<ヘンリー・ジョーンズ博士の招待状>
ドグ・メイヤーがジョーンズ博士に呼ばれたのは、相も変わらずジェイズ・ゲストハウスの1階酒場である。何しろ博士はダエヴァという危険極まりない異郷の元神様に付け狙われており、必要以外での外出が出来ないでいる。
酒場のカウンターに座ってウィスキーを一杯やっていた博士が、階段を下りてきたドグの姿を認め、フランクに手を振った。ドグとしては、何故自分が呼ばれたかについては凡その見当がついていた故、勧められた椅子に座る表情も些か硬い。博士はドグの心境を察したのか否か、緩やかに笑って彼にもウィスキーを2ショットで奢った。
「君から頼まれていた例の件だが」
博士は若干赤らいだ顔でもって、自らの懐に手を差し込んだ。
「まだもう少しかかりそうだよ。ま、焦らず気長に待っていてくれ給え。悪いようにはならん。取り敢えず今日は、昨今の状況を肴に酒でも飲もうじゃないか」
言いながら、博士は内ポケットから取り出した手紙を机の上に置き、トントンと指で叩いた。その動作とは裏腹に、博士は延々喋り続けている。ドグは博士の意を察した。つまり、博士はカモフラージュを行なっているのだ。
ドグは己の身の内に巣食う怪物、ルクスへの対処策を博士に相談していたのだが、どうやら博士は何らかの手段を想定したらしい。それを手紙という形でしたため、ドグに確認を促している。敢えてそれを口に出さないのは、ルクスに勘付かれない為なのだ。ドグは博士の取りとめも無い話に適当な相槌を打ちながら、さり気なく手紙を開き、文面を指で追った。
『弱点は吸血鬼だ。
ルクスは吸血鬼の天敵というセッティングが為された怪物だが、つまりルクスにとっての天敵も吸血鬼という事になると私は考える。
その根拠は、この街のシステムにある。サマエルは、この街の何処かしらの組織が突出して勝利する展開を決して望まない。つまり均等に勝ったり負けたりを繰り返し、力関係の均衡を図るという訳だ。
よってルクスが一方的に吸血鬼に勝つ存在ではないと私は考えた。恐らくルクスも、吸血鬼によって殺される存在なのだ。しかしジルに半分に裂かれても生きていた事への説明はつかない。君はそのように思うだろう。
君は吸血鬼が吸血鬼足りえる証とは何か分かるか?
それは血液だ。吸血鬼の血液こそが、彼らのこの世ならざる者としての根本を為している。ならば吸血鬼の血液をルクスに流し込めばどうなるか?
残念ながら、それも無駄に終わるだろう。ルクスが言っていた通り、外に出ている状態のあれは不死身なのだから。つまり、中に居る状態で吸血鬼の血液を送り込んでやればいい。
君が吸血鬼の血液を飲むのだ。
ルクスは君の体の、肝臓部位に潜んでいる。あれが人間を食い散らかす際に肝臓のみを残すのは、全く無意味な話ではないという訳だ。恐らく呪的な意味で、肝臓を寄り代としてルクスは生き永らえているのだろう。
君が吸血鬼の血液を口から体内に入れれば、その養分(と言うのは些か躊躇するが)は肝臓に回る。ルクスにとっては、猛毒を全身に捩じ込まれるのも同義だろう。
吸血鬼の血液を経口摂取しても、吸血鬼にはならない。それは肝臓で吸血鬼ウィルスが食い止められるからだ。人間が吸血鬼化するのは、自身の血液に吸血鬼のそれを直接流し込まれた場合のみである。あまり気は進まないかもしれないが、試してみる価値はあると思う。
そしてもう一つ注意せねばならないのは、吸血鬼ならば誰でもいいという訳ではない点だ。
例えば真祖やジル、そしてヴラド公では駄目だ。彼らは多分、体のつくりからして人間とは全く違うものだからな。よって人間由来の吸血鬼、それもとびきり強力な存在が望ましい。
私が考える候補は、以下の3人である。吸血鬼としての格が高い順から並べて行く。
1.リヒャルト・シューベルト
2.レノーラ ないしはカーミラ・カルンシュタイン
3.エルヴィ・フォン・アスピヴァーラ
レノーラ女史とエルヴィ嬢は、栄えある守護者の称号を与えられた強大な者達だ。そして不完全不死者のリヒャルト君は、総合的なところで既にレノーラを上回っている。この3人の誰かから血液を分けてもらい、それを飲むのだ。
勝負は一回こっきり。賭けは一発でルクスに見抜かれる。その一発で仕留められるかどうかは分からない。と言うのも、この3人の内、どれが君と相性が合うかは、私にも分からんのだ。
厳しい話だが、頑張ってみてくれ給え』
ドグは手紙を折り畳み、指で机上を滑らせて博士に返した。
立ち上がって会釈するドグに対し、博士は手を挙げて「もう一つ話を」、と呼び止めた。
「今少し猶予があるのなら、例の3人から土産を貰ってくれないかね? 私に預けてくれれば、君にとって一番いいものを選んでお返ししよう」
<VH3-5特:終>
○登場PC
・ドグ・メイヤー : ポイントゲッター
PL名 : イトシン様
ルシファ・ライジング VH3-5特【厄介な後始末】