<日本人団体客御一行様>
色々と見所の多いサンフランシスコ観光の中でも、定番中の定番、定番王と言っても差し支えないのが、ザ・ロックことアルカトラズ島である。かつては軍事要塞の建設から始まったこの島も、軍事監獄、連邦刑務所と姿を変え、現代では国立公園として、後ろ暗い歴史をも取り込んだ立派な観光地と化している。
ワーフの埠頭から出港してきた船が島のドックに到着すると、中から続々と観光客が下船してきた。黒い髪、茶髪に金髪と様々だが、押し並べて全員が団体ツアーの日本人客である。こうして団体が丸々一隻の船を占有するのはよくある事で、その大方は太平洋を跨いでやって来たアジアンだ。
その中の1人、斉藤優斗は、実はツアーの一員ではない。このツアーに相乗りする形で乗船した単独渡航者だ。傍目には見分けがつかないが、連帯感の出来たツアー参加者には彼が見かけない人間であるくらいは分かる。何気に老婦人が斉藤に話しかけた。お一人で旅行ですか、と。
「ええ、まあ」
と、斉藤ははにかんだ。
「サンフランシスコにはロングステイでおりましてね。この間から色々見て回っているんですよ。ヘイト・アシュベリとか、ワーフとか。プレシディオもね。ゴールデンゲートブリッジはどうでした?」
「あれは全然金色ではなかったわねえ」
「割と普通の橋でしたね。で、今日は満を持してアルカトラズですよ。楽しみですね」
「そうですね。サンフランシスコは街自体が観光地みたいですけれど、アルカトラズは如何にもな名所だと思いますのよ」
そうこうする内に、ガイドが旗を振って出立を促した。一同が行儀よく縦列になって、なだらかな斜面を徒歩で上って行く。左手に見える、丘の上の古めかしい建物が旧監獄舎で、坂の途中の右手にあるのがかつての看守宿舎と娯楽施設。ここではちょっとした土産物を売っている。
これからツアー一行は、丘の上まで上って監獄舎の中を見学する。アル・カポネ等、有名犯罪者が収監されていた部屋を見学し、向かいの広場に出て獄舎を背景に記念撮影。お決まりのパターンだ。
「あら、あなた、どちらにいらっしゃったの?」
看守宿舎の土産物屋で適当に品を手に取っていた老婦人が、斉藤の姿を見つけて声をかけてきた。彼の姿は、何時の間にか途中で見かけなくなっていたのだ。
当の斉藤は軽く片手を挙げて婦人の元に歩んできた。婦人が首を傾げる。心なしか表情が硬く、それに、
「どうなさったの、その汗」
「迷いました。ちょっと道を外れたら。いや、帰りの船に間に合わなかったら、チケットがパアになるところでしたよ」
「そのくらいは融通して下さると思いますけどねえ。何にしても、迷子にならなくて良かったこと」
笑顔で差し出されたハンカチを、斉藤は頭を下げて拝借した。額の汗を拭いながら、斉藤が時計の針を確かめる。
「出航時間はまだですか?」
「まだもう少し時間がありますよ。ところで…」
老婦人は怪訝な顔になって、斉藤の肩越しに後ろを覗き込んだ。
「先刻まであなたの後ろにいらっしゃった方、どちらに行かれたのかしら?」
<H1-3:終>
※連絡:
斉藤優斗氏には、本リアクションとは別に特殊リアクションのアドレスを連絡致します。
○登場PC
・斉藤優斗 : スカウター
PL名 : Lindy様
ルシファ・ライジング H1-3【アルカトラズ観光ツアー】