<ノブレムのアパルトメント>
人間にとって吸血鬼は天敵である。しかしながらそれ以上に、吸血鬼にとって人間は虐殺者だ。吸血鬼という生態系の鬼子が誕生して幾星霜、大小を含めた数限りない戦いを経て、両者は今に至っている。その関わり合いは、憎悪と恐怖が連なる歴史でしかない。
だからノブレムという穏健派の吸血鬼集団が立ち上げられた事は、革命的とも言えるし突然変異とも言える、かつての両者の関係から比すれば常軌を逸した事態なのだ。その唐突さを受け入れられるだけの下地が、人間と吸血鬼の双方に未だ出来ていない。
ノブレム内部でも、先走り過ぎている観があるレノーラの方針に、不満を抱く者が居る。その方針は吸血鬼の本能を真っ向から否定しており、彼らが潜在的な不信感を抱いたとしても仕方の無い事だ。
今のところ、その不満を露骨に表現しているのは唯一人、フレイアという若い吸血鬼である。しかし1人とは言え、ノブレムの中にあって戦いの際には主軸の立場であるから、彼女の影響力は決して無視出来ない。悪い例えを用いれば、腐ったリンゴは周囲のリンゴも腐らせてしまうものだ。彼女から端を発すれば、ノブレムは容易く瓦解する可能性もある。
毎朝毎晩、四六時中、ご機嫌顔のフレイアなどは、誰も見た事がない。彼女は今日も眉間に皴を寄せ、何かをこらえているような顔だった。しかしながら桁外れの力を発揮する場もなく、不味い牛の血を飲み、自主的な軟禁生活を延々と継続する吸血鬼の毎日を、それは象徴する顔なのかもしれない。ロティエル・ジェヴァンニは、率直に不憫であると思った。それでも彼は、吸血鬼と人間の双方が破滅的な戦いに突き進むよりは遥かにマシだと信じている。表紙に「白痴」と書かれた本を捲りながら、一杯やっているフレイアのグラスに、ロティエルはぶどう酒を注ぎ足してやった。
「卿は時間があればドストエフスキーですな。余程お好きなのですか」
「卿ってアンタ。私が卿ってガラかい」
フレイアはページに目を落としながら、ハ、と息をついた。それでも一応、笑った事にはなっているようだ。
「私がドストエフスキーを読むのは、魂の救済を描いている割に話は苦い終焉を迎えて、それでも読後感がいいからだ。救済とは何かを我が身に置き換えて、ちょっと向き合おうという気にさせてくれる。しかし一番の理由は、やたら長いので時間潰しにはもってこいな所だね」
「確かに。読書感想文の題材に選んで、後から頭を抱える膨大さではありますな」
その昔、私は「罪と罰」の感想文を手塚治虫の漫画で済ませた事がありました。
フレイアは見た目も言動も粗暴だが、思慮深さも備えている。とは、ロティエルのフレイア評だ。だからこそ、こうしたコミュニケーションには意義があると彼は考えている。
ロティエルは自らの立場を、レノーラが目指す共存主義の同志と位置づけている。よって此度の事件を発端に、人間との本格的な抗争に至る道筋を、阻まんとする者の1人であった。仲間内から突出した者が出るか否か、ロティエルは目を光らせていたのだが、差し当たって極端な行動に出ようという者は居ない。それはどうやら、人間の側にしても。行動を起こさねばならない展開は無さそうだった。
こうなると潜在的に離反の可能性を孕む者と言えば、ノブレムの中ではレノーラが筆頭格だ。かように酒を飲みながら、ある種の牽制をロティエルは仕掛けているのだが、その意図をフレイアは察しているらしい。彼が何を言い出すか、フレイアは待ち構えている感がある。長躯の腰に掛かる金色髪をに手をやって、ロティエルは居住まいを正した。
「救済ですか。果たして吸血鬼は救済され得る存在なのでしょうか?」
「人間から見れば、私達は地獄の住人だ。呪われた存在に見えるだろう。しかし、なってしまったものは仕方がない。自らはこういうものだと、受け入れるしかないだろう。人の血を食らって生きる。認めてしまえば、心はきっと開放されるんだろうよ」
「しかしレノーラは、違う手段を模索しております」
大きく音を立てて、フレイアは本を閉じた。口の端を曲げながら、彼女は続きを促している。それで?
「この状況には限界がある。それは私も認めましょう。それでもレノーラには、何らかの考えがおありだ。吸血鬼と人間の関係性に大きな変革をもたらす、言わば突破口のようなものを」
「吸血鬼を人間に戻すとかいう、例のアレかい?」
「それも考えの1つでしょうな」
「分からんね。何故、吸血鬼を認めない。人間が人間としての自己を否定したら、そいつは正気の沙汰じゃないだろう。吸血鬼だって、同じだよ。われわれは何者か? 答えは簡単、吸血鬼だ。人間じゃない。ロティエル、あんたもだ」
「私もかつて人間だったようですが、今は吸血鬼ですな。しかし卿よ、お聞きなさい。私達は人の感性を保った『この世ならざる者』。この感性を信じる事に、レノーラは共存に至る道への打開を見出しているのです。この感性の維持こそが、吸血鬼の特異なアイデンティティでもあるのですよ。これを否定してはなりません。否定すれば、それは唯の怪物です。私はかつて人間であった。フレイア、卿もです」
「われわれは何処から来たのか」
「われわれは何処へ行くのか」
「地獄への一本道のような気がするよ、このままだと」
フレイアは席を立って、本を脇に抱えた。
「あんたの顔に免じて今回は大人しくしとくよ。ただし奴等が武器を向ければ、こちらも遠慮なく牙を剥く。まずは双方の出方を拝見しようじゃないさ」
リビングを出て行ったフレイアの後姿を見送り、ロティエルは一先ず安堵した。反人間の急先鋒が、言われもない嫌疑をかけてきた人間達への牙を、取り敢えず引っ込めたのだ。
しかし、と、ロティエルは思う。彼女の言う通り、このままではいけないのだと。
<協力者>
かの有名なドラキュラ伯爵は日光を浴びて塵に返ったのだが、レノーラとその一行は普通に昼日中の通りを歩いている。この時間帯は吸血鬼の身体能力が若干落ち、種としての優位性を発揮出来ない。だから吸血鬼は夜間に行動するのが常だった。ナイト・ウォーカーと呼ばれる由縁である。
しかし吸血鬼にも日中に用件ぐらいはある。そういう時は、光に弱い目をサングラスで守り、街を闊歩するのだ。5人の色白サングラス御一行は、ミッション地区から一路北へ、マリーナ地区を目指して歩いていた。坂の街、サンフランシスコ。吸血鬼の体力ならどうという事もないのだが、矢張りアップダウンは激しい。
エルヴィ・フォン・アスピヴァーラ。吸血鬼は、見た目で年の頃など分かりはしない。彼女は何処からどう見ても子供だが、ノブレムの中でも高齢の部類である。とは言え、精神の老いとは体力の低下に密接しているものだ。よって経験豊富でありながらも、エルヴィは未だ少女の心が凍結している。少女の心とは、旺盛な好奇心と言い換えられる。よって、通りの真ん中をのんびりと走って来るサンフランシスコ名物のケーブルカーを、興味深く見詰めていたとしても無理はない。
「思ったより早くありませんのね、ケーブルカー。私達でしたら駆け足程度で追い越せますわ。車と高速鉄道が全盛の現代で、あんなにゆっくりした乗り物に乗りたがるのが人間の分からなさですわね。扉も窓もありませんし、結構危ないじゃありませんか。サンフランシスコに来てから一度も乗った事がありませんが、別に乗らなくてもいいものですよ。観光客の為の乗り物ですし。それにしてもみんな、あんなに楽しそうにして、私、ちっとも羨ましくなんかありませんわ」
先頭を歩いていたレノーラが立ち止まった。振り返り、エルヴィに曰く。
「乗りたいのね。ケーブルカー」
「まさか。折角フリスコに来たのだから一度は乗ってみたいとか、思った事もありませんわ」
レノーラはため息をつき、ポケットから$20と$5の紙幣を取り出した。
「片道$5。私が知っている頃に比べれば$2も値上がりよ」
有無を言わさずエルヴィの手を取り、レノーラはケーブルカーの乗り場に向かった。
パウエル-ハイド線は、3本あるケーブルカー路線の1つである。この路線はフィッシャーマンズ・ワーフとユニオン・スクエアを繋ぎ、中途に有名なロンバート・ストリートを眺められるので、観光客には大変人気がある。しかし客を満載しているように見えるケーブルカーでも、途中からの乗車は然程難しくない。レノーラ達はすんなりとケーブルカーに乗る事が出来た。
ガタゴトと車体を揺らし、多くの観光客と5人の吸血鬼を乗せ、古びたケーブルカーが懸命に坂を上って行く。
ステップでポールに掴まりながら(この乗り方は特に人気がある)、ジェームズ・オコーナーは移ろう通りの姿を眺めた。脇ではエルヴィも車体から半分体を乗り出している。案の定、楽しんでいるようだ。
しかしながら、こうしてひたすら過ぎ行く景色を見ているのは、風光明媚な眺望で和む為ではない。なるべく人間を間近で視界に置かないようにしているのだ。2人は共に戦士級である。ノブレムにおいて戦士級は、本来人間との接触を極度に制限されている。それでも戦士級の2人が人の只中に身を置くのは、理由があった。
「なあ、ロマネスカ。その『協力者』は、フィッシャーマンズ・ワーフで働いているのかよ?」
隣のシートに座るロマネスカに、ジェームズが声を掛ける。対して彼は、微笑みながら首を横に振った。
「違うよ。元は大学で教授をやっていた人だ。今はマリーナの一軒屋で引退生活を楽しんでいる。坂を下り出して一つ目の乗降場で降りるからね」
「え。降りるんですの?」
「エルヴィ、君だけピア39のアシカでも見てくるかい?」
「失敬な。私、アシカになんてちっとも興味がありませんわ」
そのやり取りを聞きながらジェームズは頬を緩めて、ふと最後尾に座るレノーラを見た。彼女は同行したジュヌヴィエーヴと並んで、何やら他愛無い話に花を咲かせている。アパルトメントの中に居る時にはあまり見られない姿だったので、ジェームズは少し驚いた。協力者とはそれほどまでに、彼女にとって心安い人なのかと。
レノーラという吸血鬼の最強類には、ある特定の人間との深い繋がりがある。彼女が言う「人間に戻れるかもしれない」研究に従事する、極めて奇特な人間だ。この件はノブレムの中では周知の話だったが、誰もがレノーラの絵空事だと、何処かしら考えている節がある。特にフレイア辺りは頭から信じていない。かく言うジェームズも半信半疑だった。
しかしその人間に、会ってみる必要があるとジェームズは考えた。もしそれが具体的な成果を出せる研究だとすれば、吸血鬼と人間の双方に様々な波紋を呼び起こすだろう。肯定と否定、何れかのスタンスを伴って。エルヴィにしても此度の道行きに同道したのは、自分同様に事を見極めたいとの思惑があったからだ。
何にせよ、これから自分は久方振りに人間と真正面から向き合うのだ。サイドバッグに入れた真空パック詰めの牛の血を、人に見られないように飲んでおく必要がある。
マリーナ地区の小さな住宅に、その人は住んでいる。カーラ・ベイカー。ケンブリッジ大学で自然人類学の教鞭を取っていた。イングランドから移住し、サンフランシスコを終の棲家として十年余。既に年齢は80に近いが、開かれた扉から出て来たカーラは、かくしゃくとしていながら気品があった。
「まあ、今日はこんなに大勢で。さあさあ、お入り下さいな。今日はとても楽しい日になりそう」
カーラは5人の吸血鬼を朗らかに招き入れた。その途中、ロマネスカと軽い抱擁を交し合う様を見、ジェームズは目を丸くする。
「何だ、お前とその人は知り合いなのか?」
「僕の友人さ。とても大切な友人だ」
ロマネスカはカーラの肩を抱きながら、最後にリビングへと入って行った。
カーラの家の客間は、小ざっぱりとした作りだ。簡素な調度品が1つか2つ置いてあるだけで、飾り気に乏しい。ジェームズは、何処となくノブレムのアパルトメントに居るような気がした。
カーラは2つあるソファに5人を座らせ、自らは台所から椅子を持ち込み、場は彼女を囲む格好となった。状況が全く違うとは言え、普通の人間が吸血鬼5人に取り囲まれれば死を意味するのだが、カーラは平然とカップに茶を注いでいる。その意味では、カーラが普通の人間ではない事は誰の目にも明白である。レノーラが居住まいを正し、初顔合わせの者にカーラを紹介した。
「彼女の事は、昔ロマネスカに紹介された。吸血鬼に関する実践的研究の大家。案外普通の吸血鬼よりも、吸血鬼に詳しいと言えるかもしれないわ」
「何故、吸血鬼に関わるんだ? 深入りは人間にとっちゃ、極めて危険だと思うがね」
ジェームズの問いに、カーラは1つ頷いた。
「そういう家系だったのよ。私の家は吸血鬼に深く関わっていたのね。ロマネスカとも古くからお付き合いをさせてもらっているの。彼には子供の頃、よく遊んでもらったわ」
「研究と言うが、つまりはどういう研究なんだい?」
「この言い方には驚くかもしれないけれど、怒らずに聞いてね。吸血鬼という種の絶滅よ」
エルヴィは呆気に取られた様子のジェームズを横目に、ひたすら違和感に耐えていた。種の絶滅という言い回しに含みがあるのは明白で、レノーラがカーラとの関係を良好に保つ事を良しとする根拠は必ずある。でなければ慎重極まりないレノーラが、人間との関わり合いを自ら積極的に行なうはずもないのだ。
それでもエルヴィはカーラの一言をきっかけに、少しずつ黒いものが膨れ上がる感触を覚えた。反射的な防衛本能、そして吸血本能。戦士級が戦士級たる所以の、本質的な衝動。道を歩いていても、ケーブルカーの中でも、エルヴィは周囲の人間に意識を向けないように心掛けていた。そして彼女に彫り込まれた「女帝のアミュレット」は、目立つ容姿の自分から人間達の目を欺いてもくれた。しかし、いざ1人の人間に自分が興味を傾けた時、全く抑え込みが効かなくなってしまった。
ここに来る前に、エルヴィはレノーラに確認していた。牛の血を携帯していないが、同行しても良いかと。彼女はそれを拒まなかった。敢えて自分を同行させたレノーラの真意が、人間への吸血を止めさせようとする思惑に繋がっているのだろうと、先ほどまでエルヴィは思っていた。しかし段々と、そんな事はどうでもよくなってきている。とにかく血が呑みたい。目の前のカーラは年老いた女性だが、牛の血などという代物より、万倍も渇きを癒してくれるだろう。
呼吸があえぎ始めた。唇と歯の隙間から、別物の牙がせり出してくる。エルヴィの控えめな口元が醜く牙を剥き出し始めた時、レノーラが凄まじい速度で彼女の喉を掴んだ。そしてパックの牛の血を口腔に捩じ入れ、だくだくと流し込む。エルヴィがむせ返ろうがお構いない。万力のような腕力で、レノーラはもがくエルヴィを捻じ伏せる。一頻り牛の血を飲ませた後、レノーラは咳き込むエルヴィの隣に座り、打って変わって優しく彼女の髪を撫でてやった。
「これがある限り、吸血鬼と人間の共存は不可能なのよ。私のように本能を完全にコントロール出来ても、月給取りのように本能自体が薄れてしまっても、吸血鬼は吸血鬼だ。我々がもしも吸血鬼としての生き方を謳歌するならば、それは殺戮の上にしか成り立たない。そんなものを人間が許しはしないから、結局血で血を洗う争いになる。この繰り返しで、私達はこんなところまで追い込まれてしまった。私達が生き残る手段の一つとして、私は吸血鬼が吸血鬼でなくなるという道を模索した。カーラは、その道筋の解に至ろうとしている人なのよ」
涙目で息を切らす小さなエルヴィを、レノーラが抱き締めた。
「無茶な事をしてごめんなさい。でも、あなたには身を持って知って欲しかった。物理的な手段を用いなければ、戦士級は心をコントロール出来ない事を。次に人間に会う時は、ジェームズのように用心なさい。でも、一番良いのは、本当は人間と関わらない事かもしれないわね」
「…無理を通したのは私ですわ。すみません、良い駒にもなれずに」
「エルヴィ、私はあなたや他の人達を、駒などとは一度も思った事はない」
修羅に陥りかけた場を、カーラは一部始終静かに見詰めていた。そして何事もなかったように、言葉を続ける。
「レノーラの言う通り、私は吸血鬼を人間に戻す手段を模索しているの。その具体的な手段とは、『反逆者』の血の継承よ」
「反逆者?」
固唾を呑んで成り行きを見守っていたジェームズが、耳慣れない単語に反応する。応じてカーラは、ジェームズの方へと向き直った。
「大昔の吸血鬼集団にあって、真祖に次いで古い2人の吸血鬼が居たわ。反逆者は、その内の1人ね。ある時、彼は寝返って人間の側に付いた。一体何をしたのかは知らないけれど、人間側に与したとき、彼は桁外れの身体能力を捨てていたそうよ。吸血もしない。普通に食事をする事が出来る。ただ、不死の体であるには変わらなかったそうだけど。そして彼は、オペラリオの原型になった。オペラリオとは、月給取りの事ね。月給取りと呼ばれる者達は、全てが彼の継承者と言えるのよ」
「で、具体的にどうしようってんだ?」
「私の元には、反逆者の血が冷凍保存されているの。呪的な処置を施したその血で、月給取りに対して輸血を行なう。時間をかけて、ゆっくりと馴染ませる。最終的には、反逆者と同じ素養を持つ事を目指すわ。そして彼らの血を、更に拡散させて行く。ただ、どうすれば『死ぬ体』に出来るかは、まだ分からないのよ。それをクリア出来れば、吸血鬼は人間とほとんど変わらなくなるのでしょうね」
「死ぬ体ねえ。人間からすりゃ、不老不死なんざ羨ましいもんに見えるだろうな」
「実際なってみると、然程良いものでもないでしょう?」
「まあな。人は死によって人としての完成に至る、とは誰の言葉だっけ」
軽口を叩きながら、ジェームズはカーラの言葉を改めて吟味した。
反逆者。オペラリオ。血の継承。聞いた事も無い単語の羅列は、正直なところ胡散臭いのだが、カーラは既に具体的な手段を準備している。そして何より、彼女は本気らしい。レノーラもだ。
しかし、とジェームズは思った。カーラはともかく、レノーラは吸血鬼でありながら、吸血鬼を否定する方向性でもって事に走ろうとしている。吸血鬼を、より人間へと近付ける考え方は、仲間内でもおいそれと受け入れられまい。それは恐らく百も承知で、レノーラは事を進めようとしているのだ。この話には、何かもう1つ深いところがありそうだ。
ともあれ、ジェームズは懸念していた。この話が仲間内のみならず、ノブヒルの惨殺事件に関与した「敵」に伝わっている可能性を。カーラの研究は、多方面から狙われる可能性が高い。今ならまだ、何らかの対策が打てるかもしれない。
「レノーラ」
ジェームズが深刻な面持ちで言う。
「カーラのやろうとしている事は、色んなもんを敵に回すぞ。それでもやり遂げるつもりなら、彼女を守らなくちゃならねえ。この件にはハンターを関与させた方がいいぜ。ハンターに彼女を護衛してもらうんだ。向こうさんも人間を守る事に関しちゃ文句はあるまい。それに、こちらが向こうを或る程度は信用するっていうスタンスも示せる。どうだ?」
「なるほど。検討する」
レノーラが腕組み、思案に耽る。その態度を見て、ジェームズは自分の提案が受け入れられると確信した。彼女は「駄目だ」と思った時は、結論を出すのが早いからだ。
反逆者の血の継承は、次の機会に行なわれる運びとなった。レノーラについてきていた月給取りのジュヌヴィエーヴが、被検体として一番目に名乗りを上げた、という訳だ。
最後に、エルヴィが尋ねる。戦士級が血の継承を行なった場合、どうなるのかと。
対するカーラの返答は、分からない、だった。しかし血の継承は、何れ全ての吸血鬼を人間に近しい者とする試みなのだ。確実に何らかの変容が起こるには違いない。
<V1-1:終>
○登場PC
・ロティエル・ジェヴァンニ : 戦士
PL名 : Yokoyama様
・エルヴィ・フォン・アスピヴァーラ : 戦士
PL名 : 朔月様
・ジェームズ・オコーナー : 戦士
PL名 : TAK様
ルシファ・ライジング V1-1【吸血鬼の模索・1】