段落を覚えました
「切りやがれ。段落をよ」
そんな怖い顔をなさらずともいいのにと思いますのに、ヤスオは前回の報告書を二、三行読んだだけで突っ返して参りました。
という訳で、段落を切ってみました。私の文章も少しずつちょっとずつ前向きに分かり易くなっているのではないかと、そんな気がする丑三つ時。幽霊が出る時間だそうですよ。怖い怖い私は幽霊が超怖いです。
さてヤスオが真っ当な報告を半ば放棄したこの格好、恥ずかしながら私がフォロウを入れてあげねばなりますまい。なりますので、此度の事件の報告をしてみたく思います。あらやだ、またみたくを若者みたく使ってしまいました。
で、やった事と言えば結局、獣使いのリンダに詫びを入れるに留まっただけなんであります。詫びたらどうにかなるという事もなく、さりとて鯖寿司と私の服でも何だか駄目みたいで、随分嫌われておいでのようで、自業自得だざまあみやがれと声を掛けて差し上げたくなりました。大体死体淑女の私でも、鯖寿司変な臭いがするのでありますよ鯖寿司。犬猫、酢の臭い駄目なんじゃないですかァ?
なんてからかうと頭突きをかましてくるヤスオが超可愛いと思います。
そんな超駄目だったヤスオも、今は性根を入れ替えて真人間の如くバイトをしております。PRエージェンシーのマフィアみたいな社長に見つかったら大変ですが、正直に報告書に書く所が超偉い。きっとマフィアみたいな社長も超褒めてくれるんじゃないですかァ?
さて置き、結局あのドブネズミみたいなリンダリンダはドレスアップして何処かへ行ってしまわれました。何処かというのは、ホルト家の屋敷に。
「ヤスオ、ホルトケって何でありますか」
「『放っておけ』のどっかの訛り」
万事この有様ですので、先が思いやられたりもしますが私は元気です。何れにせよ、もう深く関わらなくとも良かろうと言うのがヤスオのお考えであります。ペット殺しが減ったのは事実だし、ちゃっちゃかちゃーと土日にアウスターグやってりゃいいじゃん、とも言っていますが。本当に大丈夫でしょうか。マフィアみたいな社長の大目玉ではなく。多分この先、人が沢山死にますよ。
今迄の状況は、単なる前振りに過ぎないと私は考えます。あの「教授」とやらとホルト側の戦は、これから激化の一途を転がり落ちるでしょう。其処に招き入れられたリンダというドレーガは、アレクサ構成員の恣意があったにせよ、ホルト側に入ったという次第。しかし私はリンダという女を安直に信じてはいない。彼女に激烈な恨みを抱くクリスティーナは、狂の一文字で片付けるには根が深い。あのリンダには、何かしらまずい要素があるはずだ。少なくとも、ドレーガとしての格は危険な部類に入る気がする。でなければ、たかが不審感を抱かれた程度で、我が主の血液記憶総量を減退させる程の力が、雑魚ドレーガにあろうはずもないのだから。
「おい、ちょっと待て」
と、後ろで何時の間にかディスプレイを覗き見をしているヤスオの様子をダイレクトにキーで叩いておりますよ。そんな覗き見るなんて恥ずかしいじゃありませんことよ
「与太文章はどうでもいい!
俺、あの獣使いに何かされたの? されたの?」
されました。称号を貰いました。
「何て言う」
獣使いの不審(-100)。漏れなく血液記憶総量がマイナス100であります。
「はぁ、成る程…
ワードアートを使ってみましたが、ヤスオの憤りは伝わりましたでしょうか。ギャー等と喚きながらのたうつ様は、まるで捌かれる前の猪みたくであります。
「俺、何か悪い事したか!?」
しました。
「俺の大好物の鯖寿司を土産にしたのに!」
嫌がられたとヤスオの口から聞きました。
「ただでさえ血液記憶総量の少ない俺なのに。畜生。こんなみっともない称号なんぞ、絶対絶対剥がしてやる!
絶対だ!」
良かった。ヤスオのやる気が見事に回復しましたですよ。それもかなりまずい方向に。
文責:ボルカ・ボストーカ