<連絡事項>
うたた寝の風間を深夜の着信音が揺さぶり起こした。
風間は軽く痛むこめかみを押さえつつ、眠い目で携帯電話に表示される名前を見、たちまち意識が覚醒した。相手はミラルカである。
「どうした」
『言い忘れていた事が2つある。この番号、次からは繋がらない。我ら一党が本格的に始動する中で、お前達との関係を悟られる要素は全て破棄する事にした』
風間は思わず脱力した。今生の別れのような言い方で立ち去ったミラルカが、何を連絡してきたのかと思えばコレだ。
「お前は、本格的に俺達と敵対するのか?」
『…仕方ない。私が全く望まない事でも、真祖の指示を履行しようと、この体は動くのだ。しかし再封印を施された今なら、多少は背く事が出来る。アルカトラズの面々と向き合っても、極力手を抜く努力ならば出来よう』
「奴は今、何処に? 奴に施したGPSの反応が消えちまったんだが」
『下界の「古城」だ。全く身動きは取れないが、心話で吸血鬼と通じる事が出来る。それからもう一つ』
ミラルカは、風間に上着のポケットを探るように伝えた。受けて風間は、ハンガーにかけた上着をまさぐり、ポケットに入れられたスイッチのようなものを取り出した。去り際にミラルカが肩を叩いてきた事を思い出す。あの折に仕込まれたものであったのかと。
『それは起爆装置だ。私の体に埋め込まれた爆薬に無線で接続されている。私も首もろとも木っ端微塵に吹き飛べば死ぬであろう。いざという時は20mの範囲に接近して、そのスイッチを押すがいい』
「待て」
風間は、歯を軋らせた。つまり彼女は、何時でも自身を殺せる仕掛けを彼に託したという事だ。
「呪いを解いて、人間に戻りたいんじゃないのか」
『一縷の望みはある、と思っている。ノブレムやハンターが真祖を抹殺すれば。しかしその道行きを、真祖に支配された私が邪魔するというのなら、何を優先すべきかは自分でも分かっている』
「他に呪いを解く方法は」
『恐らく無い。だから落ち着いて考えてみれば、私の存在がお前達に不利をもたらす公算が高い。風間、もしも殺されるのであれば、私はあの時からの縁で繋がったお前の手にかかって死にたい。危険な仕事に尽力し、戦ってくれたお前に殺されるのであれば、人間に戻れずとも本望だと私は考える』
「断る。女をバラバラに吹き飛ばす権利など、誰が要るものかよ」
『選択肢は風間に委ねた。実に勝手な言い草であると私も思う。それでは風間、ありがとう。良い夢を』
それを最後に、通話は切れてしまった。良い夢をとは、実に情緒的な言い方であった。
掌で握る起爆装置を、風間はじっと見詰めた。捨ててしまおうかとの考えも過ぎったが、矢張りそれは躊躇われる。ミラルカを爆殺する非常時手段が失われるから、ではない。
その起爆装置は、ミラルカの人としての心を具現化したもののようだと、風間には見えたからだ。
<H7-4特:終>
○登場PC
・風間黒烏 : スカウター
PL名 : けいすけ様
ルシファ・ライジング H7-4特【Vanity】