<王の戦い>

 王広平はジークリッド・フォン・ブリッツフォーゲルに椅子を勧め、2人分の茶を淹れて自らも腰を下ろした。彼は会話に世間話というワンクッションを置く性質ではなく、何時も通りにいきなり本題を切り出してきた。

「私は、次のパレス攻略戦には参加しない。直接如真のところへ赴こうと思う」

「何と!?」

 ジークリッドは二の句が繋げなかった。彼がサマエルの器になった、という話はハンター間の情報として伝播しつつある。耳ざとい庸の、それも最高幹部であれば広平も当然弁えているだろう。普段から仏頂面の彼としてはとても稀な事だが、王は苦笑を交えて話を続けた。

「既に如真が災厄側の下僕としてマーサを率い、庸と相容れぬ立場となった事は承知している。そのうえで、私は一旦立場を互いに捨て、話し合う場を設けたい」

「如真は、既に如真としての正気を失っているやもしれぬぞ…」

「それを見極めたい。もしも一握の心が奴に残っているのであれば。私は庸の者であり、父親である。しかし事ここに至って、全てを削ぎ落として残るものが何かを考えたのだ。奴は私の、大事な一人息子なのだよ。子を救わんとすれば、親は全てを投げ打つ腹を括るものだ」

 つまり命を賭して、という事か。王は淡々と述べていたものの、その強固な意思は梃子でも動きそうになかった。それにしても、とジークリッドは思う。

「何故わらわにそのような話をされたのじゃ?」

「君が私に言った事を私は忘れていない。実に情けない話だが、君に言われるまで問題から目を背けていた事に気付かなかったのだ。だから私は、他ならぬ君に意思を見せようと考えた。つまり私は、もう目を逸らさないのだと」

 王は立ち上がり、デスクから一枚のDVDケースを取り出し、ジークリッドに手渡した。

「これは?」

「如真の部屋に二枚あった。どうやらビデオメッセージらしい。私宛に一枚、そしてもう一枚は君宛だ」

「如真が…」

 繁々とケースを見詰めるジークリッドに、王は肩を叩いてプレイヤーを使うように促して、自らは部屋を辞して行った。王の厚意に従い、ジークリッドがプレイヤーにDVDをセットする。

 テレビの画面に、カメラをセットする如真が映った。如真は中央の椅子に戻り、腰を落ち着けて視線をこちらに向ける。何時ものような不思議な笑みは無い。表情からは何も伺えない。これが本当の如真の顔であったのかと、ジークリッドは改めて知った。

 

『ジークリッドさん、本当の事を言えば、僕には何が正しくて間違っているのか、今もってよく分からないのです。

僕は多分、次に会った時にあなたを突き放すような事を言うでしょう。でも、その時も僕は心にモヤがかかったままであると思います。

だから、よく分かりませんから、敢えて御主様に全てを捧げようと思います。あの御方が為される手段をジークリッドさんは許容出来ないでしょうけど、御主様が目指される世界に僕は希望を見ています。

僕らの住むこの世界は澱んでいます。漠然とした不安を抱え、ゆるやかな死滅へと向かっている。僕らは何かを変えて行かねばならないのですが、権益の維持の為だけに存在しているような庸は、澱む世界を凝縮した組織だと僕は常々思っていました。こんなところに、居てはならないとも。

御主様はサンフランシスコを、そしてその先で世界の全てを、大きく変えようとしています。人間はとても未熟ですから、明確な指針を持った巨大な存在に率いて頂く事も、一つの有効な手段だと僕は考えています。先に述べた通り、事の正邪が未だよく分かりません。それでも僕は、これからも御主様について行きます。あの方は、間違いなく「明確」であるからです。

しかしジークリッドさんが、僕の考え方に同意しない事を承知しています。だから、もしも僕とあなたが戦い合うようになって、僕があなたの手にかかって死ぬのであれば、その時は、恨みません』

 

 

<H2-5特:終>

 

 

○登場PC

・ジークリッド・フォン・ブリッツフォーゲル : ポイントゲッター

 PL名 : Lindy様

 

 

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ルシファ・ライジング H2-5特【父親】