<ル・マーサの邸宅>

「それで、お話というのは、送り犬の事なのです」

 事が一件落着し、エーリエル・レベオンは久方にマーサの本部を訪れていた。到着早々彼女の私室に通され、お茶もそこそこに切り出された話題がそれだった。

「私達の方でもどうにか対処しようと思っていたのですが…先頃の地震の影響もあって、活動が色々と忙しくなりそうなんです。今後しばらくはエーリエルさんにお任せする事になりそうですが、どうか宜しくお願いしますね?」

「ええ、分かりました。ハンターですから、対処するのは当然の事です」

「あと、良くない噂も耳に入っています。エーリエルさんのお仲間でもある、確かバーバラさんという方が、送り犬と密接に繋がっていると。本当でしょうか?」

「初耳ですね。彼女がル・マーサから距離を置きたがっているのは知っていますが。何れそれとなく聞いてみます。尤も、簡単に尻尾を出すような人ではありませんが」

「そうですね。噂が違っていればいいのですけれど」

 邸宅を辞し、ジェイズに戻る道すがら、エーリエルは不審極まる目で振り返った。

 バーバラについては、既に詳細をマーサ側は把握しているはずだ。それをわざわざ、こちらに注進するなど如何にも怪しい。

 とは言えカロリナ自身は、エーリエルが対送り犬で動いているのだと認識している。他の仲間達は軒並み要注意のレッテルを貼られ、バーバラに至っては第一級の危険人物とみなされている。その中にあって、自分の立場は今しばらく使える猶予があると、エーリエルは認識した。

 

ジェイズ・ゲストハウス

「ただいま…って、何してるの、ドラゴさん?」

 まだ誰も居ない時間帯の酒場では、ドラゴが1人椅子に腰掛け、腕組み何事かを考え込んでいた。そのテーブルに広げられている物を見て、程無くエーリエルが絶句する。

「これは!?」

「そう、ICレコーダです。貴女がマーサの屋敷に仕掛けておいたものでしょうな」

「一体どうして」

「その経緯なのですが、少し奇妙な話でしてね」

 

 通りを歩いていた時の事だ。道行くドラゴの前に、スッ、と横から男が割り込んで来た。スーツを着た中年の、顔は見せないが恐らく中華系だった。男は背を向けたままドラゴの少し前を歩き、何やらを詰めた袋を手に持って、ドラゴに話しかけてきた。

「これをお返ししますよ。一方的に探られるのもフェアではありませんからねえ」

「? 誰ですかな?」

「何、ただのお節介です。マーサの人間に、ちょいと催眠術をかけまして、洗いざらい取ってきてもらいました。私じゃあそこには入れませんから。それじゃ、私はこの辺で」

 言って、男は袋を地面に置き、角の細い道に入り込んだ。ドラゴが慌てて、後を追うと、既に彼の姿は何処にも見当たらない。その道は、奥が袋小路になっていたにも関わらず。

 

「この世ならざる者? マーサとはまた別の立場の?」

「でしょうな。しかし分かっているのは、仕掛けたICレコーダが全部返されてしまった事です。彼の言い方ですと、マーサがこの事を認識しているとは思えませんな」

 これにてICレコーダの仕掛けは全て不意になってしまった。この仕掛けを把握している者が居る以上、同じ事をするのは危険が伴う。その男がマーサの人間ではないとしてもだ。

 ともあれ、ドラゴとエーリエルはレコーダを一通り再生してみる事にした。何か重要な情報が録音されているかもしれない。

 マーサ会員同士の他愛無い会話や、無音であったりするものが大半であったが、たった一つだけ、瞠目に値するレコーダが見つかった。

 

 再生開始

 ざわめく人々の声。その中でカロリナの声が響き渡る。

「えー、皆様。ここ数ヶ月の宿題としました『彼』、マクシミリアン・シュルツさんの御招待活動は、一旦休止と相成りました!」

 わっ、と万雷の拍手が巻き起こる。

「御主様が私に仰りました。しばらくは『彼』を見守るに留めるようにと。きっと御主様には、何か深いお考えがおありなのでしょう。そして、その代わりに御主様はお命じ下さったのです」

 カシャカシャ、と金属の擦れる音。

「戦いが始まります! 邪悪な者から聖地を護る、正しき者とそうでない者の戦いが! この剣に御主様から授けられた力を込め、私と共に悪を打ち滅ぼしましょう!」

 一斉に上がる鬨の声。しかしその中に一つだけ、

「何ですって…」

 と戸惑う声が小さく入っている。恐らくエリニス。

「戦いの場は地下、下界と呼ばれる場所です。この地下で、私達は攻めて来る悪魔の下僕を迎え撃ちます。その地点は、ミッション・ドロレス。大事な大事な、私達の聖地です。御主様は、何としてもこの場所で迎え撃つよう、私に仰られました。さあ皆さん、恐れる事は何もありませんよ。ロザリオと祝福の短剣が、私達をきっと護ってくれるでしょう!」

 

「大変だわ」

 エーリエルが立ち上がる。対してドラゴは、聞き入った姿勢のまま動かずにいた。そして重く、口を開く。

「例の男は、これを聞かせたかったのかもしれませんな。しかしそれは、一体何の為に?」

 

 

<H4-3-2:終>

 

 

○登場PC

・エーリエル・”ブリトマート”・レベオン : ポイントゲッター

 PL名 : けいすけ様

・ドラゴ・バノックス : ガーディアン

 PL名 : イトシン様

 

 

<戻る>

 

 

 

 

 

ルシファ・ライジング H4-3-2【オーメン】