<城鵬のインタビュー>

 

 「庸」所属の協力者・城鵬と、「庸」の首魁・京禄堂の対話は、ハンターに開示される事を前提に行なわれた。以下、ICレコーダーより抜粋。

 

「本題に入ります前に、ガレッサのマルセロ・ビアンキをご自身がどのように捉えているか、お聞かせ下さい」

「話すつもりはない。君もあれには関わるな」

「では、本題に。此度の反乱は『庸』にとって、結成以来最大の危機であると僕は考えています。孫、楊、黄の三氏が離反した要因について、大人の思うところをお聞かせ願えますでしょうか」

「全く、王の配下は変わり者ばかりか? まあ、良い。その向こう見ず加減は嫌いではない」

「恐れ入ります」

「まず第一の離反者、孫明の離反については心当たりがある。知っての通り、彼が担当していたハンターズ・ポイントはサンフランシスコ中心域から一際外れておる。我々が軸とする中華系の居住も多い訳ではない。何せ治安の悪さは札付きだからな。狭量な者ならば、左遷と捉える向きもあろう」

「しかしハンターズ・ポイントは、僕達にとって重要な拠点です」

「その通り。あそこで我々は禁輸品の取引を行なう。無論警察にもマークされているし、無秩序な犯罪者が横槍を入れる。地味で危険で、しかし我々にとって大切な拠点なのだ。わしは孫明を今もって評価しておる。あの誠実な男は、黙々と自らの職務に取り組んでいた。何れ何らかの形で報いねばならないと、思っていた矢先にこれだ。もし孫明が不満を抱いていたならば、それを見抜けなかったわしの失態である。しかし第二、第三の離反については理由が分からん」

「僕は大人がハンターを介入させた理由は、其処にあると踏んでいます。何か全く分からないものが内紛の裏側にある」

「この件については不自然な点が多い。三氏の配下が1人も余さず一斉に寝返るなど、非現実的に過ぎるからな。非現実的なものには、こちらも非現実的な対抗手段を知っている者に動いてもらうのが良策であろう」

「しかしこの一件では、内輪の紛争に彼らを巻き込む形になりました。この展開に不信感を抱く者も、ハンターの中には居るはずです」

「何が言いたい?」

「可及的速やかにハンターとの連携態勢を、僕達庸は取るべきだと判断します。恐らく敵は強大です」

「…王の一配下風情が口を出す話ではない。と、言いたいところではあるが、一理ある事を認める。協力態勢については、今後の推移を見て検討する」

「では早速ですが、『下界』の地図がありましたら、ハンター達に開示する許可を戴けますか?」

「全体を繋ぐ地図は存在しない。分断された見取り図のようなものは、各氏に持たせている」

「では、その開示命令を」

「出さぬ。下界は庸の最大禁忌だ。確かにわしは下界の進入を容認するが、現時点での部外者への積極的な情報開示は、組織の首魁としての沽券に関わる。しかしながら、わしの与り知らぬところで情報を提供する分には、知った事ではないな。何しろ王広平は真面目なお人よしだ。それに多分、君もな」

「では、テンダーロインの下界と、恐らく下界に通じているだろう下水区域の情報を、僕はハンターに提供しないように注意致します」

「良い心掛けである」

「話は変わりますが、ハンターズ・ポイントには下界が存在していたのでしょうか?」

「少なくとも、わしが知る限りではあそこまで下界の範囲は延びていない。各氏担当区域の中で、唯一下界への入り口が存在しなかった場所だ」

「しかし離反者達は、恐らくハンターズ・ポイントの地下を拠点にしています。何しろあれ以来、彼らはハンターズ・ポイントで消息が途絶えたままだ。そしてハンターズ・ポイントの下水道は、サンフランシスコ中心区域の下水道と切り離されている。つまり地下は、市内の下界のように接続されていない。離反者はどのように動くと思われますか?」

「彼奴等の目的が分からぬ以上、何とも言えん。前回の目撃情報から察するに、離反者の幾人かがミッション地区経由で下界に潜ったのは間違いない。それを炙り出すのが此度の行動である。しかし地上が抑えられた状態で、市内中心域の下界に本陣を構えているとも思えん。拠点はあくまで、ハンターズ・ポイント」

「奇妙ですね。何をしたいのかが分からない。ハンターズ・ポイントから地上戦で攻勢を仕掛けるのは困難です。数はこちらが遥かに上回り、地上は監視の目も行き届いている。恐らく敵は地下からやってくる」

「分断されたハンターズ・ポイントからか? 一体どうやって」

「それを調査する為に、ハンターの力が必要となるのです。この事件、彼らの力無しには間違いなく解決に至りません。そしてこのサンフランシスコで複数発生している怪異現象も」

「一つわしからも問う」

「何でしょうか」

「君は庸とハンター、どちらの味方なのかね?」

「無論、庸です。庸は、マフィアは一般社会に寄生して生きている。だからこそ宿主が死に至らぬよう、社会に奉仕する義務があります。僕達は、僕達の大事な社会を護らねばなりません。今、この街には、何か異常な事が起ころうとしております。僕達はそれに対し、連携して、対抗する必要がある。社会を護るために。だからハンター達と、共に戦う事に躊躇してはならないと考えております」

「わしは君を、庸の代表として危険因子と判断した。以後はわしに睨まれながら、思う通りに動け」

「光栄に存じます。最後にもう一つ、お聞きしたい事があります」

「何かね」

「大人はどのような夢をお持ちでしょうか?」

「その質問は此度の件と何か関係があるのか」

「ありません。単なる個人的な興味です。かつて抱いていた夢、という形でも構いません。返答の必要がなければ、黙殺されて当然の質問だと僕は考えます」

「ふむ、そうだな。わしは昔、料理人になりたかった」

「意外ですね。いや、そうでもありませんか。大人はよく、手料理を振舞われていらっしゃる」

「手慰みではある。わしは今の立場に到達する事を生まれた時から決められておった。だから幼い時分より極度に節制の行き届いた生活をさせられたものだ。しかしある時、確かシニアスクールの頃であろうか、友人と小さな中華料理屋に忍んで行った事がある。そこで食った粥が事のほか旨かった。この世にこんな旨いものがあるのか、というくらいにな。よぼよぼのお爺さんが作ったものだが、わしはその料理人を率直に素晴らしいと思った。この人のようになってみたいと、わしは今でも心の隅で思っておる。詮無い話だ」

「いえ、良い話でした。お時間を頂き、ありがとうございました」

 

 

<H1-1:終>

 

 

○登場PC

・城鵬(じょう・ほう) : マフィア(庸)

 PL名 : ともまつ様

 

 

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ルシファ・ライジング H1-1【京大人との対話】