<南部方面防衛戦線>

 避難民が密集する北東港湾地区に向けて侵攻するシェミハザは、庸部隊の囮作戦により、ジョン・F・フォランフリーウェイに誘導されていた。最高幹部、盧詠進の発案によるものだ。

 フリーウェイの最終地点は北東港湾の喉元であり、つまりシェミハザの到着は匕首を突きつけるに等しい。そしてフリーウェイに遮蔽物と呼べるものはほとんど無く、シェミハザの進撃を早めるリスクも確かに存在していた。

 それでも、迎撃と退避がフリーウェイならば容易である。シェミハザの気紛れによる針路変更を最低限に抑え込む事も出来る。確かにシェミハザの進行上では、強制力の伴う大規模な避難活動が実施されはしていたが、それにも限界があった。まだ少なからずの市民が取り残されている。

 よってSFPDは容易く後退する訳には行かない。庸の者達も。ハンターも、である。

 

 完全封鎖されたフリーウェイの上下線に一直線の非常線を張り、SFPDの迎撃部隊は車両による簡易的な防御陣の遮蔽に身を隠し、銃口をフリーウェイ南方方面に固定していた。配布されているのは拳銃ではなく、アサルトライフルである。SFPDが所持する丁数では圧倒的に足りておらず、これは庸からの供出によるものだ。

 警察がマフィアから武器供与を受ける。等とは本来ならば破滅的なスキャンダルである。しかし数多くの人命こそが破滅するかもしれない現実にあって、セオリー云々を声高に言う者は居ない。誰だって、こんな訳の分からない死に方をしたくはないという事だ。

AK-47。ハリウッドに出てくるテロリストが大好きな銃だ」

 まだ若い警官が、背後に控えて静かに時を待つ庸の部隊を睨み、軽口を叩いた。焦る気持ちを紛らわせる為であるのは明白だったので、周囲の者も咎め立てはしない。

「ヒーローには通用しないが、化け物に風穴を空けてやる」

「無理よ。あんなもんに通用なんてしないから」

 隣の婦警が自らも堪えきれず、警官の無駄話に乗ってきた。警官の方は、目を丸くした。

「あんなもん? あんなもんって、お前、第一次防衛戦の生き残りか」

「ええ、そうよ。銃火器をずらりと並べて、今みたいに車で道路を塞いで、戦車でもなけりゃ突破出来ないと思っていたのに、実際現れたのは戦車の比じゃなかったわ。例えれば、クソでかいボーリングの玉。私達は蹴散らされるピン。マフィアが言う『援護射撃』が間に合わず、総勢55人中21人が食われた。あんな死に方、絶対嫌」

「見たんだろ、そいつを」

「一生忘れるもんか。あと少しで一生が尽きるかもしれないけど」

「どう説明されても、そいつの格好が俺にはさっぱり想像出来ない。どんな奴なんだ?」

「言葉で上手く言えない。でも、あんたももう直ぐ分かる。もう直ぐ。あれは、惨い。本当に」

 婦警は言葉を切り上げ、警官も押し黙った。何かを引き摺るような音が、耳に響いてきたからだ

 緩く、大きなカーブを描くフリーウェイの先から、シェミハザはのそりと姿を見せた。シェミハザの姿形が目で確認出来るようになると、それを初めて見た警官達は、想像を超えた異形を前にして絶句する事となる。

 シェミハザは途中で市民や警官、それに庸の者を取り込み続け、更に大きさを増していた。シェミハザに定形は無い。ただ、人間の死体が寄り集まって、球状にもなれば平たい板のようにもなって、尺取虫の如く奇妙な動作でもって進行している。

 好き勝手に死体という名の細胞同士が合体した珍奇な生物。妙に肉感的な動きがシェミハザを生命体のように偽装しているものの、実際のところシェミハザは生物ではない。ただの肉の塊だ。ここには居ない何者かが操作する、異形のこの世ならざるものだ。率直にそれは、人間達にとって本能的な嫌悪を催す代物だった。

 シェミハザは正面(正確には、そういうものは無い)を警官隊に向けた。そして十数体の死体を本体から棒状に突起させ、都合三対の『足』作り出す。『足』は昆虫そのものの挙動でもってアスファルトを踏みしめ、10秒とたたぬ内に恐るべき速度を叩き出して来た。

「これにやられた」

 婦警が恐怖と共に呟く。

「あんなに遅かったのに、いきなり早くなって」

『照準合わせ!』

 と、女性の声が拡声器に乗って轟いた。庸と警官が混成する部隊の指揮を務めるのは、ハンターのクレア・サンヴァーニである。冷静な彼女の声で、警官達の飛びかけていた意識が戻る。

『斉射!』

 合図を皮切りにアサルトライフルの一斉射撃が始まった。銃弾は簡易聖水式で祝福され、一部には岩塩弾も使用されている。確かにシェミハザにとっては豆鉄砲であったものの、それでも数の暴力である。襲い掛かる鉄の暴風を前に、シェミハザの進撃が若干鈍る。

 巨体を構成する死体の肉が飛び散りつつも、シェミハザはそれらを丁寧に拾い上げていた。お陰で速度が鈍っている訳だが、その優しげな行動はひたすらおぞましい。催す吐き気とも戦いながら、必死に弾倉を取替え、撃ち続ける警官達の横から、三門の携行無反動砲が進み出た。気付いた警官の1人が唖然とする。

「カールグスタフ。こんなもんまで!」

『後方退避! 爆風が来るよ!』

『愛しているよ』

 クレアの声に覆い被さるかの如く、シェミハザが直接脳に響く声を飛ばしてきた。

『みんな、愛しているんだよ』

『撃て!』

 やかましい、と言わんばかりに、カールグスタフが三門同時に火を噴いた。射出された榴弾がシェミハザの体を抉り、内部から炸裂する。どす黒い液体を噴出させ、シャミハザの体の半分程度が弾け飛んだ。

「やった」

『警官隊、後退!』

 快哉を上げかけた警官達を、クレアはその一言で黙らせた。そして瞬く間に修復を開始するシェミハザに目を向ける。結局防衛戦は、この繰り返しになって行くのだ。ただただ、シェミハザの進行速度を遅らせる。その為に負った損害は初戦の段階でも甚大であったし、恐らくこれからもただでは済むまい。

「メルキオール」

 無線を繋ぐ。

『何だ?』

「援護射撃はまだ? あれが遅れたせいで何人死んだと思っているの。射撃のスパンが長くなっているのは気のせい?」

『私にも限度がある、という事だ。それに来るべき決戦に備えねばならない。お前達の実力こそを当てにするがいい』

「口の利き方に気をつける事ね。奴の狙いは、あんたでしょ? それを防ぐ為に、みんな必死で戦って」

『後1分弱で援護出来る』

 無線は一方的に切れた。クレアはヘッドセットを投げ捨て、庸の部隊に迎撃の号令を出した。『天兵』だけで組織された精鋭中の精鋭である。

(本体が何処かに居る。必ず何処かに居る。仲間がそれを抉り出すまでは、何としても)

 天騎クレアと天兵は、銃を構えて撤収準備の非常線より前に進み出た。そして1分弱の約束通り、チャイナタウンの方角から、光の筋が一直線に伸び、シェミハザの体を撃ち抜いた。

 木っ端微塵に吹き飛ぶ死体の塊を、再構成するには時間もかかろう。しかしこれを一体何度行なえば、と、クレアは唇を噛み、銃の引き金を絞った。

 

その名は、Who

 既に戦端は開かれていたものの、北東港湾地区に銃砲の音は未だ届いていない。

 とは言え、サンフランシスコ市のほぼ全住民、加えて相当数の観光客が、総面積対比5分の2程度の領域での生活を余儀なくされている。経済活動は完全に停止し、学校、図書館、その他諸々の公的機関の建造物は、全て避難民受け入れの為に開放された。オフィスビルに対しても強制的な受け入れ指示が出されている。自宅スペースにゆとりがある市民にも、市は協力を強く呼び掛けていた。

 こうまでしても、矢張り北東地区は人、人、人でごった返す有様となった。地区は絶対的に空間が不足しており、都合密集する人口によって、治安の乱れを抑え込むのが難しくなりつつある。

 それでも、物資が全く減らないという怪現象のおかげで、この状況にしては犯罪発生率が奇跡的に低い。生活物資の見通しが立たなければ、人は行政を当てにせず、防衛行動に走るものだ。誰しも飢えて死にたくはない。

 加えて市民達が辛うじてまとまりを見せているのは、他にも理由がある。この一連の事件が、外敵からの侵略であると、市長が断言したからだ。それは容易に同時多発テロの記憶を呼び起こす言葉だった。市民達の奮起は想像に難くない。

 ただ、市長は敵が具体的にどういったものかについては、『現状を更に確認して対策に全力を注ぐ』との言葉でもって、意図的に伏せていた。しかしながら、敵の正体に関する情報は、市民達の間で静かに浸透しつつある。それがまことであったと完全に知れ渡った時、果たして彼らは冷静でいられるだろうか?

 

「フウ、…って、何だっけ。何を言おうとしたか忘れちまったよ。まあいい、それよりも聞いたか。何でも街に襲ってきてるのは、血を吸う化け物なんだってよ。吸血鬼だ、吸血鬼」

 ユニオン・スクエア地下の雑然とした避難所に、男の声が一際大きく響いた。声の方に顔を向ける人々の顔は様々だ。大抵の場合は胡散臭げであったり、苦笑混じりの按配だった。が、怯えた目を床に落とし、背を向ける者もごく一部に居る。恐らく実際に、吸血鬼を目の当たりにした者なのだろう。

 フウと呼ばれた男は、笑いも恐怖も見せず、ただげっそりと痩せた無表情な顔で男に応じた。

「マイラス、あまり大きな声で言うものではないよ。何が起きているのか、分からない人々が大半なんだ。不確定の話はデマゴーグになってしまうものだよ」

「確かにまずい事をしたな。すまん、自重するよ。しかし何が起きているのかって言やあ、フウ、お前さん、まだ記憶が戻らないのか? それに飯は。何か、凄え顔になっちまってるぞ」

「ああ…。少しは食っているさ。でなければとっくに死んでいる。記憶の方は、今の状態が落ち着いたら医者に相談してみるよ。今は医者も多忙を極めている」

「まあ、そりゃ尤もな話だが…」

 何か言い足りなさそうなマイラスを宥め、散歩に行って来る、と、フウは寝床から立ち去って行った。その後ろ姿を眺め、不意にマイラスが伝えねばならなかった事を思い出す。

「おいっ、ちょっと前にお前さんの事を聞いてきた奴が居たぞ! もしかして、知り合いなんじゃないのか!?」

 声を張り上げるも、フウの姿は人込みの中に紛れ、そして消えてしまった。

 

 公園の芝生で座り込む為に出て行ったのだろう。監視カメラの範囲から外れたフウの行き先を、アンジェロ・フィオレンティーノはそのように考えた。

 ここ数日は、彼に張り付いたままだ。市当局の協力を得、ユニオン・スクエア周辺に張り巡らされたカメラの監視網で、アンジェロはフウの一挙手一投足を監察している。今のところ、彼は特に目立った挙動を取っていない。他の避難民と同じく、日がな一日をどうして良いのか分からない顔で、漫然と過ごしていた。

 ただ決定的に異なるのは、彼が食事を一切取っていない点だ。口にしているのは酒を一日置き、それも舐める程度である。その日数は二週間になろうとしており、とても異常な事だった。

『彼らがそれで栄養補給をしなかった場合、どうなるんだい?』

『二つに一つよ。最後まで耐え切り、悟りに近い境地を開く事もある。私を守護してくれた方がその良い例ね。でも、それは極稀な例よ。99%以上は、危険な本能が完全に開花するわ』

 カーラ・ベイカーに質問して得た回答を、アンジェロは改めて思い出した。今のフウはとても大人しい。善人とすら言える。しかしもし、彼が以前の彼に戻ってしまったら、信じ難い単位での人死にが出るはずだ。

「次席帝級、ジル・ド・レエ」

 アンジェロはその名を口にし、奥歯を強く噛み締めた。

 

恐るべき子供達

 此度の同時多発攻勢が、人間を北東方面へ押し込む形で実施されているのは明白だった。

 南部方面のシェミハザ。西のアウターサンセットから侵攻を宣言したルスケスの一党。そしてもう一つ、サマエルの勢力が陥落を目指すテンダーロインのジェイズ・ゲストハウスは、それらの方角のほぼ真ん中、北東港湾から見れば南西に位置している。

 市長やハンター達は、その意図が要所を攻め落とすのみならず、人間の領域の指定と人口調整をも意味している事は承知している。ただ、ジェイズ側にとって厄介極まりないのは、攻め手が人間である事だった。

 そう、敵は人間だ。ル・マーサの高級会員・フレンド達。サマエルによる支配を受けた彼らは、この世ならざる者に至る方向へ片足を踏み出してはいるものの、矢張り人間であるには間違いない。

『ジェイズを落とすにしては、天使とか吸血鬼に比べて些か力が足りないのでは?』

 と、ハンターの中でも考える向きがある。確かにサマエルに身も心も捧げ、自爆攻撃という狂った手段を用いてくる難敵だが、フレンドは天使、悪魔、そして吸血鬼に比すれば、印象としては数枚落ちる。高い運動能力であってもハンターならば追随出来、彼らの攻撃手段は対悪魔戦が専らだ。翻って、ジェイズの霊的防御はサンフランシスコ中でも最強度である。

 しかし、サマエルはジェイズに人間を差し向けてきた。ジェイズに逗留する神々が、ルシファの大侵攻を受けても人間を見捨てずに留まった、人を深く愛する神性の持ち主である点を重々承知のうえで。

 これはサマエルによって、巧妙に仕組まれた罠だ。もし安易な防衛手段をハンター側が取った場合、その先でどのような事態が発生する事になるか。

 

「トラップ?」

「そう、トラップだ」

 ジェイズ防衛の主軸を担う斉藤優斗は、ジェイコブ・ニールセンお手製の味気ないハムバンを食べる手を止めた。目の前にはどういう訳か王広平が居る。何故庸の最高幹部がジェイズの防衛に、と問うと、彼は「庸も広範囲で此度の同時多発攻撃の対処に関わるべきだ」と答えた。

「実を言えば、これは私の部下からの進言でね。次いで言えば、先のトラップ云々も彼の想定に拠るものだ。締め切りがヤバイ、等と訳の分からない事を言いながら、彼はメモ用紙に言葉を書き殴っていたよ」

 王が懐から紙切れを取り出し、それを注意深く読み上げる。

『サマエルは多分、フレンドへの対処そのものに罠を張っているアル。奴はハンター的思考がどういうものかを独自解釈しているネ。だから奴は、ハンターならばこうするだろう、と想定したうえでフレンドをけしかけてくるアル。これは私の懸念でアルが、フレンドという名の一般市民を殺める事で、防衛側内部の混乱を奴は期待しているのかもしれないネ。神サマとか、警察の人とかアル。サマエルはそれを見越しているような気がするヨ。そしてフレンドの側にも、殺される事で何らかのトラップが発生する可能性を覚悟すべきヨ。とにかく、流血は最小限に抑えるアル』

「…あんたの所の配下は、みんな変わり者か?」

「よく言われる。しかし私には勿体無いくらいの俊英揃いだ」

「確かに。助言には感謝する」

 斉藤は礼を述べ、ダイエットコークでハムバンを流し込んだ。苦い顔になったのは不味かったらというのもあるが、戦いの先行きについて些か辛いところを改めて感じたからだ。

 ジェイズ・ゲストハウスは最後の砦だ。ハンターは元より市長もジェイズ防衛を重要視しており、だからこそ市警察の選抜隊を派遣したのだ。仲間である風間黒烏が、SWATのラウーフ分隊を回してくれている。

 ハンター側も、ナタリア・クライニーと神余舞、そして自分が居て、引退して久しいとは言えジェイコブも戦列に加わる。で、次いでだが。

「次いでとは何だ」

「失礼極まりないわね」

「まあまあ、登場させて貰えただけでも有難いよ」

 シュテファン・マイヤー、サラ・スーラ、マイケル・スミス。以上、空気NPCの三人である。

「居たの?」

「何ですってコノヤロー!」

 ちなみに彼らの参入は、先に出た王のところの配下が手回ししていた。

 このようにして、人数は相当に揃っている。相手がフレンドという事を除けば、容易く接近を阻止出来る面子だ。しかし。

(何を最優先にしなけりゃならんのか、分かっているつもりなんだがな)

 王が読み上げたメモに指摘されずとも、斉藤としてはサマエルに操られているだけのフレンド達を、出来るだけ殺傷せずに済ませたいところだった。だが、相手は本気でこちらを潰しにかかる異能集団だ。自爆攻撃という正気の沙汰ではない手段を、何の躊躇いもなく使って来る操り人形だ。

 ジェイズの陥落はハンターにとってのライフライン喪失を意味する。取捨選択は心苦しいものの、出来る限りベターな選択をしよう。斉藤は心に決めた。

 

 肩口をゴムバンドで縛り、二の腕を軽く叩き、ナタリアは緊張の吐息を漏らし、血走った目でもって注射針の先を凝視した。打ち合わせの為にジェイズ4Fに上がってきた斉藤が、何とも言えない眼差しでナタリアを見、そして曰く。

「ほどほどにしとくんだぞー」

「コーク(注:コカイン)じゃねえ。てぇかそんなもん、ハンターでやってる奴なんて見た事ない」

「確かに麻薬なんか、役立たずの馬鹿な粉だわな。じゃあ、それは何?」

「血清さ、血清」

「血清?」

「ジョーンズ博士の血から作ったってぇ奴だよ。今からこいつをブチ込んで、身の内に巣食う『悪魔』にきついのをお見舞いする」

 超能力覚醒剤を服用したナタリアは、既にかなりのところまで自身の悪魔化が進行していた。

 今は亡きカスパールがナタリアに渡したその薬は、彼女に文字通りのPK能力をもたらした。が、悪魔が何の代償も無く、かような代物を与えるはずもない。その薬は体と心、そして魂に多大な副作用を及ぼし、結果として彼女は、この機を逃せば生きながらにして上級悪魔の仲間入りを果たすところであった。

 これに対し、博士は自らの血液で精製した血清を彼女に進呈した。博士は特級聖遺物の一つ、聖杯で水を飲んでおり、結果極端な長命とジーザス・クライストの記憶持ちという異能を彼にもたらした。言わば博士の体は、全身が悪魔よけの状態である。彼の血で作られた血清は、まず間違いなくナタリアを悪魔化から救ってくれるはずだ。しかし。

『何故躊躇するのですか?』

 と、何処からともなくキューの囁き声が聞こえてきた。

『恐らくですが、悪魔の力が名残惜しい訳でもないようですね』

「そうさ。これを打つと決めてから、そんなもんには決別する覚悟は出来ている。単に何が起こるか分からないってのが困るんだ。物凄く腰が引けるよ」

 そう言いながらも、ナタリアは静脈に針先を押し込んだ。色濃い血を先ずは吸い上げ、血清と混ぜ合わせてから、ゆっくりと体内に流し込んで行く。顔をしかめ、ナタリアは言った。

「悪魔は嫌いだ。正に仇だ。しかし仇を討つ為に、自分も悪魔になるってのはどうなんだと、血清をもらってからつくづくと考えたさ。博士は私に人間であると言ってくれた。だから私は、もういい。人間に立ち返る」

『博士が聞いたら、きっと喜ぶでしょう』

 注射器の中の血清は、全てナタリアの体内に流れ込み、拡散した。彼女は大きく息をつき、注射痕を消毒しつつ、困惑の表情を浮かべる。

「何も変わっていないような気もするけど」

『精神面で、君という自己を変えてしまう事はないでしょう、その血清は。ただ、それとは別の部分で、私には大きな変化が発生したと見えますね』

「どういう事だい?」

『きっとその内に分かりますよ』

 

「天使メタトロンと対話するとな?」

「そう。天使メタトロン」

 神余は相変わらず淡々とした調子で「元」大天使ガブリエルに応じた。ガブリエルは仮初である中年男の姿を取って、人間である神余の前に立っている。真の姿を晒せば彼女の目が潰れてしまうからだ。

「ガブリエルに同席して貰えるとありがたい。天使と直に話すのは緊張する」

「一応、俺も心は未だ天使のつもりなんだが。ま、別に構いはしない。ただ恐らく、そうそう長くはしゃべれないと思うぜ?」

 サンフランシスコはサマエルによって霊的に封鎖され、物理的な往来はおろか、超自然的な精神感応も不可能の状況に置かれている。ただ、現実の『ここ』ではないジェイズ4Fならば、外部と意思を介在した接触を持つ事は、ある程度まで可能だった。尤もそれは、対象が霊的に強力な存在でなければ、どだい不可能な話であるが。

「じゃ、お嬢ちゃん、念じてみなよ。天使メタトロン、対話に応じて下さいとね」

「勿論試みるけれど、私はメタトロンがどういう方なのかを当然の如く知らない」

「自分の知識に当てはめて、自分なりのメタトロンを想像して呼んでみるといい」

 妙に悪戯めいた笑みを浮かべるガブリエルを不審に思いつつ、神余は言われた通りメタトロンに呼び掛けた。

 思いのほか、反応が直ぐに返ってきた。

『お嬢さん、想像上のそれとあたしは、ちょっと違うのよ』

 神余は目を丸くした。

「女?」

『あたしくらいの階級だと性別は無いわ。お借りしているこの体が女性のものだったというだけよ。で、先の話だけど、例えばユダヤ教最高位の天使という人間が作った設定に、あたしも準じている。でもね、本当のところは、お父様が人間に似せて天使を作られたという、ただそれだけの存在でしかない』

「己や自身に似せて人間を作った、ではないと」

『それはそうよ。あたしは天使の中では少数派の、ダーウィン支持派なのよね。神は人によって作られた。別にそれで何の問題も無いと思うのだけど、ミカエルやルシファは絶対に認めないのよね。で、話を戻すわ。あたし達は押し並べて単なる御使いで、個々の役割と言うのは人間が施した後付の設定なのよ。ま、力量の差は極大に分別されるけれど』

「いよう、メタトロン。久しいねえ」

『おひさ、ガブリエル。一体何処で遊んでいたの?』

 メタトロンとガブリエルの気安い会話を他所に、神余は考え込んでしまった。

 例えば4Fに逗留する神々にしても、流布している神話と実情に随分と「ずれ」がある。天使達のそれも意を同じくしているのかもしれない。神余は気を取り直し、単刀直入に問うた。

「サマエルについては良く御存知?」

『かなりのところまでね』

「貴女を含めて、バチカンはサマエルをどのように捉えているの?」

『ルシファ同様、明確な敵と解釈しているわ。その根拠とするところは、神余というお嬢さん、あなたも薄々勘付いているのではなくて?』

「私達の中でも徐々に語られるようになってきた。彼のもう一つの名が、サタンだから」

『その通り。時に人間はルシファとサタンを同一視するけれど、実際はサマエルがサタンだったのよ。お父様に異議を唱える戦争を引き起こした際、サマエルはお父様に反抗せざるを得ない己を大いに恥じて、戦争の間だけ名を変えたという事。ただ、神に反逆した強大な堕天使として、サタンの名が悪魔を象徴するものになったのは、彼としては些か不本意だったかもね』

「しかしルシファとサタンが同一視されりゃ、サマエルとしては『そのまま勘違いしておくれ』ってとこじゃないかえ?」

『ガブリエル、相変わらずの言い草ね』

「…私はサマエルとの対話を通じて、奴にも独特の個性がある点を認めている。サマエルの物の考え方について、もう少し詳しく」

『ルシファとは戦争で一時的に手を組んだけれど、その考え方は正反対だったのよ。ルシファは天使が人に傅くなどとは許せなかった。サマエルは、人を天使の庇護から外す事を時期尚早と考えた。両者は手を組み、その実全く相容れなかった。それが、天使戦争で最強の2人が敗退した最たる要因』

「天使メタトロン、貴女の助力をサンフランシスコに振り向ける事は可能か否か?」

『バチカンの守護で手一杯ね。それに今は声を短時間送れるだけ。でも、あたしは博士と助手に特級聖遺物の探索を依頼している。考え得る最高のカードになるはずよ。かの物、慈悲の力想像を絶するとは言え、その実情があたしにも今一つ分からなくてね…』

 メタトロンとの対話は、其処で途切れた。やはり長時間は不可能であったらしい。意識の集中を解き、神余はリラックスしながら、ふと思いつきを口にした。

「サマエルの別称がサタンだっていう事、最初から知っていました?」

「知っていました」

「何故教えてくれなかった?」

「そりゃあ、聞かれなかったからだよ。とは言え、今更サタンなんて名前が出たところで、対決するのはサマエルだろ? 別名サタンだろうが、対処には特に意味を持たないだろ」

「…いや、それを利用する事は出来るぜ」

 横合いから、斉藤が声を掛けてきた。口元に不敵な笑みを浮かべながら。

 

天使たち、人間たち

 戦闘区域はサンフランシスコ市内の広範囲に渡る事は確定している。これに対し、対吸血鬼戦を準備する風間黒烏は、アッパーグレイドのEMF探知機を、市内の監視カメラ網とリンクさせ、各所400箇所に配置するという、極めて強力な警戒網を敷いていた。

 Monstrous Early Warning System、MEWS(ミューズ)と名づけられたその警戒網は、当然ながら此度の同時多発攻撃全般に対応するものだ。よってル・マーサ本部への襲撃を企図する集団も、これを大いに活用する事になるのだが、まだ戦が勃発していない今にあっては、市内の状況は静かなものだった。平常時のマーサ会員は、『その気』にならねばEMF探知機に引っ掛かる事は無い。

 いわゆる『浅い』会員は、市当局の勧告に従って、家族と共に北東港湾部の避難区域に留まっている。問題は『深い』方、重度のフレンド達だ。

 彼らの素性は市当局もほぼ把握しているのだが、そのフレンド達は尽く家族から離れ、行方知れずとなっていた。尤も、彼らの居場所を推定する事はハンターにとって容易である。

 ミッション地区、ル・マーサ本部。彼らの行き場所など、其処以外に無い。

 

「…今のところ、本部内に磁場異常反応は探知出来ませんな」

 モーターハウスを運転しつつ、市警の監視網と接続したモニタを横目に置きながら、ドラゴ・バノックスは淡々と述べた。

 マーサ本部襲撃チームは、彼らの移動本拠地であるモーターハウスに今も滞在している。幾度かのマーサとの関わり合いによって、車両の素性は敵性存在に対し、完全に白日の下となっていた。が、現時点で彼らへのマーサからの干渉は全く無い。

「引き篭もって、その時を待っているんでしょ」

 と、助手席のエーリエル・レベオン。

「しかし彼らは、間違いなく出て来るわ。ジェイズを陥落させる為にね。それが同時多発攻撃開幕の合図であり、こちらも同期して反撃を開始する。彼らの狙いはここ」

 エーリエルは画面上のマーサ本部に指を当て、そのままジェイズ・ゲストハウスへとスライドさせた。

「フレンドの大半が出払う。其処がわたし達の狙い目」

「残るは少数のフレンドと、更に少数の天使。我々は遂に天使達と事を構えるという訳ですな」

 2人が揃って顔をしかめる。彼らの主敵は天使である。問答無用の強敵だった。以前、彼らの仲間だったバーバラ・リンドンが、2人の天使を策略でもって屠るという殊勲を上げているが、その根幹には天使を抹殺出来る送り犬の助力があり、何より相手としたのは1人ずつだ。引き換え、マーサ本部に存在するのは想定で5人。それも、ほぼ正面からの激突になる。天使の力は悪魔の比ではない。

「最大戦力を本部に留め置く、という事は、多分に罠と見て良いのでしょうな」

「それはこちらも重々承知のうえ」

 エーリエルとドラゴは背後に控える4人をバックミラー越しに顧みた。マクシミリアン・シュルツとアンナ・ハザウェイ。そしてエリニス・リリーとカロリナ・エストラーダ。ル・マーサという狂的組織に関わった面々が、一同に会して本部への襲撃に参加する。狙いは地下祭壇。マーサ会員をサマエルの下僕と化すシステムの破壊。

「アンナ、今ならまだ引き返せるわよ」

「よしてよ。ここまで関わって、今更仲間はずれは無いんじゃねーの?」

 エーリエルの進言に、アンナは苦笑して首を横に振った。

「どうやら私も、この件に深い繋がりがあるらしい。足手まといにならないよう、重々気をつけるからさ。それに、もう1人の私が言うんだよ。コイツから目を離すなってね!」

 言って、アンナはマックスの膝裏に軽く蹴りを入れた。傾いだ体をアタフタと立て直し、マックスは軽く咳払いの後に言った。

「エーリエル、サマエルは僕を決して失うようにはしないと言ったね? 其処に付け入る為に僕を本部へ連れて行くのだと。僕はその判断が妥当であると解釈した。これは紛れもない、僕自身の意思でだ。そして僕は僕の意思で、サマエルの依代には絶対にならない」

「マックスさん、あなたにはこれまで、再三の迷惑をお掛けして…」

「その事については、もういいですよカロリナさん。それにあなたも、贖罪をする為にこの場に居る。それでいいじゃないですか」

 頭を下げるカロリナを宥め、ふとマックスが視線をエーリエルとドラゴに向けた。応じて2人が小さく頷く。

 カロリナはル・マーサを立ち上げた元代表者だ。もう1人の彼女であるピュセルが解放された為、既にサマエルとの関わりは断ち切られていたのだが、それでも本部の状況に関してはこの場の誰よりも詳しい。それに、たとえ心を束縛されていたとは言え、会員の命を損なうも厭わない危険な組織に一般人を勧誘した罪の意識に、カロリナは苛まれていた。よって此度の襲撃は、むしろ彼女の方から参加を志願している。

「あまり張り詰めないでね、カロリナ」

 と、彼女のガード役のエリニスがカロリナの肩に手を置く。若干強張りを見せていたものの、カロリナは笑顔を作って頷いた。

「さて、目的地に到着ですぞ」

 ドラゴがハンドルを切って、ピア39間近の駐車場にモーターハウスを乗り入れた。この観光地も避難してきた人々でごった返しているものの、MEWSの監視網に敵性存在は映っていない。

 森の木々のように人が溢れるこの場所で、彼らは協力者達と初顔合わせをする事になっている。サマエルという圧倒的な存在と、それを信奉するマーサというシステムに僅かな人数で対抗してきた彼らは、今や少数ではない。彼らには共に戦う仲間が居るのだ。

 

「大丈夫。今回も上手く立ち回れている。人間との連携も、何だか手馴れた感じになってきたよ」

『私としては驚くべき事だわ。でも、これも時代の移ろいというものなのよ。ヴィヴィアンは先端を行く者の1人という事ね』

「期待に応えられるよう努力する。どうか重々気をつけて」

『ありがとう。そちらも頑張ってね』

 ヴィヴィアンはレノーラとの電話を切って、フェンス越しに下界の風景を見下ろした。

 ユニオン・スクウェアを眼下に収められるビルの屋上は、かろうじてスペースに人間が溢れていない稀有な場所であった。吸血鬼であるヴィヴィアンが腰を落ち着けられる、数少ない休憩所でもある。

 ノブレムの本拠地から彼が離れているのは、三度の人間との連携行動を成立させる為だった。これほど人間の間近で戦いを共にする吸血鬼も居ないだろうとヴィヴィアンは自負しているし、事実その通りである。この一連の騒乱が終息すれば、再びノブレムとハンターの関係が問題として浮かび上がってくる。その時、自分のような高位の戦士級が連携戦の実績を高めていれば、悪い結果にはならないはずだ。自分の行動は複雑であるが、前向きな意味を持っている。

(全てはレノーラの志の為に)

 ヴィヴィアンは十字を切る自分に苦笑し、再び携帯電話を繋いだ。相手は前回も連携を組んだ人間である。

『やあ、ヴィヴィアン。今何処?』

「ほぼ真上だよ、アンジェロ。そちらの具合はどう?」

『相変わらずさ。ぐったりと寝て、起きて散歩して日向ぼっこをして、また寝る』

「『食事』は?」

『一切取っていない。恐ろしい事だ。何時本能が目覚めるかと思うと』

「確かに恐ろしいな。牛の血も無しに、僕らなら耐えられない」

『ああ、誰しもロマネスカのようにはなれないからね。カーラ女史曰く、人間の血への渇望を独力で解脱した、恐らく世界で初めての吸血鬼』

「…それは初耳だな」

『オペラリオ、今の月給取りのスタンダードは、彼を参考にして形作られたんじゃないかって、女史は言っているよ。しかし当然ながら、ジルの性根はそんなに我慢強くない』

「彼は欲望とか志向に忠実な男だ。急いだ方がいいかもね」

『そう思うよ。攻撃勃発のタイミングを狙う考えだったけど、それでは遅い。君のところのカスミという子に、牛の血を美味しく飲めるまじない薬を貰ったしね』

「ああ、確かにあれはいい。幸運を」

 ヴィヴィアンは携帯電話を懐に仕舞い、ユニオン・スクエアの芝生を凝視した。ほどなくして、見つけられた。柔らかな緑のベッドに寝そべった、凡そ次席帝級とは思えないジルの牧歌的な姿を。

 もう直ぐマーサ本部襲撃に加わる面々が一堂に会するのだが、吸血鬼であるゆえヴィヴィアンは自重していた。その代わりに、ルスケスの呪いを受けて人の野に追放されたジルを、視界に置ける場に自分は居る。尤も、たった今ジルが本性を出してくれば、それを留める事は恐らく不可能であろう。

 そのジルを人間達は、マーサ本部襲撃を企図したハンター達は、自らの戦力として参画させようと試みているのだ。それは正に人間的な智謀だと、ヴィヴィアンは嘆息をついた。

 

 ジェイズ・ゲストハウスを出て来たジークリッド・フォン・ブリッツフォーゲルの表情は薄い。薄いというよりは、むしろ強張っているとの表現が合っているだろうか。隣を歩くラスティ・クイーンツは気遣いながら、且つ何時もの調子で声をかけた。

「ハンター側の人間としては、良い死に顔だったわ。無念も悔悟も恐怖も無い、満足そうな顔。彼は最期に、何を見たのかしらね」

 ラスティの言葉に、ジークリッドは何も返さなかった。先程2人はジェイズ4F預かりとなっている城鵬の遺体に手を合わせ、今はマーサ本部襲撃作戦の会合場所へと足を運んでいる。

 城の死に深く関わった自覚があるジークリッドとしては、遺体を前にして考えるところが余りにも多かったのだが、道すがらそれを口に出す事はしなかった。しかしラスティが敢えて続ける。

「ハードラック。彼は運が無かったのよ」

「違う。私が迂闊だったからだ」

 さすがに聞き捨てならず、ジークリッドが短く言い返す。

「私のせいなのだ。私の」

「それは違う、と何度も言うわよ。こんな仕事ですもの、ハンターは一般人とは比較にならないリスクを抱えて生きている。でも、そのリスクを極力逓減させる工夫は出来るはずよ。城さんの場合は、あと一工夫が足りなかった。それは仕方が無い。問題はその結果を、生きているアタシ達がどのように受け止めて糧と出来るか。ハンターは仲間の死からも学びを得なきゃならないのよね」

「過酷なのだな」

「ハンターですもの。後悔は心のクローゼットにでも仕舞っておいて、今はやるべき事をやる」

「シェミハザの進攻を食い止める為、本体が居ると思しきマーサ本部への襲撃に全力を尽くす。これで良いのじゃな?」

「上等、上等」

 チャイニーズ・マフィア、庸と組んでの対シェミハザ戦は、それを操る本体が何処に在るかが勝敗の鍵を握っている。ジークリッドとラスティは、共に其処がル・マーサ本部であると見立てたのだ。

 シェミハザは、堕したとは言え天使である。そして天使がサンフランシスコにおいて拠点と出来る場所は、実は極端に限られてもいるのだ。サマエルを筆頭とする敵の大集団は、しかしほとんど交わりのない派閥を形成している。悪魔達ならば真下界・パレス。吸血鬼は真下界・古城とアウターサンセット。そしてル・マーサはミッション地区の本部。マーサの会員達が天使の候補生でもあった事実を鑑みれば、彼らが何処にいるかは自ずと見当がつく、という訳である。

 と、ラスティの携帯電話の着信音が響いた。庸の天兵、劉紫命からだった。最早彼とその弟分は、自他共に認めるラスティの直属部隊である。

『姐さん、そろそろそっちに合流しますよ』

「お疲れ、紫命。戦況はどう?」

『何とかあの不味そうな肉団子を食い止めてはいますがね。やっぱり攻撃を重ねても意味の無い化け物を相手にするのは、正に『暖簾に釘』ですよ』

「『暖簾に腕押し』か『糠に釘』ね。しかし事は一刻を争うわね」

『その本体ってのを見つけてぶちのめせば何とかなるんでしょ? だったら俺らでやっちまいましょうぜ。俺達ゃ無敵のラスティ部隊ですからね』

「調子こいて死亡フラグ立てないで頂戴よ。何分今度の相手は桁違いなんだから。それを踏まえて、自分の命を大切になさい。そうそう、御守は持った? 誰か大切な人の写真は」

『兄弟達は全員持ちましたぜ。恋人とか家族とか。しかし俺は孤児なうえに童貞なので、御守ありません』

「仕方ないわね。そう思って、ラスティお姐さんがアンタの財布にアタシの麗しい写真を忍ばせておいたわ」

『うげ、何時の間に』

 電話口の向こうから何かをガサゴソと探る音がして、然る後に『うっ』と小さく呻き声が聞こえ、そのまま通話は途切れた。

 

「オットセイ、アシカ、アザラシ、君達は一体、どっちなんでしょーか!?」

 けだし真面目な顔でシルヴィア・ガレッサは、波止場に浮かべられた板の上でゴロゴロしている海獣達に、指を突きつけて言ったものだ。ちなみに正解はアシカである。彼らもまた、サマエルが行使したサンフランシスコ大結界に閉じ込められた被害者な訳だが、燦燦とした陽光を浴びて気持ち良さげに身を横たえるその姿からは、徹頭徹尾状況を理解していない様が伺える。

 シルヴィアと愉快な仲間達は、フィッシャーマンズ・ワーフのピア39でしばしの時間を潰している。彼らはマーサ本部を襲撃する部隊の一つであり、これから道を同じくする他の面々と計画の調整を行なうのだ。スマイルとシリアスが乱れ飛ぶ独特の世界で行動し続けてきた彼らは、遂に同一の目的意識を持つ人々と行動を共にする。どんな化学反応が起こるのか、最早始まってみない事には分からない。

 とは言え、参画する一団によって、目標は異なっていた。マーサに関わり続けたハンターは、マーサというシステムそのものを破壊する事を第一としている。そして北上中の怪物を操る天使抹殺を狙う者達。そして彼ら一行は、囚われのアルベリヒを、そしてビアンキ専務を奪還するという、シンプルながらも切羽詰った目標を掲げていた。尤も、悲壮な覚悟といったものは凡そシルヴィアからは感じられない。3つの人格が同居するというややこしい状態にありながら、根本的に彼女は彼女だ。即ち、爪先から毛先までポジティブ・シンキングとか。

「あー、近場なのに久し振りだわ、ピア39。でも、やっぱりいいわね。日がな一日のほほーんとしているオットセイを眺めるのは。まるで心が笑われるかのようじゃないの。街もこんな事になって、避難してきた人達もいっぱいだけど、まあ見て下さいよ、アシカでも眺めんと溢れ返る黒山の人だかり! 癒しよ癒し。キーワードは癒し。みんなアザラシ見ながら『オウ、オウ、オウ』とか言ってるし。不思議よね、ジンバブエ人でもルクセンブルグ人でも、どういう訳か異口同音に『オウ、オウ、オウ』とか(昔、現地で見てきたので本当です by黒井)。犬の鳴き声なら『ワン』とか『バウワウ』って微妙な解釈の違いが存在するのに、オットセイは何でか万国共通言語。アザラシには何かこう、人の心を一つにする不思議な力があるのかも。そんなアシカ達を見る事で、私達は一致団結して苦難に立ち向かい、ひいてはこの街を悪鬼羅刹から守らねばならぬとの決意を新たにすると、まあ、かように思う次第であります! 全く全然何も考えていない出だしから、無意味にオチが決まったわ!」

「ステキです、シルヴィアさん! 長丁場の台詞を久々に聞いた気がします!」

 と、エルダ・リンデンバウムが心底から追従する。彼女は徐々にシルヴィアと人格が接近しつつあった。初回の頃の描写と今を比べると、隔世の感有りだ。

「私、今もって戦いとか不得手なんですけど、今回は頑張ってみようと思うんです。アルベリヒさん奪還せねばと、ハートが震えている訳です。震えるハートの赴くまま、このマジカル・アローでもって相手の泣きが入るくらいは矢をぶち込んでみようと思います」

 言って、エルダは弓を仕舞った袋を高々と掲げてみせた。不人気武具ナンバーワンであるところの『弓』を、エルダは残り後二回でお買い上げである。

「ビューティセレインアロー・マジカルシュート!」

「何その素敵な必殺技名。やっぱり威力が段違いに上がるの?」

「半インチの鉄板を撃ち抜きます」

 こうして2人は何時も以上にテンションが高い。ル・マーサに控える敵の一団が極めて危険であるがゆえ、彼女らも無意識に気力を奮い起こしている訳だ。それが痛い程に分かっているものの、その他3人は何となくエルダとシルヴィアから距離を置いている。こうして声を張り上げているのは彼女らくらいのもので、何時の間にか衆目を浴びている状況が、ちと恥ずかしかったという次第。

「ここに居る人達、随分と疲れているように見受けるね」

 アンチ・クライストのエイクが、ブラッドオレンジジュースを飲みながら嘆息をつく。

「この状況が極めて異常で、危険な事が迫りつつある事を彼らは知っているけれど、その実何が危険なのか良く分かっていない。やるせない話だよ」

「だから、ここが踏ん張りどころなんだよね」

 ヴィルベート・ツィーメルンが、エイクの小さな頭をクシャクシャと撫でた。

「ハンターだから、出来れば災厄はそれと分からない内に片付けたい。事の真相は、凡そ尋常ではないからね」

「もう彼らも、その他一般人では済まされないところまで追い込まれている。未曾有の混乱が、後一押しで始まるかもしれない」

「そうなる前にケリをつけてやるまでさ。頼りにしているんだよ? あんたの力を」

「アンチ・クライストとして?」

「私のダチとして」

 肩を竦めて笑い合う2人を横目に置いて、ルカ・スカリエッティは頬を緩めた。が、ふと視線を周囲に回し、仲間達に語って聞かせるように呟いた。

「こうして人の集まる場所を打ち合わせのポイントとしたのは正解なんでしょうね。この世ならざる者の気配が本当に無い」

「吸血鬼はともかく、悪魔も多少は生き残っているはずだけど、何でなんだろうね? 多少紛れていてもおかしくないのに」

「いよいよ住み分けが本格化してきたってとこじゃないですかね。人間の領域はここまで、という風に。だからこの世ならざる者が、この場に居て良い道理は無い。それはこの街の天辺を自称する輩が、手下達に周知徹底しているんでしょう。…おや、そろそろ役者が揃い始めたみたいですね」

 ルカは欄干から腰を上げ、賑やかにしゃべっているシルヴィアの肩に手を置いた。

「社長、シルヴィア、同道の士がお越しですよ」

 シルヴィア達の居る場所に、二方から近付いてくる者達の姿があった。何をして良いのかが分からない人の群れにあって、彼らの纏う雰囲気は尋常ではない。この世情において、彼らだけが何をすべきかを明確に弁えている。だから、先陣を切って危地に突入する。それがハンターだ。

 彼らはシルヴィア達の間近に立ったが、揃って目線を合わせて来ない。徹頭徹尾、偶然近くに居る風を装っている。周囲に敵性の存在が居ない事を承知のうえで、である。

「オペレーション:オルレアン始動」

 襲撃計画の核を作り上げた歳若い女性、エーリエルが小さく、しかしはっきりと透る声で言った。

「反撃の狼煙を、今ここから」

 

 以前に比べれば行き交う人の姿が少なくなったとは言うものの、住民達のほとんどが避難勧告に従ったミッション地区において、ル・マーサ本部は未だ闊達な雰囲気があった。

 ここに居る20人弱の人間は、そうと呼ぶには多少憚られる、筋金入りのフレンドである。フレンドも高い位に到達すると、彼らの御主より賜った異能の類も格段に跳ね上がる。それは最早、この世ならざる者の領域だった。

 そして彼ら以外に、マーサ本部には人外が居ついている。その数は4。元々は最高位のフレンドであり、御主の憶え目出度く更なるステップを踏んだ者達。新造天使だ。

 とは言え、彼らは名も無き神が作り出した原初の御使いではない。天使を自ら作り出せる唯一の天使、サマエルによる最新の創造物である。その力は元来の天使に比しても引けを取っていない。人間達が想像して定めた天使の位階は、上・中・下位に各々三つの隊、9つのヒエラルキーがあるのだが、サマエル謹製の天使達は全て中位に属している。第四位から第六位、という訳だ。彼らをこの世ならざる者のカテゴリィに置いた場合、通例ハンターの取るべき手段は「如何にして彼らと出会わないか」を模索すべきだろう。

 新造天使の数は4。しかしながらマーサ本部には、総計5人の天使が居た。

 

「おはようございます」

「おはよう。今日も良い朝だね」

 深々とお辞儀するフレンドの1人に、天使ラッセルは朗らかに挨拶を返した。

 こうして人種・年齢層雑多の奇妙な集団が、避難勧告を度外視した日常を繰り返す日々もそれなりに過ぎている。本来であればSFPDが公権力でもって強制避難を執行してもおかしくない状況であった。が、そうはならない理由を、フレンドと天使はよくよく弁えている、という事だ。

「おはよう、天使ラッセル」

「おはよう、天使ガリンシャ。先刻見回りの警察車両が2つ先の通りを過ぎて行ったよ。私は手を振ってみたんだ」

「向こうはどうしたかね?」

「何も。目を合わさずに通過したさ。よくよく教育が施されているらしい」

「私達が何者かを御存知でいらっしゃる。それを承知で、ここに迫ろうというのだよ」

「利口な選択とは言えないね」

 2人の天使の声には然程の感情もこもっていない。マーサ本部にサマエルの手札としては上位にあたる天使が配置されている事実を、ハンターと市当局側は既に把握している。逆にハンター側が本部襲撃を企図している事を、天使達も承知していた。人間をサマエルが推進するシステムに組み込む為の仕掛けが本部には存在しており、つまりサマエル側にとって最重要拠点である。ここに天使という最大戦力を揃えたからには、仕掛けられる展開はサマエルにも織り込み済みなのだ。しかし、当のサマエルはこの場に居ない。

 何時の間にか、残り2人の新造天使も彼らの傍に立っていた。天使マルカムとパシファエ。4人は客間に移り、全く同じ挙動でもって椅子に座った。

「あの御方はどうしていらっしゃるの?」

 とは、パシファエ。

「別室で変わらず瞑想に入られています。心は目下、別の場所で大いに踊っておられますよ」

 マルカムが虚ろな眼差しを向け、些かの心外を伴って言った。

「天使であるからには御主様の為に身も心も捧げたいというのに、働いておられるのがあの御方だけとは、心苦しいものです」

「まあ、もう直ぐだよ、もう直ぐ。不届きにも我々に歯向かおうとする者達を、慈悲の心で処断する機会がもう直ぐやって来る」

「あまり調子に乗ってはいかんぞ、ラッセル」

 苦笑するラッセルを、ガリンシャがたしなめる。

「そうやって舐めてかかって、天使が2人既に死んでおるのだからな」

「我々は彼らのような間抜けじゃないさ」

「それが慢心と言うのだ。敵の力の程を私達は理解しておく必要がある。異郷の神の助力を得ている2人は、間違いなく来る。あの御方に狙いを定める、愚かにもメルキオールの力を借りた輩もな。何れも私達に手傷を負わせる事が出来る点で要注意である」

「アンチ・クライストは? きっとあの2人を奪還しに来るよ。しかし嫌な名前だね、どうも」

「彼奴らの力が私達に届かぬ事は理解済みだと記憶しているが? 遠からず世界を統べる御主様の配下なのだから、至極当然だ。むしろ周囲の人間の方が厄介であろう」

 言って、ガリンシャは階上を見上げた。この真上の部屋、正確に言えば真上の部屋から少し「ずれた」場所に、アンチ・クライストの一党が本部への介入を決断させた者達が幽閉されている。彼らを閉じ込めたのは、他ならぬサマエルなのだ。件の一党がよりにもよってサマエルの力そのものに挑もうとしている事実に対し、ガリンシャは若干の同情を覚えた。

 

『俺を殺したくないとあなたは言ったが、それは俺も同じなのだ。だからサマエルの描いた未来予想図に従った時点で、俺達は敗北を喫する。俺はハンターだから、負けるのが嫌いだ。敗北は即ち死であるからな。俺は勝ちたい。何をもって勝つと言えば、それは2人とも生きて結界を出る事だ。シルヴィア、エルダ、ヴィルベート、ルカ、エイク、クリスと要蔵、ジェイソンとサダコ。彼らは必ずやって来る。俺と、マルセロ・ビアンキを助ける為にね。だから俺は、俺だけが助かる手段としてあなたを殺すような真似はしない。皆への顔向けが出来ない。先ずは、機を待とう。それまで出来るだけ耐えてくれ』

 アルベリヒ・コルベが書いたメモを読み終え、天使バルタザールことマルセロ・ビアンキは、紙切れを丁寧に畳んで懐に仕舞った。

 2人が本部2階の一室に囚われてから、それなりの時間が過ぎている。幽閉されているとは言っても、住環境に不足は全く無い。応接間然としたこの部屋にはそれなりの調度品しか無いが、望めば何でも出てくる魔法の部屋だ。食事もシャワーも、当然トイレも。王侯貴族の饗宴すら、出せと言えば出してくれるだろう。尤も、アルベリヒとマルセロに享楽を受容する心は全く無かったが。

 しかしながらサマエルによる心尽くしは、例えれば死刑囚に最期の贅沢を情け深く与えるような代物だった。アルベリヒ、マルセロ。戦い合って、何れかが死んで1人のみ外に出られる。その結末以外は許容しない仕掛けを、サマエルはこの部屋に施したのである。

 アルベリヒは拳を組み、じっとマルセロを見詰めた。自分の意思をメモにしたためて彼に渡し、アルベリヒは自らの意図への反応を見定めている。ここでの会話は、別の場所に居るサマエルに全て聞かれており、翻意を見せた時点で致命的な次の一手を出してくる事をアルベリヒは承知していた。メモは、つまり抜け道である。文字による意思伝達までは、サマエルは見抜けないらしい。

 マルセロが顔を上げた。アルベリヒが咄嗟に動けるよう軽く腰を持ち上げたのは、ハンターとしての反射行動である。

「まだ猶予はあるので、少し話でもしよう」

 口元を緩めて言うマルセロの姿に安堵し、アルベリヒは下半身を脱力した。どうやら時間稼ぎの案を受け入れてくらたらしい。アルベリヒの態度に頷いて、マルセロが続けた。

「しかし、何処かで御主の意向が発動する。それは多分、吸血鬼の王が血の舞踏会を開催した時点に同期するものと見る。前にも言ったように、私は君を殺したくはないが、そうなってしまえば逆らうという選択肢が消えてしまう。許される範囲内のあらゆる手段で、私は君と戦うだろう。それは覚悟してくれ給え」

 会話の流れとしては自然を装いつつ、マルセロは自分に情報を提供してくれていると、アルベリヒは判断した。彼が耐えられるのは血の舞踏会開幕まで。それは同時多発攻撃の始まりでもあり、ハンター側の反攻作戦開始の機会でもあった。最小限の時間なれど、矢張りマルセロとの戦いは避けられないものとアルベリヒは覚悟した。

「…それまでの間、聞かせて欲しい事がある」

「何をかね?」

「昔の話を」

 アルベリヒはウィスキーとグラス、水と氷を所望し、速やかにそれらは机上に実現した。何度やっても面白くはないが、口を滑らかにする為には必要である。

 

ハンターズ・ポイントにて

 かつては悪魔達の本拠地として機能していたハンターズ・ポイント地下、真下界も、シェミハザの出現と共に放棄されている。下界におけるかような傾向は、サンフランシスコ全域で見られるものだった。今や主戦場は地上に移動していた。

 よって皮肉な事に、全域で抗争状態に突入しつつあるサンフランシスコにあって、ここハンターズ・ポイントはかなり安全な部類に入る。何しろ悪魔が根こそぎ居なくなり、危険極まりないシェミハザは鼻歌混じりに北東地区への侵攻を続け、間違いなく元居た場所を顧みる事は無い。

 山岸亮が大掛かりな呪法を執り行なうには、確かに最適の地点だった。敵性存在からの干渉一切が無く、戦場からも遠く離れている。その状況下で、彼は魔方陣による召還を試みようとしていた。

 ブラッドストーン。処女が作った蝋燭を2本。新品の火桶。ブランデー。樟脳。石炭。子ヤギの皮製の紐。その他諸々の呪具を用い、魔方陣を形成し、正当なソロモン王大呪を唱える。

 手順というのは、この類の呪法において重要である。それは気合を極限まで高めるという意味合いに拠って。この世界において最も力を持つのは、人間の意思そのものだ。山岸の準備は精緻且つ念を入っており、人が許容範囲外の域に踏み込む準備は万端と言えた。

 ただ、問題があるとすれば、それは召還呪で呼び出そうとする、対象そのものにあった。

 

『カスパールは既に死んでおる。召還は不可能である』

「いや、それは百も承知なんですけどね」

 山岸はどっと溜息をつき、携帯電話を鳴らしてきた京大人に答えた。

「つまりあれですか、カスパールは通常言うところの『死』を迎えた訳ではなかったと?」

『悪魔と人間では、死の意味が異なる。諸君等ハンターが悪魔に対抗する際は、大抵の場合悪魔祓いによって地獄送りにするであろう。しかしながらそれは悪魔を元居た場所へ戻すに過ぎず、つまり悪魔を殺すまでには至っていない。現世における人間の死は魂が肉体を喪失するものだが、悪魔の死は魂を木っ端微塵に打ち砕かれる、という事なのだ。然るにそれは、君らによって達成されたのだよ。カスパールは、もうこの世界の何処にも居ない。彼奴は完璧に「死んだ」』

「やれやれ、面妖な事だ…。カスパールという三賢人の1人は、その名をキリスト教徒で知らぬ者は居ません。名も無き神を含めた超常の存在が人間の想像による産物であれば、カスパールにも厳密な意味での死は無いのでは?」

「彼奴らを生かすのが人間であれば、滅殺し得るのもまた人間なのだ。恐らくだが、ゆっくりと彼の名は世界から忘れられて行くだろう」

「三賢人が二賢人になるとか? そりゃ興味深い話ですね。しかし、折角シェミハザの居場所を問い詰めてやろうと思っていたんですが」

「それについては、君の仲間達が肉迫しつつある。シンプルな推察が功を奏したというところだろう」

「…ところで疑問があるのですが。何で私がハンターズ・ポイントでカスパールの召還をやろうとしている事を知っているんです? しかも召還が上手く行かなかった瞬間にピンポイントで。私は誰にも言っちゃいないはずなんですが」

 答えが返ってくる代わりに、山岸の視界がいきなり変化した。其処はもう、あの殺風景な下界ではない。何処かの一室だった。中国風の調度品が置かれ、目の前にはベッドに横たわる格好で携帯電話を持つ京大人。その隣で椅子に座る天使メルキオール。

「その召還呪、私には聞こえたぞ。袂を分かったとは言え、彼奴とは兄弟であったからな」

 メルキオールが見下ろす目線で言い、京大人は若干同情の目をこちらに向けている。

 あちゃあ、と、山岸は内心で舌を打った。メルキオールが不得手というのもあるが、彼女が自分をこちらに呼び戻すという、行動そのものに不審が感じられる。見たくもないような代物を見せられる気がするものの、しかし山岸はそれをおくびにも出さず、澄まし顔で着座した。

 

 

<H234-7-1:終>

 

 

 

○登場PC

H2サイド

・クレア・サンヴァーニ : ポイントゲッター

 PL名 : Yokoyama様

・ラスティ・クイーンツ : スカウター

 PL名 : イトシン様

・ジークリッド・フォン・ブリッツフォーゲル : ポイントゲッター

 PL名 : Lindy様

・山岸亮 : ポイントゲッター

 PL名 : 時宮礼様

 

H3サイド

・アルベリヒ・コルベ : ポイントゲッター

 PL名 : なび様

・ヴィルベート・ツィーメルン : ガーディアン

 PL名 : 森林狸様

・エルダ・リンデンバウム : ガーディアン

 PL名 : appleman様

・ルカ・スカリエッティ : マフィア(ガレッサ)

 

H4サイド

・アンジェロ・フィオレンティーノ : マフィア(ガレッサ・ファミリー所属)

 PL名 : 朔月様

・エーリエル・”ブリトマート”・レベオン : ポイントゲッター

 PL名 : けいすけ様

・エリニス・リリー : スカウター

 PL名 : 阿木様

・神余舞 : スカウター

 PL名 : 時宮礼様

・斉藤優斗 : スカウター

 PL名 : Lindy様

・ドラゴ・バノックス : ガーディアン

 PL名 : イトシン様

・ナタリア・クライニー : ポイントゲッター

 PL名 : 白都様

・ヴィヴィアン : 戦士

 PL名 : みゅー様

 

 

 

 

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ルシファ・ライジング H234-7-1【サンフランシスコ市民戦争・1】