「殉職!〜止まらぬ血の惨劇〜」
かねてより佐藤七生(さとうななき)の護衛に就いていた、社員の御子神翔(みこがみしょう)が、七生殺害を狙った侵入者の襲撃を受け、その凶刃に倒れた。享年17歳。未だ少女の面影を残すその若さで、彼女は逝った。私は今、彼女が生前に書き残した記録を基に、この報告書をしたためている。
現場で目撃した、同僚の香車董子(きょうしゃとうこ)によれば、犯人は、ユウという名の少女の仲間のスケルヘールで、魔神(まかみ)マヒルという、元志羅高校生徒であるという。私は一時とは言え、同じ高校に通った生徒同士が、加害者−被害者の関係になってしまうという現実に、暗澹たる思いを禁じえない。結局襲撃は失敗し、魔神もまた、同じスケルヘールの護衛の手により、命を絶たれる事になる。
ところがこの光景を、あろう事か七生本人が目撃してしまい、そのショックにより、精神崩壊を来たすに至った。ただでさえ、「種」の作用で意識が混濁していた七生は、これにより、意識不明の植物状態に陥ってしまった。
実は、襲撃犯の魔神は、仲間のユウの命を助けるために、七生を狙った訳であるが、皮肉にもそのユウは、後日別の襲撃者の手により、殺害された。これにより、七生の中の「種」の成長は停止し、七生の周りの「ソロモンの娘」候補者からも、その証しである微かな光が消え去った。しかし、「種」による生命の危機こそ脱したものの、依然として七生の容態は回復せず、動かす事も困難な状態が続いている。
かくして、「種」を宿した一人が亡くなり、今一人もまた、廃人と化した。何という、むごい運命か。しかしそれは、最初から仕組まれていた定めだったとも言える。何故ならば、「ソロモンの娘」のシステムそのものが、「種」の宿主の死を前提条件として、顕現するように造られていたからである。そして「種」が対になっているが故に、必然的に両者の候補者同士が、殺し合わねばならなくなるように、宿命付けられていたのである。
たとえ<漆黒>を倒すためにやむを得ない事だったとしても、これ程の多くの犠牲を強いる「ソロモンの娘」なんぞという兵器は、ロクでもないシロモノだ。こんなもののために、掛け替えのない同僚の生命が奪われたかと思うと、全くもって遣り切れない。私は、こんな馬鹿げた殺人ゲームを仕組んだ奴らを、絶対に赦せない。
しかし、「ソロモンの娘」を巡る抗争は、未だ終わりが見えない。しかも、今や<漆黒>の走狗と化した「AlexaHD」に知られた以上は、さらに多くの血が流される事は避け難い。椿市の例を挙げるまでもなく、奴らは伝説の兵器を手に入れるためならば、どんな非道な手段も、躊躇わないだろう。これに対し、既にこの地に潜伏する、ヘンリー卿やディーリアス氏らの<黒>どもも、黙ってはいまい。既に平泉一帯は、道路交通網が封鎖されており、事態は一線を越え、既に戦争状態に入ったと言えよう。未だ何も知らない地元の一般住民を巻き込んだまま、状況は悪化の一途を辿り、混迷を深めるばかりである。
文責:シャロン・シャーリーン