鬼哭谷通信報告書X(サンク)

 

 どもども、おはこんばんちは。

 鬼哭谷研修所のおさんどん・鷹乃瞳さんです。

 こちらに来て幾星霜、限りある食材で料理を作るのもすっかり慣れました。

 無事に帰ったら「サバイバル料理読本」でもかいて出版しようかしら。

 でもまあ、よくもこれだけやってこれたものよ。この前の滝に打たれた修行の時なんか、マジで死ぬかと思ったわ。奇跡はあるんだって信じちゃうわね。

 おまけに店は完璧赤字。まともな情報よこした人なんていなかったし。

 それでも一生懸命料理作ってたあたしも馬鹿みたいね。

 ん? 「後悔しているのですか?」って。

 それはないわね。何事も一生懸命やればそれ相応の満足感は得られるし。

 それに、こんなことやってやれるのも今月までよ。

 それについては報告で詳しく話すわ。

 ではでは、報告行きます。

 

 さて。今月、過日の遙蒙との密談により私たちは2つに問題を絞ることにしました。

1.遙蒙が信用できるか。

2.遙蒙・後舁に先んじてアーグニャを保護する。

 1.については、彼の言うことが事実かどうかも問題ですが、彼が本当に遙蒙かどうかも不明です。

 彼についてはボスが担当したから、詳しいことはそっちの報告を見てちょうだい。

 2.については、あたしの他、今月来援にきたファルコンと、ミメロナちゃんにも付き合ってもらいました。

 アーグニャの保護について、問題点は3つ。

1.アーグニャを他の修行者に先んじて保護する。

2.アーグニャの現在位置の確認。

3.アーグニャを保護する際、また保護した後、アナスタシアもしくは後舁の配下に襲撃される危険がある。

 1.については、鍋パーティを迷鳥で開いて事情をよく知らない一般修行者の隔離を行いました。

 修行者の中にはアーグニャ――みんな名前は知らなくて、隻腕でオッドアイのフェリオンとしか知らなかったようだけど――をフェリオンと知って、契約を結ぼうと思っていた者もいたようだけど、アーグニャを遙蒙があれほど執心していた以上、アナスタシアも推して知るべしってものよね。何も知らないままアーグニャを連れれば、その修行者は殺されたでしょうね。事故に見せかけられるか、アナスタシア=後舁に直接手を下されたかは別にして。

 店の信用を崩すような行いだったとは思うけど、事情を話すわけにも行かなかったし、そもそも修行のためにここに来た者にフェリオンは不要でしょう。命には代えられませんから、心を鬼にしました。

 2.についてはSGSのツールで何とかなると思ったけど、衛星写真しか撮れないようなのよ。案外使えないわね、コレ。

 結局、パートナー使いのファルコンが空から捜索しました。

 3.については、危惧したような事態にはなりませんでした。

 まあ、ポーの一族が何頭か現れたけど、もっと剣呑な連中と戦う準備をしていたから。描写もないくらい簡単に蹴散らしました。

 ただまあ、最後がいけなかったわね。

 アーグニャは無契約状態のようで、自我はほぼ無し。見た目はミイラ同然と目立つことこの上なし。

 しょうがないからみんなで運んで、迷鳥の地下食料庫に置こうと思ったんだけど、なぜか降りてきたソーニャに見られちゃった。

 普通あんなところ降りてこないわよ。夜には氷点下超えるんだから。

 何だかんだでソーニャもアーグニャの世話をしてくれたんだけど、困ったわね。

 ソーニャは悪い娘じゃないけど、これでアーグニャの居場所がばれたわね。

 修行者にもだけど、後舁に。

 それと、気になったことが1つ。

 ソーニャはアナスタシアのロアドなんだけど、そのソーニャがアーグニャの青い方の左目をどこかで見たことがあるって言うのよ。

 単純に考えればアーグニャの左目はアナスタシアの失った左目ってなるけど、その経緯はまったく謎よ。

 恐らくそこに、アーグニャに遙蒙が執心する理由があると思うけど、一番手っ取り早いのはアーグニャと契約して彼女に直接訊くことね。

 もっともそれには、ある種のキーワード。アーグニャをその気にさせる言葉が必要だと思うわ。

 ともかく店仕舞いの準備をしなくちゃ。

 紋章者がアナスタシアに連れ去られたらあたしは追跡に入る。この修行場とはお別れよ。

 場所? 多分大陸。ロシアか中国かははっきりしないけど、多分ロシアでしょうね。

 そこが一番、後舁の本体に近い場所だから。

 それじゃあ、またね。

 生きていたら連絡するわ。

 ではでは、再見!

 

 追伸:よく考えたらフェリオン研究施設の場所って、アーグニャがどこから来たのか考えれば簡単に判ったのよね。

 アーグニャの雪の上に残された足跡は何キロにも渡ってはっきりと残っていた。そこをたどれば……ランスには悪いことしたわ。

 

文責:鷹乃瞳

 

 

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