<囚われの身>
ドグ・メイヤーは微かに聞こえてくる鐘の音で目を覚ました。
痛む頭を掻きつつ身を起こし、自分が置かれた状況を徐々に把握し始め、慌てて周囲の景色を見回した。自分は、カーティスの部屋で鏡の中に引き摺り込まれたのだ。
ここは何処か分からない、石造りの狭い部屋だった。部屋には明かりが無い。廊下に繋がるらしい鉄製の扉に、設えられた鉄格子から漏れ出る光で、辛うじて中の様子が覗える体たらくである。
部屋にはベッドすらなく、自分は冷たい床にそのまま寝転がらされていたらしい。一応、剥き出しの便器がある。其処で用を足すのは、かなり嫌なものだが。窓らしきものは一切無い。つまりここは、囚人が入る独房のような場所だった。
鐘の音は、まだ続いている。随分くぐもった音だ。それにしても、何処かで聞いた事があるような。
自分の持ち物を確認する。何もかもが取り上げられて、武器の類は当然無い。しかし、カーティスの寝室の鍵を開けた際に用いた小さな針金は、ジーンズの尻のポケットにまだ入っていた。徹底さが欠けているとドグは思う。自分を拉致したのは得体の知れない連中だが、その仕事振りはアマチュアレベルだ。
ドグは扉ににじり寄って、その構造を確認した。シンプルな構造で、自分でも何とかなりそうだ。針金を差し込んで開錠を試みようとしたその時、廊下から声が聞こえ、ドグは反射的に飛び退って寝た振りを決め込んだ。
「おはようございます」
「おはようございます」
1人の声は誰なのかを、ドグは知った。ゲイリー・カーティスだ。
「トラップに引っ掛かった彼、何ていう人でしたっけ。彼はどうしています?」
「まだ薬が効いているようですね。寝たままです」
「ふむ。ハンターの割には、意外に虚弱でしたね」
2人の声は、少しずつこちらに近付いて来ている。そして扉の前に立ち、鉄格子からこちらを覗き込む気配を、ドグは背中で感じ取る。
「如何しましょう?」
「取り敢えず、次の儀式に使いましょうか。向こうさんは怒り心頭、最早待ってくれそうにありません。多少強引ですが、少年聖歌隊を利用します」
「来月に大聖堂で聖歌隊の発表会があります。こちらとしては予定外ですが」
「念の為に学校に潜り込んで、本拠をこんな所にした訳ですからね。全く、奥の手は使った時点で負け戦も同然ですよ。しかし背に腹は変えられません」
「沢山人が死にますね」
「これからもっと死にますよ。大変素晴らしい事です」
「それでは、また夜に会いましょう。皆さん、普通のお仕事がある訳ですから」
「カーティス卿はどうなさるのです?」
「昼の間は下界にでも行きますよ。あそこが一番安全です」
「この男はどうされるのです?」
「大丈夫、大丈夫。万一ここから出たとしても、『彼』に食い殺されるのが落ちですから」
「定期巡回していますからね」
カーティス達の声は、徐々に遠ざかって行った。それに合わせて何かの足音が、反対方向からヒタヒタと近寄って来る。それは扉の前で止まり、威嚇するようなけたたましい吼え声を上げた。そして一頻り吼えると、また足音を響かせて歩み去って行く。
ドグは鉄格子から、後姿を覗こうとした。しかし、足音は聞こえるのに、姿が見えない。獣の吼え声と足音は、幻聴ではなかったはずだ。
扉に背を預けて座り込み、ドグは頭を抱えた。
あれは恐らく、ブラック・ドッグだ。悪魔の飼い犬。地獄の番犬。狙いを定めた獲物を、必ず地獄へと引き摺り込む狂犬である。
<VH1-3特:終>
※このリアクション内の情報は、ドグ・メイヤー氏しか知り得ません。当リアクションを他の方に見せるのは勿論OKですが、その情報をドグ氏以外のPCが活用した場合、上手い工夫をしなければ総ボツの処置となります。どうか御注意下さい。
○登場PC
・ドグ・メイヤー : ポイントゲッター
PL名 : イトシン様
ルシファ・ライジング VH1-3特【ブラック・ドッグ】