落ち着くべきところに

 

オテル・ド・ブリュメールにおける対バロール戦は、聖錬術の行使という形で一応落着致しました。平田安男、ボルカ・ボストーカ、そして私による連携作戦も、人質の身柄確保という最大の目的を達成する事が出来ましたので、結果は成功であったと言えます。

結局平田氏が目指したのは、バロールの目を最大限攻撃側に引き寄せ、人質救出部隊の行動の為に隙を作る事にありました。故に自らの異能攻撃がバロールにはさして効かないであろう事も、実の所折込済みであったようです。ただ、攻撃部隊突入の際、バロールは配下に対して人質の抹殺を先んじて言い渡し、当の配下が翻意をしてくれなければ状況は悪化の一途であったと、付け加えておかねばなりません。爆薬の設置地点も、最も敵にとって意外であろう直下からという優れたアイデアは、私達にはありませんでした。

終わってしまえば色々と反省点も見えてきますが、それでも私達は結果を出せたというに限らず、各々が良く動いたと自負する次第です。

私は爆薬を中華系の某ルートから入手しました。彼等は中華系互助組織とはいえマフィアと深い繋がりがあり、正直な所係わり合いを持つのは好ましくありません。が、こういう非常時には致し方なく、己身一つで渡って行こうと考えていた当初の心構えも、甘いものであったと省みます。

ボルカ・ボストーカは言動が凄まじくアレですが、かなり優秀なフェリオンであると行動を共にして分かりました。爆薬を「壁面を破壊しつつ人的被害を抑え込む」程度に威力を加減し、設置ノウハウも深く、タイミングも適切。この種の活動については私達の中で最も習熟しています。本行動につきましては、まず彼女が居る事が大前提として遂行されたと言っても過言ではありません。

平田安男はPRエージェンシー内で言われるような人物ではありませんでした。一旦定められた作戦行動に対して忠実であり、また人命がかかる状況に至っては極めて勇敢な戦士であります。また、行動目的を人命最優先に絞込み、それ以上の結果を切り捨てた判断は、バロールに対する私達の戦力を鑑みるに適切なもので、生存率の高い作戦行動を推進する能力がある人物だと私は解釈します。じゃあ、今まで何故遊んでばかりいたんだ、と言われると返す言葉もございません。

後日談については、差し当たり私達が書く事はありません。私はもとより、長々とその周辺に居た平田氏とボルカ女史ですら、全くと言って良い程ホルトに関わって来なかったのですから。あの二人ときた日には、最後の最後にいけしゃあしゃあとよくもまあ、であります。

それよりは、コースマス設立以降について触れねばなりません。私は宇宙飛行士育成講師を目指す事になりました。とは言え今の時点で出来る事と言えば体力指導くらいのもので、一度横浜の実家に帰ってからすぐさまリューリクに飛んで、私自身が猛勉強をする必要があります。前途多難ですが、好きで負う苦労というのも中々心が躍ります。

約一年、私は様々な経験を積んできました。悲惨な事も多かったのですが、今となってはそれすらも糧として前進しなければと、決意を新たにしております。これまで御助力を下さった皆様には、今この場を借りて篤く御礼を申し上げます。

以上、拙文につき失礼致しました。

 

追記:

平田氏の報告書は遅れることになるでしょう。理由は、ボルカ女史にお譲りします。あまりに馬鹿馬鹿しくて書く気も起こりません。

 

文責:香車董子

 

 

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