威嚇するように唸り声を上げた。そしてまた、ゆっくりと歩み去って行く。ドグは、その後姿らしきものを見送りつつ、不意にブラックドッグへと声を掛けた。
「カスパール」
ブラックドッグの足音が、止まった。
<結集>
高所得者層の住宅と名門ホテルが建ち並ぶ、一際高い丘の上、ノブヒルには、カフェもまた洒落た店が多い。そして高い。
普通ならば、これほど身の丈に合わない場所で優雅に茶を飲むなど考えも付かないところだが、グレース大聖堂の近辺で待ち合わせという事になると、必然的な選択肢になってしまう。
Corby’s cafe という店のテラスで、2人のハンターと「月給取り」は、神妙な面持ちでコーヒーを飲んでいた。勿論、最低でも$10は取るコーヒーを堪能する為ではない。
「ゲイリー・カーティスから、学校には一切連絡が無いそうです。つまりは完全な失踪状態。しかし近辺に潜んでいるのは間違いない」
マティアス・アスピは掌を軽く揉みながら、しかめ面も露に言った。
「前回奴を見失った状況を鑑みると、カーティスの隠れ家は地下にあると考えるのが妥当でしょう」
「では、同じく失踪したドグ・メイヤーも、其処に閉じ込められている可能性があると?」
「恐らく」
「ふむ」
カップを置き、マリーア・リヴァレイは腕を組んだ。
「地下と言っても、果たしてどの辺りというのが分からない。そうこうする間にも、カーティスが暗躍を続けているのは問題だ…。奴があのままで事を済ませるはずは無いのだから」
「一先ず、サタニスト対策で動くしか無いでしょうね。そうすれば、自ずとドグの拉致されている場所にも突き当たります」
「そのサタニスト対策についてなんですがね」
ジョン・スプリングは、一枚のチラシをテーブルの上に置いた。
「今迄、学校に潜入してこそこそとやっていた訳でしょう。その立場が失われたとなれば、次は大胆な行動に打って出る可能性があります。奴が大聖堂男子学校に固執していたのは間違いない。そして呪歌にもこだわりがある。その2点を連結すると、こういうイベントに注意が向くのです」
ジョンがコツコツと指でチラシを叩いた。大聖堂男子学校・定期発表会のお知らせ、とあった。字面をマリーアが食い入るように覗き込む
「少年聖歌隊の発表会か!」
「これにどう絡んでくるのか分かりませんがね」
「4日後ですか。あまり時間がありませんよ」
「そもそも発表会に連中がしゃしゃり出てくる根拠もありません」
「いや、発表会に的を絞ってみよう」
マリーアが訴える。彼女は「月給取り」とは言え吸血鬼という身空であるものの、人であった頃の教師の矜持を片時も忘れていない。子供達に何らかの害を及ぼされる可能性に対しては、強い反応を示すのがマリーアの変わらぬ気性である。
「どのみち、カーティスの次の行動は誰にも分からないんだ。これという可能性に賭けてみるべきだと思う。もしも何もなければ、また次の方策を考えればいい」
「…ま、打ち合わせがこういう展開になる事は予想していましたよ。ですから味方を1人お呼びした次第です」
肩を竦め、ジョンは左手でカフェの入り口へと皆の視線を促した。男が1人、入って来る。よれよれの薄汚れたシャツに、如何にも寝ていませんと言わんばかりの窪んだ目。通り縋る際に、他のテーブルの客が露骨に嫌な顔をした。ハンターと吸血鬼の前に現れたのは、何の事は無い。ジョン・マクベティ警部補であった。
「何の事は無いとは何だ」
「お久し振りです、警部補。相変わらず小汚いですね」
「小汚いとは何だ。お前も変わらねえ奴だな」
警部補は椅子を引いて体を伸ばすように座った。注文を取りに来た給仕に言う。コーヒー、一番安い豆を適当に見繕ってくれ。
「で、聖歌隊の発表会への介入だが」
運ばれてきたコーヒーには手をつけず、警部補は先に彼等が打ち合わせていた内容を、聞いていたかの如く引き継いだ。
「まず、ゲイリー・カーティスの行方は警察も掴んでいない。と言うより、学校からも正式に捜索願が出されていないからな」
「当然、家族からも?」
「そういう事だ。と言うより、奴には家族が居ない。正確には居なくなった。両親が10年前に。妻子が5年前に。失踪扱いだ。臭えったらありゃしねえ」
「学校で見た経歴では、そういう事は書かれていませんでした」
「プライバシーってのもあるだろうが、マティアス、奴は妙な術を使ったんじゃねえか。と言うのも、俺だったら家族の失踪に関わる最重要容疑者はカーティスと見て、とことんマークするもんだぜ。それがあっさりと失踪扱いで、管轄の警察が身を退きやがった。俺に取っちゃ、ここんとこが一番のオカルトだ」
「…嫌な話ですが、儀式の供物に利用された可能性がありますね」
「家族を? 親を?」
「筋金入りのサタニストとは、そういう事を平気やるんですよ。マリーアさん」
「しかしながら、今のところ表立って警察が動ける根拠は無い。『子供に歌を教えて吸血鬼に襲わせました』なんて、俺は口に出来ん。しかし大聖堂でジェノサイドが発生する疑いがあるのなら、出来る限りの協力を申し出る」
「助かります」
マティアスは警部補に頭を下げ、改めて今後の方針を話し合った。
「まず、自分は地下の探索を継続しようと思います。サタニストのアジトが大聖堂近辺の地下に隠されている可能性は、矢張り大ですからね。発表会当日までには何としても探し出します」
そして、行動がほぼ固まった。
サタニストの狙いが発表会であれば、その当日に彼等は動いてくるだろう。アジトは人払いされているはずだ。其処を地下からマティアスが侵入する。多方面で問題を引き起こしている『下界』と、アジトとに連結があるのかを探るという目的があるのだが、ドグの救出やサタニストの退路を断つ事にも繋がる。ジョンとマリーアは、発表会の場に地上から潜入する。サタニストが行動を起こす前に、それを阻止するという難儀な役回りになるだろう。警部補は、観客として大聖堂に正面から入る。この場で唯一、警部補だけがゲイリーに顔を知られていないという利点があるのだ。いざという時、警察という肩書きは市民に対して効力を発揮する。
「それでは皆さん、準備を進めましょう」
マティアスの決を聞き、一同が立ち上がる。発表会当日での作戦に向けて、各々が行動を開始した。
<発表会当日・其の一>
「チケットを確認致します。…どうぞ、お入り下さい」
「ありがとう」
係員に軽く会釈し、ゲイリーは堂々とグレース大聖堂に入場した。この催しは大聖堂男子学校の生徒が主役であり、また係の者も学校関係者ばかりである。つまりは、カーティスはほとんどの者と顔見知りであるはずなのだ。それが全くの初対面という対応を取ってくるには、相応の理由がある。彼が本物の黒魔術を使えるサタニストだからだ。人の認識を少しばかりずらす程度ならば、容易く実行出来る実力をカーティスは所持している。
カーティスは会場の中程の席に座り、両隣の観客と軽く会釈を交わした。飽く迄穏やかな口調で、カーティスは隣の者達に言った。
「良い日和ですね。外はとても良い天気でした」
「ええ、良い日和です」
「供物を捧げるには最高の日ですな」
3人は、揃って虚ろな笑みを浮かべた。こうしてカーティスを首領とするサタニストの集団は、観客席にかなりの数が紛れ込んでいた。これから始まる発表会を利用した儀式は、サタニストの全員による実行が必要となる。
彼等の狙いは、少年達の歌声を乗っ取る事にあった。歌われる聖歌の内容を、サタニストが呟く呪歌でもって、上書きをするという訳だ。本来であれば1人だけを選んで注意深く実行するのが、浮世に潜むサタニストとしての本筋であるのだが、既に約束の相手の我慢も限度に近付きつつある。強引だが、呪歌の力をより高めて、一気に供物を作り上げねばならない。
「全く、失敗続きだ。これも失敗したら、さて、どうなるのだろうね」
自嘲気味にカーティスが哂った。右手の配下が、宥めるように曰く。
「あの化け物がこちらに刃を向けるのは、筋違いというものですよ。不完全とは言え肉体が復元し、ある程度動けるようになったのは私達とカスパール様のお陰なのですから」
「いざとなれば、カスパール様が立ちはだかってくれるはず。何しろカーティス卿は、カスパール様のお気に入りですから」
左手の追従に、カーティスは気を良くした。悪魔カスパールに、カーティスは魂を売っている。その対価として、彼は強大な魔術を人の身で行使出来るようになった。常々カスパールは、カーティスには天才的な魔術の才があると褒め称えている。その才能を主が簡単に手放しはしまいと、カーティスは自信をもって考えていた。
「地下牢の男は、下の者のみで上手く運べるでしょうか? 相手はハンターですが」
右手の問いに、カーティスは首を傾げた。
「何を仰る。追い立てるのは犬ですよ? ただの人間が勝てる相手ではありません。この儀式を利用し、彼にはボーナスポイントになってもらわねばなりません」
「カスパール様の御助力になるという訳ですね」
「次席帝級が出て来るのは、同じく地下から。私達の邪魔をしなければいいのですが」
「なあに、心配御無用です。カスパール様とは契約がありますし、何より彼は、腹ペコなのですよ。より美味しい食事が壇上に勢揃いするのに、手を出さない道理はありません」
呪歌を歌った子供の血には、話に出て来た次席帝級にとって特別な意味がある。かつての彼はアーマドの1人に、骨が灰になるまで焼き尽くされたのだが、その身を再生したのは少年とその家族の、呪力の篭った血であった。吸血鬼が吸血鬼たり得る為の糧。灰から肉へと復活させる程の代物。彼等の世界の邪な力が引き込まれた魔性の血だ。つまりサタニスト達は、聖歌隊の少年全員を、魔性の血の持ち主へと変える腹なのだ。そしてその場で、次席帝級に少年達を襲わせる。それが彼等の立てた筋道だ。
「阿鼻叫喚ですね。聖歌が断末魔の絶叫に変わる訳だ」
「ここ最近のアメリカでは聞いた事の無い大量虐殺です。少年達だけではなく」
「まあ、観客だけを見逃すなんて出来ませんからねえ。扉の封印をお忘れなく。1人たりとも逃がしません」
「大騒動になりますね」
「これ以降、この街は更なる大騒動に巻き込まれるのですから、大した話でもありませんよ」
<発表会当日・其の二>
何の前触れも無く、扉の鍵が開かれた。サタニストの男は居丈高に、簡潔に一言だけを言い放つ。出ろ、と。
ドグは体の節々を労わりながら立ち上がった。それは演技だ。長時間の抑留で、久々に動かす関節が痛むという。彼等の目を盗み、ストレッチと筋力のトレーニングは欠かさず毎日積んでいた。相手の油断を誘いつつも、ドグの臨戦態勢は万全の体である。
「やれやれ。やっと釈放してくれるのかい?」
首を摩りながら、ドグは言われるままに扉を開いた。サタニストは2人居る。ドグから不自然に距離を置いた位置だ。どういうつもりなのかと思えば、理由は直ぐに分かった。サタニストと自分が立つ合間に、目に見えぬ犬の唸り声が聞こえてきたからだ。
「さっさと向こうへ歩け」
男の内の1人が、顎をしゃくって言った。
「妙な事はするなよ。言われた以外の行動をすれば、犬がお前を食い殺す」
「そう脅かさないでくれ。こちとらは出られるんなら大人しくするからよ」
ドグは肩を竦め、石造りの廊下を歩き始めた。背後にはピタリとブラックドッグが尾けており、その後ろを2人のサタニストが塞いでいる。自分達が素人であると承知している点は、確かに賢明だとドグは解釈した。彼等は自分への監視役を、完全にブラックドッグ任せとしている。たとえハンターと言えども、ブラックドッグに太刀打ち出来る手段はほとんど無いのだ。
そしてドグは、廊下を曲がった先にある奥の間の、壁の前に立たされた。釈放など端から考えていなかったドグではあるが、壁に描かれたペンタグラムには意表を突かれた。上下逆向きであるのが大変分かり易い。それは悪魔の象徴である。
「何だこりゃ。下手糞なペンタグラムだな。こんな所に立たせて、どうするつもりだよ」
ドグの問いに、男達は一切答えなかった。代わりに返したのは、恫喝である。
「其処から一歩でも動くな。足を踏み出したら粉々に噛み砕いてやる」
「何時まで立たなきゃならない」
「少年聖歌隊が素晴らしい歌を歌い終えるまでだ」
カカ、と男達が笑った。合わせてドグも、カラカラと笑う。その能天気な態度を目の当たりにし、サタニスト達は不審をその顔に浮かべた。
「何がおかしい」
「そろそろここから出させてもらうぜ。人死にが出るのを分かっていながら、気を付けで突っ立っているほど暇なドグ様じゃねえんだよ。お前等、先に地獄へ行け。後からお前らの主様とやらも送り返してやるよ。そいつの名前は、カスパールだ」
ドグは無造作にサタニストの元へ歩み始めた。顔を真っ青にし、彼等がブラックドッグに対して叫ぶ。食い殺せと。しかしブラックドッグは動かない。主の名前を言われたブラックドッグは、一時動作を止めるという風変わりな性質がある。ドグは犬の飼い主が誰なのかを見切ったのだ。
「カスパール。カスパール。カスパール」
悪魔の名を呟きながら、ドグがサタニストに向けて迫り行く。慌てて2人が拳銃を抜くも、対峙してしまえば百戦錬磨と只の人の関係だ。引き金を絞られる前に、ドグは相手の腕を跳ね上げつつ、顎の片側に掌を当てた。1人目の首を半回転させて打ち捨てる。残った1人が発砲。既に身を深く沈めたドグは難なくと避け、背後に回って男を背中から突き飛ばした。
よろめいた男が血走った目でドグを見遣り、再度拳銃を向ける。だが、男はドグがヒラヒラと掲げているものが呪い袋と認識し、咄嗟に腰の後ろへ手をやった。自分が身に着けていたそれが、無い。
「これ、敵味方識別用呪い袋だろ? 壁の前に立って一歩も動かなければ、食い殺されないかもしれないぜ?」
無論、そんなはずはなかった。男は悲惨な嘆きの声を上げながら逃げ出そうとしたものの、数歩も行かぬ内に吠え立てるブラックドッグに組み敷かれた。
其処から先は、正に地獄だった。ブラックドッグに食い殺される人間の有様が如何様のものかを、経験上ドグには分かり切っている。だが、ドグにはサタニストを人間の同胞と見る視点が無い。傍で展開するおぞましい光景を無視し、ドグは取り上げられた自分の荷物を着々と探し始めた。
マティアスの考え通り、サタニストのアジトは地下にあった。グレース大聖堂周辺域の下水道を歩き回って調べるという、半ば総当り的な苦労を要する羽目にはなったが。
その場所は、EMF探知機の反応によって発見する事が出来た。しかし見た目は何の変哲も無い壁である。訝しみつつ触ってみると、手首がそのまま壁の向こうに飲み込まれてしまった。どうやら壁と見えるものは、ホログラム的に偽装された幻影の類らしい。
「サタニストの仕掛けとは、ちょっと異なるように思えますね」
マティアスは呟いた。
彼の言う通り、サタニストが用いる術の類は、主として人間に干渉する呪いが全般なのだ。かような露骨に魔法めいた技術は、恐らくサタニスト程度で作り出すのは無理だ。これはマティアス達が知らない事だが、その意味でドグを引き摺り込んだ鏡の仕掛けも、過剰な力が働いていると疑わざるを得ない。
壁の向こう側へ侵入し、曲がりくねった細い通路を歩きながら、マティアスは改めてその考えに至った。やたらに右往左往をさせるこの道は、下水道の壁を破って突貫工事で作った、等と言い張るのは無理があるほど整っている。この探索を行なう過程で、庸と組んで下界の事件に関わるハンターにマティアスは助言を請うていた。話に出て来る下界の有様と、この道は何となく似たものが感じられる。つまり下界を構築した者と、サタニストのアジトを作り上げた『何か』は、イコールである可能性が高い。
「…カスパール、ってとこでしょうか」
そしてマティアスは、道の終点に突き当たった。終点の壁には梯子状の取手がズラズラと縦に並び、どうやら階上へと繋がっているようだ。其処が多分、サタニストのアジトである。刀剣を邪魔にならぬよう背に構え、腰に提げたナイフを確かめ、梯子を登る。程無くして、天井に被された蓋に出くわす。慎重に、僅かな軋み音も立てぬよう、マティアスはゆっくりと蓋を持ち上げた。
光が差し込んだ。それは自然光ではない。白熱灯の白々しい照明の明るさだ。蓋を持ち上げたまま、マティアスはじりじりと視界を一周させた。テーブルや椅子がある。ダイニングの趣が感じられる。連中の休憩室か何かだろうか。ただ、人気というものは全く感じられない。
意を決し、蓋を外して外に這い出た途端、マティアスの背中に怖気が走った。EMF反応有り。それと共に何かが駆けて来る音が聞こえてきた。たっ、たっ、たっ、と。動物の走る音。犬だ。それは間違いなくこちらに向かっている。
「番犬か!?」
脅しの為に、マティアスは背中の刀剣を抜いた。相手が犬であれば、威嚇ぐらいにはなる。普通の犬であれば。しかし部屋に飛び込んで来たはずのそれは、マティアスの目に全く姿が映らなかった。
咄嗟、マティアスは懐の御守りを握り締めた。けたたましい吠え声を上げて飛び掛らんとした何かが、その勢いを強制的に緩められた。御守りに忍ばせていた『鈍化』が効いてくれたのだ。が、事ここに至ってマティアスの顔から血の気が引く。今、自分の目の前に居る目に見えない何かは、ブラックドッグだ。
「仲間か!」
聞き慣れた声と共に、男が勢い良く室内に飛び込んで来た。マティアスを見るや、男は手に持っていた呪い袋を彼に投げつける。反射的に受け取った途端、ブラックドッグはマティアスへの攻撃的な態度を収め、男の隣を抜けて部屋からあっさりと出て行ってしまった。
「ドグ、貴方ですか。よくご無事で。これは一体どういう事です?」
剣を鞘に収め、マティアスはドグに頭を下げたものの、上げた顔は狐に摘まれた風だった。
<発表会当日・其の三>
「つまり、これを持っているとブラックドッグに襲われないという訳ですか」
マティアスは感心しながら、興味から呪い袋の口を開けた。素材の判別出来ない黒い粉末が、ツンと鼻に来る臭気を放つ。
「アマランス、ニガヨモギ、ヒルガオ…駄目だ。何を使っているのかさっぱり分かりません」
「分からなくていいよ。こいつが俺達の手に渡ったと発覚してしまえば、どうせ次からは使えん」
「期間限定アイテムですね」
軽口を交わしつつ、マティアスとドグは呪い袋を懐に仕舞った。少なくともこの場では命を保障する御守りにはなる。ブラックドッグは相手に出来る代物ではない。
2人は現在の状況を改めて確認し合った。ドグからの情報によって、サタニストが聖歌隊の発表会を儀式に利用する企ての裏が取れた。発表会は、間もなく開始の運びとなる。事態は一刻を争う展開となるだろう。
「アジトとグレース大聖堂は、繋がる道があるはずだ。地下にこんな施設をおっ建てるくらいだ、そんなものは訳無いだろうよ」
「大聖堂の下にサタニストの集会所とは、連中もいい度胸ですね」
「これから更に不遜極まりない所業をしでかそうってんだ。そんなものはぶっ潰してやる。マティアスはどうするよ?」
「僕はもう少しアジトを調べます。この施設、まだまだ裏がありそうですから」
それから彼等は、手分けをしてアジトの中を探索した。ドグは大聖堂に至る道を探し、マティアスはアジトが作られた根本的な意図を調べる。
マティアスは、先ずドグから聞いたペンタグラムの描かれた壁画を確認した。上下逆さに描かれたそれは、鏡面反転したエノク文字が取り囲むように書き込まれている。典型的なブラック・マジックの産物である。どす黒く壁にこびりついたそれらは、間違いなく人間の血が使われていた。
問題は、この前に人間を立たせて何をしようとしていたか、である。サタニスト達が起こそうとする儀式と濃厚な関連があるはずだが、しかしマティアスは違和感を覚えた。大聖堂でやろうとしているのは、少年達を利用した生贄の儀式であるとの予想がつくものの、このペンタグラムで使おうとしたのはドグだ。少年という素材への拘りとは、明らかに一線を画している。
反転文字を全て書き取り、マティアスは一端その場を離れた。アジトを歩きながら、知識を総動員して注意深く文字を読み込む。
・目覚めよ 時は夏至
・目覚めよ 時は冬至
・此は水の国也 汝水の者也
・汝我が騎となる者也
・さすれば肝を除き全てを捧げん
「…何だろう、これは」
マティアスは首を傾げた。
サタニストの所業は吸血鬼に絡んでいるのだが、これらの文言にそれを匂わせるものは感じられない。もっと別の何かだ。どうやら悪魔の一党は、吸血鬼とは別枠で何か事を起こそうとしているらしい。それがろくでもない結果をもたらすのは確定的だ。察するに件のペンタグラムは、この世に居てはならない何かを呼び出す為の陣である。
マティアスは、とある部屋の前で立ち止まった。その部屋には、小脇に抱えられる程度の油絵が飾られていた。
描かれているのは、鬱蒼とした森の小道である。その奥に佇む古びた城。城から少し距離を置いた場所に屋敷。何の変哲も無い風景画と言えばそれまでだが、説明し難い、何処か奇妙な印象もあった。EMF探知機を当てる。微弱ながら、電磁場異常の反応がある。ただの絵ではない。
と、マティアスは弾かれたように絵から飛び退いた。絵の中の木々がそよいだように見えたのだ。目を擦り、今一度凝視するその先で、2羽のコマドリが絵の外側へと飛び立って行った。
無言で霊符を取り出し、絵の周囲を取り囲むように貼り付けて行く。一体この絵が何を意味しているのかは分からないが、取り敢えず封じておくべきだとマティアスは判断した。
グレース大聖堂へと至る道を捜し求め、ドグはアジトをグルグルと歩き回った。が、それらしき上階へと繋がる階段が、或いは梯子のようなものがどうしても見つけられない。
「おかしい。ここからも出入り出来るはずなのに」
首を傾げ、ドグが呟く。と言うのも、牢に閉じ込められていた折、大聖堂の鐘の音を幾度も耳にしていたからだ。勿論、大聖堂の正面からの出入りは悪魔崇拝者とは言え可能であろうが、彼等の目的はここから「何か」を会場へと導く事にある。つまり通路と呼べるものがあって然るべきなのだ。
それにしても、妙な場所だとドグは思った。現実として鐘の音が聞こえており、乗り込んで来たマティアスも大聖堂近辺の下水道から侵入したと言っていた。つまり大聖堂のほぼ直下にアジトは存在する事になる。しかし、これは勘働きではあるのだが、ここは妙に現実感の無い場所だった。空気。物理法則。何れも多少の『ずれ』が感じられて仕方がない。そう言えばマティアスも言っていた。
『…ここに来るまでの道と、話に聞いていた下界は何となく繋がりがあるように思えますね』
ドグは、己が身を震わせた。つまりここは下界同様に現実世界ではない、何処か別の場所なのかもしれないと。
ドグはある部屋の扉を潜って、その足を止めた。全身鏡が2つ掛けられている。鏡と言えば、カーティスのアパルトメントで引き摺り込まれた嫌な出来事を思い出す。散弾銃を構え、鏡の一つの前に立った。
それは一見、至って普通の鏡である。しかしドグは引き金に指を掛けたまま、決してそれ以上近付こうとはしない。彼の予想通り、やがて鏡の中の自分は、曲がった笑みを浮かべ始めた。発砲。鏡面の自分が木っ端微塵に砕け散る。ざまあ無え、と言い放ち、ドグは向かいのもう一枚にも散弾銃を向け、しかし思い直して銃口を上げた。
近付いて、その鏡を凝視する。今度は何時までたっても、鏡の中の自分に変化は無い。ドグは鏡面に手を伸ばし、思い切って顔を突っ込んだ。
ドグの顔が鏡を抜けると、其処はトイレだった。用を足している男性と目が合いかけ、慌てた調子で顔が引っ込む。男性は呆然とした表情でそちらを見遣っていたが、肩を竦めて用足しの続きに励む事にした。自分は疲れているのだと思い込むのが、今この場では無難である。
「どうしました、銃声が聞こえましたが」
部屋に飛び込んで来たマティアスがドグに問う。ドグは親指で鏡を指差して一言。見つけたぜ。
「祭服を着た修道士っぽいのが小便をしていた。あの服で小便とは、どうやるのか興味があるよ。じっくり観察すりゃ良かった」
「大聖堂のトイレに繋がっていた、という訳ですか。やりましたね」
「マティアス、俺がこの鏡を潜ったら、鏡面を叩き割ってくれ」
「分かりました」
マティアスが頷く。この通路を絶ってしまえば、少なくともアジトから大聖堂へと『何か』が出現するまでの時間稼ぎにはなるはずだ。
<大聖堂男子学校少年聖歌隊・定期発表会>
聖歌隊とは言え、まだ幼い子供達が歌う演目である。いきなりグレゴリオ聖歌を厳かに披露するような身の締まった催しではないし、会場に訪れた人々もそのようなものは求めていない。
ただ、日々練習を重ねた彼等の歌声には、大人の歌唱とは趣の異なる、透き通る心地がある。白い祭服に身を包んだ少年達が、壇上に礼儀正しく勢揃いする様も、微笑ましく和やかだ。そんな良い雰囲気の元で、少年聖歌隊はオペラ「魔笛」のメドレーを静かな滑り出しで歌い始めた。
(いいですね。こういうのも。偶にならば)
ジョンは座席の最後列の1つに座り、脳裏でぽつんと呟いた。とは言え、ソプラノの響きに聞き入る他の観客達とは立場が違う。ジョンの目はカーティスが居る位置を片時も離さず、その動向を注視していた。発表会を狙うというハンター達の見立ては、矢張り正解だったのだ。
カーティスの近辺にはマクベティ警部補も居る。カーティスが何か事を起こせば、問答無用で取り押さえにかかるだろう。マリーアは発表会の開始前まで姿を確認出来たのだが、歌が始まる頃には姿を消していた。何か特殊な術を使うと言っており、それが効力を発揮しているらしい。そしてマティアスが地下を押さえに掛かっている途上であり、上手くやればドグの奪還も成るはずだ。
しかし、これから自分達が成果を挙げられるか否かについては、何しろ根本的な確証が無い。そもそもカーティスが、どのようにして発表会を利用するのか、その手段が分からないのだ。異変発生が即ち手遅れという事態も充分有り得る。これはみんなで渡る綱渡りだとジョンは思った。誰かが一歩踏み外せば、バランスを失って全員奈落の底である。
歌は佳境に差し掛かろうとしていた。聖歌隊の歌声は益々伸びやかになり、気を抜けばついつい聞き惚れてしまいそうになる。ジョンは気を取り直し、カーティスを睨んだ。彼は俯いていた。その左右に居る男達も。その態度は、目を上げて聖歌隊を見ている他の観客達と比すれば、浮いているように思われた。そう言えばカーティスのように顔を下げている者達が、最後列からはちらほらと見受けられる。
歌声が会場内に響き渡る。歌声以外の一切の音が、この広い空間からは聞き取る事が出来なくなっていた。脳が、その聖歌隊の演目以外を認識する事が困難となる。発表の真っ最中にも関わらず、無遠慮に扉が開かれ、外に居た係員達が続々と会場に入って来た。しかし誰もそれを咎める者は居ない。ここに至って、ジョンはようやく気が付いた。
何時の間にか、歌詞と曲が変わっていた。歌われているのは魔笛ではない、別の何かだ。それは英語ではなく、聞いた事も無い言語の代物である。まずい、と思ったものの、会場内を支配したその声に体を束縛され、ろくに身動きが取れない。他の観客は、生気の抜けた間抜けな顔を晒し始めていた。唯一この場で抵抗の意志があるのは、ジョンと警部補くらいのものだろう。
しまった、と思う。最も恐れていた、異変の発生が即ち手遅れの状況に陥りつつあった。
トイレの鏡から抜け出し、ドグは脱兎の如く会場へと向かった。その間、関係者らしき者に出会う事は無かった。皆、会場の中に入ってしまっているらしい。
程無く会場の扉へと辿り着くも、手を掛けたノブは固く、回らなかった。ドグはゾッとした。これは鍵が掛かっているのではない。扉は呪的に閉じられているのだ。
扉に耳を当て、ドグは会場内の様子を覗った。ここに来るまでも奇妙だとは思ったが、歌らしきものは一切聞こえて来ない。既に発表会は始まっているというのに、である。
「やべえ」
ドグは扉を盛大に蹴り上げた。蹴って蹴って蹴りまくり、それでも中の者達は誰もそれに気付いていない。
マティアスが異変を知ったのは、EMFの反応が跳ね上がってからだった。
「始まったのか!?」
焦るように呟き、しかしマティアスはその場での待機を選択した。このアジトがサタニストの儀式と関連がある以上、何が起こるかを見定め、出来れば災厄を阻止せねばならない。足早にアジトの中を歩き、マティアスは絵の飾られた部屋に向かった。最も電磁場異常の反応が激しいのは、その場所だからである。
部屋に入るや、マティアスはデスクの後ろに身を潜めた。絵画には既に異変が起きていたのだ。油絵が映像のように波うち始め、その『向こう側』からは風の吹きすさぶ音声までが聞こえてくる。そして轟く音の中から、人の駆け足のようなものが聞こえてきた。それは次第に大きさを増し、突如絵画に姿を現した。人間の皮膚を剥いだようなおぞましい顔が、絵の向こうでガンガンとこちらを叩いている。マティアスは、その特徴的な風貌を持つ吸血鬼について、仲間内からその名を聞いていた。次席帝級、ジル・ド・レエ。サタニストの目的は、アジトからジルを会場へと導く事にあったのだ。その結果は、火を見るよりも明らかだ。グレース大聖堂で殺戮が実行される。
『開け!』
ジルは絵の中で滅茶苦茶にこちらを叩きながら喚き散らした。
『開け! 開くのだ! 何故開かぬ!』
本来ならば、ジルはその絵を滞りなく抜け出す事が出来ただろう。しかしマティアスが事前に貼った結界霊符は、どうにか彼を向こう側へ押し留めていた。が、相手は次席帝級である。その効力が長持ちするとは思えない。マティアスが危惧する通り、霊符は焦げ落ちる紙のように黒々と変色を開始した。
(持ち堪えてくれ。頼む)
マティアスの祈りは、それから1分弱で破られた。
ジルは額縁に手を掛け、絵の外へと身を乗り出してきた。こうなると、最早手の出しようも無い。それでもマティアスは、ナイフに死人の血を浸す事を忘れなかった。
しかしジルは、マティアスの存在に全く気付く事無く、凄まじい速度で部屋を飛び出して行った。恐らく鏡の間に向かったのだ。が、その部屋の大聖堂へと通じる道は既に絶たれている。ドグの言う通りに、マティアスが鏡面を叩き割っていたからだ。
程無くして、ジルによる怒りの咆哮がアジト全体に響き渡った。
永遠に続くかと錯覚するその合唱は、突如1人の男の起立によって不意に止んだ。立ち上がったのは、カーティスだ。立った、と言うよりも立たされた、の方が正解である。
目に見えない何かに胸倉を掴み上げられ、カーティスは目を白黒とさせている。ほとんど息のかかる間近から、ドスの効いた女の声が低く発せられた。
「前にも経験しているはずだ。私には、あなたの魔術などは通用しない」
「この前の吸血鬼ですか!?」
吸血鬼も上位の階級になると、魔法めいた様々な技を使う者が居る。ノブレムのレノーラもその1人だ。そのレノーラから授けられた特異技能の1つ、『消身』をマリーアは使った。加えて吸血鬼である彼女には、人間の用いる魔術の類が一切通用しない。この場の人間の精神をも乗っ取りかけたサタニストの儀式は、マリーアが侵入を果たした時点で失敗する事が確定していたのだ。
其処へとどめに、火災報知器の警報音が轟き渡る。同時に「火事だ!」との叫び声も聞こえてきた。ドグが機転を利かせ、警報を鳴らしたのだ。色めき立つ聴衆と聖歌隊に対し、正気を取り戻したマクベティ警部補が大音声で一喝する。
「落ち着いて下さい! 自分はSFPDのマクベティ警部補です! これから私が誘導を行ないます。ドアの近くの方から順番に、落ち着いて避難して下さい!」
身分証を頭上に掲げながら、警部補が出口へと駆けて行く。その途中で、彼はジョンの肩にポンと手を置いた。後は任せたとの意思を受け、ジョンも小さく頷き返す。
さすがに現役警官の警部補は、避難誘導も手馴れたものだった。この場に警官が居るという安心感もあって、観客と聖歌隊は整然と扉の外へと向かっている。これにてサタニストの儀式は、その目論見が崩壊した。ジョンは改めてカーティス達を確認した。出口に向かう人ごみの中で、10人弱ほどが壇上へと逆行している。労なくしてサタニストを炙り出せた訳だ。そして主役のカーティスは、不自然な格好で壇の脇に引っ込もうとしている。引き摺られているという表現が正解だろう。マリーアが捕縛に成功したらしい。
「ジョン、久しいな」
腕を小突かれ、ジョンがそちらを見ると懐かしい顔が居た。ドグ・メイヤーである。
「それじゃ、先刻の火事騒動はあなたが?」
「そういう事だ。さあ、俺達も急ぐぜ」
連れ去られるカーティスを、サタニスト達が取り囲もうとしている。2人は頷き合い、壇上へと歩を進めた。
その頃にはマリーアも、その姿を露にしていた。
既に観客の避難は終わろうとしており、会場に居るのは自分とハンター、それにサタニストくらいのものである。こうして誰にも見咎められない状況は、マリーアにとっても幸いだった。
「動くな。こいつの頚椎をへし折るぞ」
徐々に輪を狭めてくるサタニストを前に、マリーアはヘッドロックを掛けた腕を更に締め上げた。カーティスが苦痛の声を漏らす。吸血鬼である彼女の腕力ならば、人間の首を折り曲げる程度は容易い事である。
だが、マリーアは其処まではしなかった。と言うより、出来なかった。子供達が儀式の餌食となる事を防ぐという目的は、既に達せられている。そうなれば彼女自身に、差し当たってカーティスを殺す動機が無い。この男を放置すれば、また危険な事をしでかすと頭で分かっていても、人殺しの重みをマリーアは重々承知している。吸血鬼である前に、自分はかつて、生徒を教え導く者だったのだから。そしてその躊躇を、カーティスは見逃さなかった。
「これからどうなさるのです、女吸血鬼さん。貴女は捕らえた私をどうするのか、考えぬまま行動を起こしたのですか?」
「黙れ。あなたの処遇は、ハンター達が考える話だ」
「そういう事」
包囲の外から、ドグがショットガンの銃口をカーティスに向けて言い放った。応じてサタニスト達も、忍ばせていた拳銃を彼に向ける。
「動くな!」
マリーアがカーティスを揺さ振って、サタニストに恫喝を加える。これにて互いが手出し出来ない、三すくみの状況が出来上がった。
「ドグ、無事だったか」
「ごきげんようだな、お姉ちゃん。さあ、どうするよ、カーティス。俺は逃げ果せて、折角の儀式も台無しになっては、ざまあ無えな」
「2人の配下が居ましたが?」
「地獄で針のむしろを歩いているよ。お前も会いに行ってやれ」
「…その前に、ちょっと話をしてもいいですか?」
ドグの後ろから、ジョンがひょいと顔を出した。
「サタニストの目的なんざ、どうでもいいです。しかしサタニストにこの人達がなってしまった経緯には興味がありますよ。最後に問いましょう。どうして悪魔崇拝なんて邪道を選択したんです?」
問われたカーティスは、ジョンが何を言っているのか図りかねる風であったが、ふと口の端を曲げ、くぐもった笑い声を立て始めた。
「学問としての神秘主義には昔から興味がありましてね。突き詰めた結果、こうなったのですよ。我が主となる方に巡り合うという幸運もありましてね。あの方は素晴らしい力をお持ちです。そして私も、その力の一旦を手に入れる事が出来た」
「力。力ねえ。力に魅了されたって事ですか。その力とは、引き換えに親と家族を生贄に差し出すほど魅力的だったのですか?」
「ええ、そうですが、それが何か?」
さも当然と答えるカーティスに、ジョンは肩を竦めた。この男は、最早人としての健全な感受性を喪失している。悪魔のそれに近い思考の仕方だ。
「つまらないですね。ああ、つまらない。何だかガッカリですよ。さっさと捕縛しましょうか」
「一体どうやって?」
カーティスはジョンに対し、勝ち誇りつつ言い放った。
「私達は善良な一般市民ですが。警察の罪状に何ら当てはまりませんね。もしも私達を拉致すると言うのなら、それは一般常識に照らし合わせて貴方達が犯罪者になるのですよ」
「面倒臭え。ぶち殺してしまえ」
ショットガンを突きつけるドグに対しても、カーティスは鼻で笑った。
「殺すのですか、私達を。もうそれで殺人犯ですよ。先のマクベティ警部補とやらは、貴方達の仲間内のようですが、彼でも殺人までは庇いきれません」
「うるせえ。俺の手は、もう真っ黒に染まっちまったんだ。警察が怖くて狩りなぞ出来るか。今更サタニスト如き、皆殺しにするのに躊躇も無い。みんなまとめて、血の池パラダイスへ行ってこい」
「いいや、矢張り死ぬのは貴方達だ。この事態になってから、呼ばせて頂きましたよ。あの方を」
その言と共に、カーティスを拘束するマリーアの目が見開かれた。咄嗟、ドグとジョンも背後を顧みる。
何時の間にか、座席に男が座っていた。中華系、スーツ姿の。男はにこやかな顔でハンターとマリーアを見詰め、ゆっくりと、乾いた拍手を送った。
「おめでとうございます。お見事でした。見事、私達の企みを打ち砕きましたね」
マリーアは唇を舌で舐め取り、震える声でその名を口にした。
「あなたが、この者達の主か。カスパール」
「御名答」
カスパールは立ち上がり、脇の何も無い空間を愛しそうに撫でた。何も居ないはずのその場所から、犬の吠え声が一つ上がる。
「ブラックドッグ」
ドグは絶句した。第2級と思しき悪魔と、ブラックドッグまでもがこの場に居る。カスパールがその気になれば、一秒とかからずマリーアと自分達は生首を壇上に晒す事となるだろう。形勢は完全に逆転した。サタニスト達が狂気の歓声を上げた。
「カスパール様、この者等に死を!」
カーティスが叫ぶ。
「この者達はカスパール様の立てられた計画を尽く潰し、最後の大仕事までをも邪魔しました。こ奴等の魂、思う存分弄び下さい!」
「まあまあ静かに、カーティス君。口にチャック」
唇を指で閉めるジェスチャーと共に、カーティスの口が縫い合わされたように閉じられた。その意味を理解出来ずにうろたえるカーティスを見下し、カスパールはそっぽを向いて俯いた。そして言う。
「申し訳ありませんね。ジル殿。また失敗してしまいましたよ。しばらくそのなりで、活動をしてみて下さい」
カスパールは独り言を呟いているのではない。何かとしゃべっている。その相手が何者かを、ドグは凡そ理解した。ジルだ。
「いやはや、面目ない。しかしあなたは、それでも十分お強いでしょう」
「それは分かっておりますよ。何れ御主がお目覚めの際は、私からも完全復活を頼んでみますよ。勿論、御主の気分によりけりですが。今回はどうか、住処にお戻り下さい」
ごきげんよう、の言葉を最後に、カスパールは顔を上げた。相も変らぬ不思議な笑顔だったが、見る者には分かる。その目は一切笑っていない。
「私には嫌いなものが一つだけあります。それは無能な部下です。有能な敵は評価に値しますが、無能の輩を飼っておく程、私も酔狂人ではありません」
「カスパール様…?」
カーティスが呆然と呟き、サタニスト達も不安げに顔を見合わせる。カスパールが怒りの感情を抱いている、という所までは理解出来たが、その怒りが自分達に向けられているとは、彼等はどうしても解せなかったのだ。カスパールはいよいよ酷薄に目を細め、口元から笑みすらも消した。
「儀式が中途半端に終わってしまいましたね。ジル殿には帰って頂きましたが、もう1人が私ですら制御出来ません。歪んだ形で呼び出してしまいましたね。怒っていますよ、彼女は。『ルクス』は。折角我が力としようと思ったのに、残念です。よって、私は人身御供を捧げようと思います。約束通り、君達の魂を有効に使わせて頂きますよ」
カスパールが指を鳴らす。同時にカーティスを始めとするサタニスト達が、一瞬で跡形も無く姿を消した。カーティスを締め上げていたマリーアが、勢い前につんのめる。
「おいっ、あの者達を何処にやった!?」
マリーアの問いに、カスパールは冷酷な声で答えを返した。
「お似合いの場所に行って頂きましたよ。それでは皆さん、さようなら。また何時か。ところで、ドグ・メイヤー君。君の胸をよく御覧なさい」
不意にカスパールから水を向けられ、ドグは弾かれたようにシャツの前を開けた。何時の間にか、胸に逆さのペンタグラムが刻印されている。地下牢に閉じ込められた際に、どうやら穿たれた代物らしい。
「それがどういう効能を持つのか、最早私にも分かりません」
「何だそりゃ。俺に何をした!?」
「せいぜいお気をつけ下さい。彼女は執念深いので」
それきり、カスパールは彼等の前から姿を消した。
「失敗だと!? 貴様、ここまで無駄な時間を俺に費やさせたのか!」
「馬鹿な、俺の力がこの程度で収まるか!」
「貴様…ただで済むとは、思わない事だ!」
ジルの声は大きい。大音声である。絵の部屋に隠れるマティアスにも、離れた位置からの怒りの声が、鼓膜を振動させんばかりに響いてくる。その後、廊下を踏み鳴らしながら歩んで来る音が聞こえ、黒い塊が部屋に飛び込んで来た。それはあっという間に絵の中に入り込み、アジトを支配していた恐るべき気配は、ようやく霧消してくれた。
マティアスは机の下から転がり出、急いで絵の掛けられた壁に走り寄った。再度封印を施す為だ。しかし一枚目を貼る前に、思い直して己が掌を絵に当てる。少し力を入れると、掌は確実に絵の中へとめり込んでいった。
大きく息をつき、マティアスは改めて絵の周囲に霊符の封印を施して行く。その淡々とした作業の最中、マティアスは重大な思いつきに心を囚われた。この絵を利用すれば、自分達はジルの一党が潜む本拠地へと侵入する事が出来るのだと。
霊符を貼り終え、安堵したのも束の間、今度はけたたましい悲鳴が轟いた。それも複数の人間によるものだ。マティアスは腰が砕けそうになった。
「…今度は一体、何なんです!」
愚痴りながらも、マティアスは急ぎ声のした方へと走って行った。その方角は、件のペンタグラムが描かれている部屋だ。そして慌てて辿り着くと、部屋では凄まじい光景が繰り広げられていた。
ペンタグラムが生き物のようにうねりを見せ、何人もの人間が壁の中へと飲み込まれて行く。その内の1人は、マティアスも知った顔だった。
「カーティス!?」
「た、助けて」
差し出された手が空を切り、カーティスはペンタグラムの中へ完全に飲み込まれてしまった。そして間を置かず、壁から何かが一つ、二つと放り出されて行く。マティアスはそれを凝視し、思わず吐き気を催した。医学の心得がある自分には分かる。人間の肝臓だ。肝臓だけを9つ吐き出すと、ペンタグラムは元の形に戻ってしまった。
内臓の放つ臭気に顔をしかめ、マティアスはその場に立ち尽くした。どういう経緯かは分からないが、どうやらサタニスト達はペンタグラムの贄として供されたらしい。それがどのような意味を持つのか、さすがにマティアスにも分からなかった。
取り敢えず、とマティアスは思う。取り敢えずこのペンタグラムは、早々に消してしまった方が安全だと。
<ルクス>
「しかし、これで一件落着と考えていいもんかね」
1人1人に酒を振舞いながら、マクベティ警部補は嘆息をついた。
発表会は火事騒動で御破算となり、聖歌隊も観客に取っても、落胆する結末を迎えてしまった。しかしその裏で、会場の全員が皆殺しになる大事件が未然に防がれた事を、彼等は知る由も無い。
だから警部補は、その功労者達を酒場で一杯奢って慰める事にした。名誉も報酬も無い。感謝もされない。真に偉大な彼等にしてやれるのは、精々この程度だと皮肉交じりに言いながら。
「サタニストは全員死にましたよ。実際に修羅場を見ましたから」
「少なくとも、歌に纏わる子供達への脅威は、去ったというところでしょうかねえ?」
「まだカスパールは健在だ。悪魔も、ジルとエルジェの一党も。しかし、少なくとも子供達は救われた。私にはこれで充分だ…」
マティアスとジョン、それにマリーアが口々に言う中で、ドグだけが浮かない顔をしていた。どうした、と警部補が気を向けると、ドグは曖昧な笑みを浮かべて、ビールを喉に流し込んだ。
「それにしても、あの絵ですが」
マティアスが件の絵について思うところを述べた。
あの絵を利用すれば、自分達は吸血鬼の本拠地に行く事が出来る。サタニストが壊滅してもアジトが健在の今、これを利用する価値は大だ。
しかし、実際に行ってどうなるかと言えば、待ち構えているのは強力な吸血鬼達である。あの絵を潜って侵攻を仕掛ける程の力を、ハンターやノブレムは蓄えていない。
まずはその本拠地が、どういう意味を持つ場所なのかを探る必要があるだろう。それにしても恐ろしく危険を伴う仕事だ。ハンターと若い吸血鬼の悩みは何処までも深い。
皆と別れを告げ、ドグは1人夜道を歩いた。実のところ、帰る場所はマティアスやジョンと同じくジェイズなのだが、とにかく1人になりたかった。と言うのも、先程から胸が疼いて仕方なかったからだ。
「何だ…クソ、何が起ころうってんだ」
ドグは胸を押さえ、呻いた。何か良からぬ事が我が身に起こると、ドグは自覚している。故に仲間を巻き込まぬよう、1人歩きを選んだのだ。
胸の高鳴りはいよいよ加速の一方だった。ドグは焼けるように熱くなってきたペンタグラムの刻印を掻き毟り、バッグから散弾銃を取り出した。そして路肩に座り、散弾銃の銃口を咥え、靴を脱いだ足の指を引き金に引っ掛ける。自分に何らかの異変が起こったならば、即座に頭を吹き飛ばそうと。これで部下達のところへ逝ける。自分にはお似合いの最期だと。しかし胸から突き出てきた腕が、散弾銃を毟り取った。
自分の胸から、正確にはペンタグラムから、細く長い腕が這い出して来る。やがて直毛ブルネットの後頭部がドグの眼下に迫り出し、ぼたぼたと水滴を落とす白い服に包まれた胴体までもが出現した。脅威の光景を、ドグはただ見る事しか出来ない。やがて足がドグの胸を蹴り、女と見える代物が地面に転がり落ちた。
女が振り返り、ドグを凝視する。それは美しい顔立ちで、体は実に肉感的な、有体に言えば男好きのするラインを描いていた。しかしその目には理性が無い。吊り上がった女の目は、肉食の野獣そのものだった。ドグは腰裏に差したナイフを手繰り寄せた。こいつは、この世ならざる者だ。例の儀式で、サタニストが呼び出そうとした獣だ。
しかしナイフを取り出す前に、女は一瞬で間を詰めて来た。そして歓喜に満ち満ちたその顔を、ドグの鼻先にぐいと寄せてくる。獣が言った。
「ねえ、ねえ、あんたでしょう。あんたなのよねえ! 頂戴、頂戴よ。あんたが死んだら、肝臓以外全部頂戴! ねえ、死んだ後でいいからあ!」
問答無用で、ドグが女の首にナイフを突き立てる。しかし女は何でもないように、邪魔なものを取り払うようにナイフを抜き、投げ捨てた。そして若干間を置き、首を押さえて泣き叫んだ。
「痛い痛い! 痛いわ! 許して、御主人様! 何でも言う事、聞きますからあ!」
「御主人様、だと?」
呆然と座り込むドグが発した声に反応し、女がすかさず擦り寄る。ドグの胸に顔を埋め、女はペンタグラムを丁寧に指でなぞった。
「呼び出されたはいいけれど、その指示はとても中途半端だったのよ。あたしが仕える者が誰なのか分からない。故にあたしは、あんたを選んだ。本来あたしが、肝臓以外を全部食べるはずだった男を!」
女は飛び退り、片膝を付いて恭しく頭を下げた。そして上げた顔は、相も変らぬ狂気の沙汰である。女は唇を真っ赤な舌でべろりと舐め、言った。
「尽くすわ。尽くして尽くすわ。あんたのその身が滅びるまで。そして死んだ後は、私が美味しく食べてあげるよ。肝臓以外」
「何故肝臓以外」
「だってそういう者だから。あたしは『ルクス』。水のばけもの。あたしはあんたの力になる」
言って、女は、ルクスは自身の体を固く抱いた。見る間に女の姿が、巨大な馬の形となる。赤毛の、爛々と金色を放つ目の邪悪な馬だ。ルクスはドグの心に直接語りかけてきた。
『背中に乗せてあげるわ。それであんたは、強大な力を伴侶とするの。あたしが力を貸してあげる』
「俺に力を貸す? お前が?」
『だから死んだら、美味しく食べさせてね。肝臓以外』
言って、ルクスはその姿を幻のように消した。またペンタグラムの中に戻ったらしい。
しばらく座っていたものの、ドグは気を取り直して立ち上がり、尻の埃を払った。サタニストに拉致された挙句の果てに、とんでもない御土産までついてきた。一体何処まで、自分は運が無いのだろう。
しかし、とドグは思う。
しかし、こんな有様で、果たしてジェイズの主は自分を入れてくれるのか?
<VH1-4:終>
※ドグ・メイヤー氏につきましては、キューが面白がりましたので、今後もジェイズに滞りなく出入り出来ます。
○登場PC
・ジョン・スプリング : ポイントゲッター
PL名 : ウィン様
・ドグ・メイヤー : ポイントゲッター
PL名 : イトシン様
・マティアス・アスピ : ガーディアン
PL名 : 時宮礼様
・マリーア・リヴァレイ : 月給取り
PL名 : 蒼夏様
ルシファ・ライジング VH1-4【サタニック・ヘッド】