<ル・マーサの邸宅>
エリニスはハンター達がゲストハウスに居る頃合を見計らって、マーサの邸宅を訪問した。カロリナから夕食の招待があったからだ。
1階のダイニングに入ると、カロリナは上座から楽しそうに手を振ってきた。そして彼女の席の片側に2人の男女が座っている。モートとステラだ。マックス宅に誘導した際を含め、彼らに会うのは二度目である。
「…ごめんなさい。アタシ、あそこにはハンターが1人しか居ないと思っていたから…」
着座し、頭を下げるエリニスを慰めるように、カロリナが彼女の手を取る。
「大丈夫ですよ、エリニス。あなたは私達をよく手伝って下さいましたわ! おかげで少しずつですが、『彼』も目覚めようとしていますのよ」
「目覚める?」
「しかしカロリナ様。マックス周辺のハンター達は、少々厄介です」
モートの進言に、カロリナは困り顔で応じた。
「そうですわねえ。確かドラゴさんと仰ったかしら、エリニスさん?」
「ドラゴ・バノックス。ハンターの中でも、かなり優秀な護り手よ」
「腕力一辺倒という印象でしたが。そしてもう1人、日系の少年が居ましたね」
と、ステラ。
「彼は確か、『あれ』の方に立ち向かうはずではなかったですか? マックス周辺の方が『あれ』に対する網を張り易い、というような事を彼は言っていましたが」
「…彼の名は真赤誓。こちらも優秀な攻撃手。見た目ほど単純な性格ではないみたい。一体何を考えているのか」
「ええ、結局モートとステラの訪問を邪魔する形になりましたし、困ったものですわ。エーリエルさんのように送り犬への対処で集中して頂きたかったのですが…、」
「確かに彼女は送り犬と真剣に戦っていましたね」
「あの、カロリナ」
エリニスは幾つかの聞いてみたかった事柄を切り出した。
「アタシ、ハンター達にブラフを仕掛ける意味で、アンナ・ハザウェイに勧誘の手が再び向かうって情報を流したのよ。でも、そのアンナの元には本当に『何か』が向かったわ。あれは一体?」
「私達には、助力を下さる方が様々にいらっしゃるんです」
話が若干逸らされた、とエリニスは気付く。その心境を知ってか知らずか、カロリナがとうとうと話を続ける。
「今回は二正面で行ってみましたのよ。アンナさんが再びフレンドになって下されば、マックスさんも今一度興味を持って貰えるかもしれませんし。何れにせよ、私達はマックスさんの自主性を重んじているんです。彼が自ら足を向けて来られた時、素晴らしい事が起こるでしょう!」
「素晴らしい事?」
「あの御方が再び降臨なさるのですわ」
続々と運ばれてきた食事を前にし、カロリナは話を打ち切って神に祈りを捧げた。モートとステラも同じく。エリニスも倣ったが、久々のお祈りは少しばかり窮屈である。
「エリニスさん」
と、カロリナが目を閉じたままエリニスに語りかけた。
「二律背反を御自身に課されて、さぞかし苦しいかと察しますわ」
「…はい。苦しいです。しかしこの苦しみこそがアタシの贖罪なのです。今はただ、マーサのフレンド達の為に力を尽くすわ」
「ありがとう、エリニスさん。私、あなたとお友達になれて本当に良かったですわ」
<ジェイズ・ゲストハウス>
合図の扉を叩こうとし、エリニスは一瞬躊躇した。
ここ最近、ゲストハウスは簡単に自分を館に入れてくれない。入る都度、いちいちチェックされているような気がするのは思い違いなのだろうか。それでもエリニスは我が部屋で睡眠を取るべく、定められた回数通りに扉をノックした。
『こんばんは、お嬢さん』
不意に耳元から声が発せられ、エリニスは慌てて振り返った。誰も居ない。しかしその声は、誰も居ない何処かから再び聞こえてくる。
『吾はしばらく様子を見ていました。君が今後どのような立ち回りをするのか。その結果を、吾は残念に思います。君は一段と臭うようになりました。とても危険な臭いがします。吾やハンターにとって致命的な雰囲気が、君にはあるのです。そして君を危険視し始めているのは吾だけではありません』
言って、声の主は扉を開いた。ひとりでに開いた扉を呆然と眺めるエリニスに対し、言葉が更に続く。
『これがラストチャンスです。君は次でお決めなさい。ハンターとして踏み止まるか、向こう側に行ってしまうのか。もしも向こうに行くのなら、君はゲストハウスの敷居を二度と跨げません。スキルの取得もアイテム強化も出来なくなります。言っておきますが、吾を言葉だけで謀るのは、人間である君には不可能です。吾は君の心を知る術を持っています。どのように決を下すかじっくり考えて、今は君、お休みなさい』
それきり、声は聞こえなくなった
<H4-2-1:終>
○登場PC
・エリニス・リリー : スカウター
PL名 : 阿木様
ルシファ・ライジング H4-2-1【エンジェル・ダスト】