チェックメイト。
佐藤七生を巡る出来事の決着地点は、今回の結果を受けて非常に見えづらくなったと言わざるを得ません。今、彼はアレクサに拘禁され、北条家が彼の奪還を志羅高校側に依頼するという、危険極まりない展開を迎えております。
私達が志したのは、何は無くとも今回を逃げ切るという事でした。アレクサに彼の身柄を渡せば、実験動物扱いを受けるのは分かりきっていた話であり、そうなれば彼を取り戻す事が極めて困難になる。それを避けるべく、封鎖された市内で彼を守りきれると思われた組織、山の民を私達は頼ろうとしました。
これが大きな誤りとなる訳です。彼等は徹底した拒絶をこちらに向け、言葉に対して暴力で応じ、結局は成果の無い物別れとなってしまいました。実の所を言えば、彼等の言う事も分からないではありません。何しろ不必要な厄介ごとを持ち込まれた上、それに対する実利的な報酬は無い。だからこそアウスターグである彼等の持つ異能、それが何の為に存在するのか、大ゲームが進行する苛烈な状況下で彼等共々何が出来るのかを訴えたかったのですが、届きませんでした。最早彼等は、近付くと危険な野生動物です。野生動物の世界に人間の争い事を持ち込むべきではなかった。そういう意味では、彼等に申し訳ない事をしたと思います。私の友人であるクリスに矢を突き立てた事への報復は、何れやっておきたいところですが。
そして帰ってみれば、七生はアレクサに確保された後でした。
北条家の依願による奪還行動は、今回を乗り切る事が出来れば必要の無いものだったと考えます。等と言う繰言をしても、時は既に遅し。次に彼を助け出す事が出来ねば、七生は体を弄り回され、易々と死を迎える事になるでしょう。
残念ながら、私が行く事は出来ません。
私はアレクサに対し、明確な敵対行動を取ってしまいました。仲間を彼等から守る為にした事であり、それは後悔していません。しかし私の面は割れ、名がブラックリストに載った事は間違いない所です。次に何をやっても、私には濃厚な死の気配が憑きまとうでしょう。それでは困る。私は死ぬ為に生きている訳ではない。私には遂げたい想いが、未だ残っているのですから。
非常に心が残ります。しかし振り返る事は出来ますまい。ただ、佐藤七生という不思議な少年と、彼を救わんとする人々の先行きに幸あれかし、と。
文責:香車董子