『稲穂の神玉』、驚愕の正体

 

 ディーリアス邸を追われて以来、取り合えず先月から援軍として合流している、同僚の香車董子先生のキャンピング・カーで、寝泊りをして何とか凌いで来たが、倒すと紙の人型になってしまう、謎の式神に襲われたりと、不穏な状況が続いている。一時は噂に聞く、「山の民」と呼ばれる、山中に住む古代のアウスターグの一団を頼ろうかとも考えたが、頑として里の者を拒絶する彼らとの接触は、危険性が高いとの判断から、協力者の伊達酔狂氏の取り成しで、「H」ことハーヴェイ氏という、謎の人物世話になる事となった。しかし、「H」は危険な<黒>として警戒されている、ヘンリー卿ではないかという可能性が高く、これ以上<黒>と関わるのは危険ではないかと、危惧される。

 この間、他にも気になる異変が次々と起こりつつあり、謎はさらに深まるばかりだ。自分も含めて七生の周囲の何人かが、七生が倒れたあの時以来、微かな光に纏われるようになり、一方七生本人は、次第に精神的に変調を来たしつつあった。また、倒すと紙になる、いわゆる式神の襲撃も続き、その上町の住民が、いつの間にか式神と入れ替わっているという噂すら、まことしやかに流れて来る。

 そんな中、「H」の代理というプロクシなる人物から、驚くべき真相が語られた。何と、『稲穂の神玉』とは、「ソロモンの娘」を生み出すための種であり、しかも、それは人の心臓に同化して成長し、宿主の死と共に「種」として顕現し、候補者を「ソロモンの娘」にするのだという。そして候補者の証しこそが、あの纏わり付く微かな光なのだと。つまり、七生こそが「種」の宿主であり、自分と同僚のクリスは、「ソロモンの娘」の候補者という事になる。さらに、「種」は常に対で存在し、一方が死んで顕現すれば、もう一方は消滅するらしい。そして「種」をそのまま放置していても、じきに宿主は意識が混濁し、衰弱して死ぬしかないという。

 それはつまり、「七生が助かる道は、もう一人の「種」の宿主に、早々に死んでもらうしかない、という事だ。話によれば、もう一人の「種」の宿主は、皮肉にも「S管」が保護している、ユウというスケルヘールの少女であるそうだ。しかし、たとえ七生のためとはいえ、相手を死なせるなんて、自分には出来ない。おそらくは、七生本人も、望まないだろう。しかし、向こうはどうなのだろう。この事を知ったら、こちらを襲って来るかも知れない。どこの誰だかは知らないが、こんなシステムを考えた奴は、余程の外道か、変態野朗に違いない。いったいどうして、こうまでむごい死が必要なのだろう。自分は、その誰だかに、激しい憤りを感じる。

 何れにせよ、今や平泉を覆う闇は一層暗さを増し、事態はさらに危機的状況を、呈しつつある。事態解決への道は遠く、未だ、光は見えない。

 

文責:御子神翔

 

 

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