<城鵬のインタビュー>

 

 「庸」所属の協力者・城鵬と、ジェイコブ・ニールセンとの対話はジェイズ・ゲストハウスにて行なわれた。以下、ICレコーダーより抜粋。

 

「実の所を言えば、ジェイコブ氏御自身について探りを入れるつもりはありません。貴方は腹に厄介なものは抱えていないクチですからね」

「腹に余計な肉を抱え始めているがな。何でまた俺に改まって話を聞こうとする」

「此度はインタビューという形式とは、少々趣を異なるものとしています。昨今の状況について、色々と考えを出し合いたいのです。しかしながら、折角差し向かいで話をさせて頂く機会を得られたのですから、ここは一つ襟を正してお聞きしましょう。ジェイコブ氏はどのような夢をお持ちですか?」

「出たな。あの京大人にかましたスクールボーイ丸出しの質問か。残念ながら夢はない。俺には夢を抱ける家族が居ない。ただの何処にでも居る、朽ち果てかけた元ハンターだ」

「その回答は、ハンターとしては模範解答なのかもしれませんね。しがらみや縁を断ち切り、富も栄誉もまるで得られないこの世ならざる者との戦いに、身を投じてしまった人々を代表する声です。それでもマスター、僕は思うのです。僕も大概クソ野郎のマフィアですが、僕らやハンターにだって残酷にも未来があります。そして未来には、砂漠のように情感の無い風景よりも、心癒す潤いがあった方がいい。たとえ僕らの最期が泥のように沈んでも、僕らには多少マシな未来を築く力がある、という夢は抱いてもいいんじゃないでしょうか。」

「お前らしい、回りくどい言い方だな」

「例えば昨今の同時多発怪異現象。否、最早怪異現象という枠を超えて、攻撃的超常現象の域に入ろうとしています。これらはサンフランシスコの未来を捻じ曲げかねません。僕らは対抗する必要があります。この現象について思うところはありますか?」

「思うも何も、俺も皆と同じ印象だ。全くもって只事ではない。そして何がどうなっているのか全く分からん」

「これらの現象が全て一つに繋がっている、という考え方については?」

「根拠は無いが、まあ、そうだろうな。そうに違いない。サンフランシスコの出来事は、一つ一つのヤマがでか過ぎる。こういうものが一箇所で一斉に発生するなど、今までなかった事だ。それぞれが無関係である訳がない」

「話は飛びますが、ルシファが地獄から這い上がってきたという話について御存知ですか?」

「誰に聞いた」

「ハンターの間でも噂になりつつあります。真偽はさて置き、その噂の発生とサンフランシスコの同時多発現象はほとんど同時期です。ここでの出来事がルシファ・ライジングに呼応しているのだとすれば、僕らは未曾有の世界に足を踏み込もうとしている訳です。そこで提言したい事が2つあります」

「いよいよ本題か」

「まあ、そうです。まず1つ。風間君からもたらされた情報によれば、最早第三の敵性組織が存在している事に疑う余地はありません。これに対し、ノブレム側が協調体制に向けた協議を提案してきますので、ジェイズの代表として出て頂きたいのです」

「奴が言っていた、ノブレム内の革新派による推進か」

「先の月給取り暗殺未遂は御承知でしょう。ノブレムとジェイズの一触即発状況を、偶然ではありますが、吸血鬼とハンターが協力して防いだのです。これが僕らの、未来への打開点になる」

「其処まで言うのは、性急に過ぎる。ハンターと吸血鬼は、今もって手を取り合う事は出来ん。そりゃそうだ、天敵同士なのだから。人間も吸血鬼も、各々の仲間内ですら一枚岩になっていない」

「そうして結束出来ぬまま、僕らは敵に敗れ去る。というのは我慢ならないのですよ。この戦いにはノブレムとハンター、双方にとって脅威となる敵が控えているのは、先の件でも明白なのです。しかしながら、今は手を差し出すか否か、互いが考えあぐねている状態だと僕も理解します。此度の協議は、協調への布石と考えて頂きたい。まずは情報の共有化。あわよくばノブレムとハンター間の戦闘行為禁止の、推奨ではなく決定」

「反発する奴が出そうだな」

「それを宥められるのがジェイコブ氏であり、レノーラ女史であります」

「…良かろう。俺にしても現状のままが良いとは思っていない。少なくとも情報の共有化は、現時点ではデメリットよりもメリットの方が大きい。協議には是非参加させてもらう。で、もう一つの提言ってのは何だ?」

「ハンター達は初めて大きな壁にぶつかります。彼らはジェンキンスという家族を守るため、強力な吸血鬼に立ち向かわねばなりません」

「エルジェか。あの女帝級とかいう噂の」

「既にハンター自身が承知している事ですが、戦っても勝ち目は全くありません。しかしながらジェンキンス家を守りきる事が出来れば、それは間違いなく試合に勝った、という事なのです。ジェイズ・ゲストハウスを最高のパニックルームとして活用出来る選択肢を、ハンター達に提示して頂きたい。さすればそれを目掛けて、彼らは防衛戦を凌ぎ抜けるやもしれません」

「結界か」

「そうです。考え得る最強の防御力を、この館は持っています」

「なるほど、確かに…。例え相手が吸血鬼の最強類であっても、この館はこの世ならざる者を弾き返す事が出来るだろう。ゲストハウスを覆う結界は、それ程までに常軌を逸しているんだ。しかし最大の問題がある」

「ゲストハウスがジェンキンス家という闖入者を許可するか否か、でしょう」

「全て織り込み済みで話を持っていくのは、お前の悪い癖だな」

「恐れ入ります。その点については、実は考えがあるのですよ。先の件につきましては、よしなにお願い申し上げます」

 

取引

 城はICレコーダーを切り、ジェイコブに頭を下げてバーを後にした。きびきびと歩く彼が目指す先は、ゲストハウスの三階。

 階段を上りきり、廊下の中央まで歩を進め、城はその場でどっかと腰を下ろし、あぐらを組んだ。して、床にこすり付けんばかりに頭を下げる。

「何を言いに来たか、大概ご承知の事でしょう」

 虚空に向かって、城は朗々と言葉を繋いだ。

「頼まんとしているのは、はっきり言えば偽善です。たとえ一家族の命を救ったとして、世界では数十数百倍の命が同時刻に損なわれております。しかしながら、救えるかもしれない命を救う為、また自身の命を賭けようとしている者達が居るのも事実。僕は彼らを手助けする端くれでありたい! アルバート・ジェンキンスとその妻、そしてその息子を、この館に匿う許可をお願い申し上げます。これを叶えて頂けるならば、僕は向こう一年、稼いだ金の全てを供物として貴方に捧げましょう!」

「ほう?」

 城の耳元で誰かが囁いた。城は口の端を曲げ、したりと笑った。

 

 

<H1-2:終>

 

 

○登場PC

・城鵬(じょう・ほう) : マフィア(庸)

 PL名 : ともまつ様

 

 

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ルシファ・ライジング H1-2【ジェイコブ・ニールセンとの対話】