その後とはじまり

 

 救いようがない事態だ。等と言う悲観以外に何もない言葉を安直に使ってはならないと、それは頭では分かっております。仲間の御子神翔が目の前で殺され、佐藤七生の心が崩壊し、その場に居て何も出来なかった私。それらが現実だと目の前に突きつけられたとしても。

 百中百、七生への何らかの攻撃がある事は彼のサイドにいる人間ならば誰しも承知している事態でした。当然襲撃者は彼を狙うため、具体的な攻略方法を練って来る訳ですが、しかしそれに対して私達は、もっと具体的なカウンターの手段を熟慮すべきだったのです。対策を考えてきたのは御子神翔で、彼女は七生の影武者を演じるという危険な手段を用いていました。故に暗殺対象が彼女に移された時、彼女を守るのは彼女自身しか居ませんでした。何故私は、彼女を守れなかったのだろうか。

 此度の顛末を改めて文書にするのは、私にとって苦痛でしかありません。それでもこのように文字媒体として留めるのは、御子神翔という人間が確かに居て、自らの信念を最期まで貫いたという事実を、私を含め、他の方にも覚えておいて欲しかったからです。七生の心は失われましたが、まだ体は脈を打っています。以前の安寧を取り戻す可能性もあります。だったら、翔の為したかった事を、七生の側に居る私はやり遂げようと思うのです。

 件の「種」を持つ者同士の殺し合いは、ユウの死で表面上決着を迎えましたが、事態は今もって予断を許しません。それに加えて、もうすぐアレクサによる志羅高校への介入が始まります。漆黒の手先を狩り出すという名目は黒い冗談でしかなく、本当にどす黒く染まっているのは誰なのか、わざわざネットの辺境にある当サイトの、私の文章を読まれるような方ならば、先刻承知の上でありましょう。佐藤七生の元にも、必ず何かがやって来るはずです。

 また私は戦いに行くでしょう。こんな事があっても戦に胸奮わせる感覚は止まず、我ながら邪な性であると認識しております。それでも、少しだけでも、御子神翔という不思議で純粋な魅力を持った少女の為に、私は黙祷を捧げたいのです。

 

文責:香車董子

 

 

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