最終報告
いよいよ、その時が迫って来た様だ。自前の<ロアド>を持たない事による禁断症状は、耐え難い吸血衝動となって、時々襲い始めている。じきに、限界点が来るのだろう。この先は、そのせいで正気を失うか、その前に原油の海に沈むか、何れかだろう。
そこで、同僚のドクター山鳥崇子の紹介で、『聖バルテルミー総合病院』で研究に勤しむ、宗山島人氏に身柄を預け、最後の時を迎えるという、決意を固めた。その際に、宗山氏の提案を承諾し、原油の海に接触するという実験を試みる事にした。
彼の説では、原油には古い地球の古生物の記憶が、蓄積されているのだという。
解かる気がする。最初に<黒>に染められた時の感触が、それを想起させるものだったから。
そうか、それは言わば、“ガイア”の意識に同化するという事なのだろう。
覚悟を決めた以上、もう恐れる事はない。納得した上で、最後の時を迎えるのだ。皆には色々と世話になったし、感謝もしている。最後に独りで行く事を、どうか許してほしい。
それから、蛇足ながら、最後の言葉は「あたしは、あたし!」、と決めている。
最後まで、自分が自分として生きて存在した事を、実感して行きたいから。それから先は、宗山先生に訊いてくれ。彼が話してくれるだろう。そろそろ行く時間だ。では諸君、さらばだ。アディオス!
文責:ファラ・ルーシェ