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<ジェイズ・ゲストハウス>
ル・マーサに関わる面々は、エリニスが部屋に帰っていない頃合を見計らい、ゲストハウスの空き部屋に集合した。この場の面子は、エーリエル、真赤、ドラゴ。
「ん? バーバラ女史は帰っていないのですかな?」
「あの人はしばらく街を流して、問題無ければアンナと安宿に泊まるのだそうよ」
「あのおばちゃんが張り付いているなら安心だ」
「そう言えばマックスはどうしたの?」
「近場のバーで待って貰っております。ジェイコブ氏の知り合いの店なので大丈夫ですぞ。ただ、客層の柄の悪さに腰が引け気味のマックス君ではありました」
「…ゲストハウスで待っていない、って事は」
「ああ。彼もアンナ同様、屋敷への出入りを拒否されたのさ」
3人は深く考え込んでしまった。
ゲストハウスの主、キューは「入れるのは危険である」という理由で2人の避難を拒否している。危険の根拠も、キュー自身が論理立てて説明出来ない不明瞭なものだ。彼らハンターには、あの2人が魔のものではない事くらい十分に分かる。それは恐らくキューも承知している。取り敢えずマックスには、しばらくの間は真赤とドラゴが張り付いて防衛に当たった方が良い、というところで落ち着いた。
ともかく、あの2人がル・マーサにとってスペシャルな存在である事は明白だ。マックスには得体の知れない2人が派遣され、アンナに対しては更に得体の知れない怪物が襲い掛かってきた。前者がル・マーサの肝煎りであるのは間違いないが、後者に関しては何が何だかさっぱりである。
「先刻ジェイコブのおっちゃんが、カースド・マペットは悪魔が作るって言ったよな」
苦りきった顔で真赤が呟く。
「くそったれ。やっぱり悪魔が絡んできやがったか。マーサも悪魔とつるんでやがる」
「しかしですな、マーサの屋敷でそういう痕跡を、エーリエル嬢は一切見つけておりませんぞ?」
「別の位置に居る外部協力者。悪魔。その悪魔の名前は」
カスパール。
思い当たるところと言えば、今の所それしかない。その悪魔に対しては別のハンター達が当たっているものの、こちらにも勢力を向けられるくらいの余裕はあると見てもいいのだろう。敵は広く、大きく、そして深い。前途の難儀を思って溜息をつき、しかしエーリエルは気丈に言った。
「ともあれ、マーサの屋敷には色々施しておいたわ。出入り口の全てにソロモンの環を設置。尤も、マーサの人間に消されては元も子も無いのだけど。それに『講話』をしていた地下のレクリエーションルームにも、リモコンで発火出来る欺瞞煙幕を設置したわ。それにバーバラさんの二番煎じだけど、ICレコーダも仕掛けておいた」
「ICレコーダには何かありましたかな?」
「今のところは、何も。ここ最近は講話もしていないみたい。引き続きレコーダは確認しておく。今後、何か参考になる情報が得られるかも。幸い、わたしの方はマーサへの取り入りが上手く行ったみたい。カロリナも、あの妙な2人組も、わたしが送り犬と正面から戦った事を評価しているわ。おかげで潜入操作がやり易くなった」
「俺は、やばいかもな。あの2人に不審を抱かれたかも知れん。って事は、カロリナにも。マーサの屋敷での行動は、目立たねえようにした方がいいかも」
「私なぞは完全に敵に回った気配がありますぞ! 無論、望むところだ、どんと来い!ですぞ! しかしですな、マーサの者達の認識はそうであっても、1人我々に注意を払っているトリックスターが居りますな」
ドラゴの言い様に、それが誰なのかを察せられない者はこの場に居ない。エリニス・リリーだ。彼女は今回、よく分からない行動をしていた。ハンター達に救いを求めたり、マーサから遠ざかったり。ほとんど何もしていないに等しいのだが、そんなはずはないのだ。恐らくは。
と、不意を打って3人の目の前に映像が浮かび上がった。うろたえたものの、彼らは映像の中の登場人物を見て、思わずにじり寄る。ゲストハウスの扉の前に立つのは、エリニス・リリー。
『こんばんは、お嬢さん』
キューの声だ。映像の中のエリニスが、慌てて振り返っている。
『吾はしばらく様子を見ていました。君が今後どのような立ち回りをするのか。その結果を、吾は残念に思います。君は一段と臭うようになりました。とても危険な臭いがします。吾やハンターにとって致命的な雰囲気が、君にはあるのです。そして君を危険視し始めているのは吾だけではありません』
言って、キューは扉を開いた。ひとりでに開いた扉を呆然と眺めるエリニスに対し、言葉が更に続く。
『これがラストチャンスです。君は次でお決めなさい。ハンターとして踏み止まるか、向こう側に行ってしまうのか。もしも向こうに行くのなら、君はゲストハウスの敷居を二度と跨げません。スキルの取得もアイテム強化も出来なくなります。言っておきますが、吾を言葉だけで謀るのは、人間である君には不可能です。吾は君の心を知る術を持っています。どのように決を下すかじっくり考えて、今は君、お休みなさい』
ここで映像が途切れた。そして、キイと軋み音を立てて扉が開き、また閉じられた。目に見えない何かが部屋に入って来たらしい。恐らく、キューだ。
「こんばんは、ハンター諸君。懸命な君達ならば、あの映像を見せた吾の意図を御理解頂けると思います」
「…注意勧告」
「そう。吾は君達の行く先にあれこれ干渉するつもりはありませんが、おかしな者を招き入れて良しとするほど暢気でもありません。彼女の事は、次で決着させます。それから、先ほど君達が連れてきたマックスという少年ですが」
ドラゴと真赤は、揃って自分が指差されたような気がした。キューの姿は、全く見えていないのだが。
「吾はアンナ同様、マックスの入館を拒否しました。しかしながら、君達がマックスに与えた影響は、とても良いものだと思えたのです。その方向性は間違っていません。吾は彼の事を底無しの闇と思えたのですが、同時に炎の輝きがあるとも知りました。火を起こしたのは、君達かもしれませんね」
キューの言い方はひどく抽象的だったが、それでも微かに希望を感じさせるものだった。
<H4-2-2:終>
○登場PC
・エーリエル・”ブリトマート”・レベオン : ポイントゲッター
PL名 : けいすけ様
・ドラゴ・バノックス : ガーディアン
PL名 : イトシン様
・真赤誓(ませき・せい) : ポイントゲッター
PL名 : ばど様
ルシファ・ライジング H4-2-2【魔弾】