<講話>
会場の人のざわめき。雑談らしき言葉が交わされている様子。10分程過ぎてから、パンパンと手を叩く音が聞こえ、すぐに静かになる。拍手の主は、恐らくカロリナ。
カロリナ『はいはい、皆さん、ちょっと注目をお願いしますわ。今宵の講話は、8人の新人さんが参加して下さいました。未来の私達のフレンドに、拍手をお願い致します!』
一頻りの拍手喝采。
カロリナ『それでは1人1人とお話をさせて頂きますわ。まずはエリニスさん、どうしてル・マーサの活動に参加しようと思われたのですか?』
エリニス『それは…。何て言うか、こうしたボランティアを行なう事で、昔の失敗に対し、少しでも贖罪になればと』
カロリナ『まあ、そうなのですか。可愛らしい方ですのに、深刻なお顔は似合いませんわ。ここで明るく楽しく生きる事が、あなたの贖罪になると私は信じますわ』
以降、カロリナによる新人相手の会話がしばらく続く。
カロリナ『さて、一通り新人さんに聞きましたし、これからちょっと最近のお話でもしましょうか。皆さんはマーサのフレンドを狙った、犬の亡霊が出るという話をご存知ですか?』
フレンドA『知ってる。あれは本当なのかね?』
カロリナ『さあ、私もこの目で見た訳ではありませんから。ただ、それからフレンドをお辞めになる方が幾人か出ていますし、私達としては悲しい話ですよね。もしこの噂が本当でしたら、私、ハンターに解決をお願いしようと思っているんですのよ』
フレンドB『ハンター? ハンターって何ですか?』
カロリナ『この世の邪悪な存在、悪霊や悪魔を退治する正義の人々ですわ。嘘みたいですけれど、本当に居るんですのよ、このサンフランシスコに。確かテンダーロインの不思議な酒場にいらっしゃるとか。これからもこんな悲しい事が続くようでしたら、私が一度お願いしてみますね。それと、「彼」はなかなか私達のフレンドにはなってくれませんわね…』
フレンドC『ああ、「彼」はどうも怯えているようですよ』
フレンドD『私達、何も怖くはありませんのに』
カロリナ『引き続き「彼」をお誘いしましょうね。前は折角来て下さるところだったのですが、どうも犬の亡霊に邪魔されたらしいのですよ』
エリニス『あの、ちょっといいですか』
カロリナ『どうかなさいましたか、エリニスさん』
エリニス『ル・マーサは、基本的に勧誘はしないって聞いていたんですけど』
カロリナ『仰る通りですわ、エリニスさん。私達は参加して下さる方の自主性を尊重しております。ですから「彼」にも、自ら足を運んで頂きたいのです。ただ、「彼」は私達にとって特別な人ですから』
エリニス『特別?』
カロリナ『そう、特別なのですわ。それでは皆さん、そろそろ唱和を始めましょうか。自分が今、生きている幸せを改めて口にする言葉を。仏教やイスラムに殉ずる方々がいらっしゃいましたら、どうかお気になさらずに。あまねく平等な世界において、人々の幸せを称える言葉なのですから。それじゃ、私が言った後に続いて下さいね。新人さんは、聞いているだけでも結構ですよ。はいっ、聖人の街』
聴衆『聖人の街』
カロリナ『由緒ある教会』
聴衆『由緒ある教会』
カロリナ『美しき方』
聴衆『美しき方』
カロリナ『深く閉じる目蓋』
聴衆『深く閉じる目蓋』
カロリナ『目覚めの日』
聴衆『目覚めの日』
カロリナ『Sumus fidelis Apostolorum』
ここから突如ラテン語になる。唱和が乱れる。恐らく新人達が、戸惑ったようにざわめいている。様相が完全に変わる。
カロリナ『Lorem et córpore sacrificium』
聴衆『Lorem et córpore sacrificium』
カロリナ『Deus magnus
animo genus』
聴衆『Deus magnus
animo genus』
カロリナ『Ne praesentia mali』
聴衆『Ne praesentia mali』
カロリナ『Quid tibi
nomen』
聴衆『Quid tibi
nomen』
どん、と大きな音が響く。同時に悲鳴声が一斉に上がった。口々に叫ばれる恐怖の声。その中でも一心不乱に唱え続けられるラテン語。阿鼻叫喚。
カロリナ『エリニスさん!』
カロリナの一際大きな声が響く
カロリナ『さあ、仰って。あなたの罪を』
エリニス『カ、カロリナ…』
カロリナ『あの御方によって、あなたの心は解放されようとしています。しかし余計な自制心が安寧への道を阻害している! さあ、言いなさい。贖罪なさい!』
エリニス『アタシのミスで、アタシの大事なお兄ちゃんが…』
カロリナ『泣いてはなりません! 笑うのです!』
エリニス『殺されたわ。この世ならざる者に、滅茶苦茶にされたのよ。ごめんなさい、ごめんなさい』
カロリナ『謝ったところで、あなたの兄は戻りませんわ。さあ、どうしたいのです。どうすれば罪を償えるのです!』
エリニス『笑顔で、心安らかに、明るく楽しく生きる!』
カロリナ『あなたの大事な兄の為に。そして罪深い私達を、それでも愛してくださるあの御方のために!』
エリニス『兄の為に、あの御方の為に!』
それからカロリナが、新人1人1人を相手とした、丹念な糾弾を行なう。徐々に悲鳴が収まり、会場は静かとなる。厳粛にカロリナが言う。
カロリナ『Amen』
聴衆『Amen』
バーバラは講話が行なわれる会場に、掃除と見せかけて仕掛けておいたICレコーダの再生を切った。この後、何事もなかったかのような明るい雑談が続くのだが、最早聞く気にもならない。
「敵だわ」
頭を振って、バーバラは奥歯を固く噛み締めた。
「これは人の尊厳に対する敵」
<H4-1特殊リアクション:終>
○登場PC
・エリニス・リリー : スカウター
PL名 : 阿木様
・バーバラ・リンドン : ガーディアン
PL名 : ともまつ様
ルシファ・ライジング H4-1特【ル・マーサの優しい呼び声】