「宵月の夜会」、潜入リポート
あたしが、生前潜入しようとして、果たせなかった、<ドレーガ>の夜会。皮肉にも、<黒>に染められた事で、あっさりと出席がかなう。予想に反して、今風の格好をしている者も結構いるようだ。比較的“若い”個体が多いのかも知れない。一応専門の「古歌」に関する研究レポートのコピーを配ってみたけど、反応は今ひとつ。既に知識を持っている古参の年長者にとってみれば、今さら目新しいものでは、ないのだろう。結局新参者のあたしは、相手にされないまま終わる。何百年も生き続けている者の意識がどんなものなのか、伺い知る事は困難だ。たとえ<黒>に染まったとしても、当初は、さほどの変化は見られない。どうやら、血液記憶の摂取と蓄積が、意識を決定的に変化させるようだ。そのせいか、幸いにも、今の所は、元の人格に変わりはない。思うに、<黒>たちは、一種の記憶中毒に、陥っているのではないか。そして、記憶の集積と共に、徐々に混乱を来たし、それらの統制が取れなくなり、自分自身を見失って、狂気に囚われて行くのでは、と思う。夜会の出席者たちを見ていると、その誰もが、新たな記憶を得る事への、渇望を抱えているように感じられる。それ故に、血を求める衝動を、抑えきれないのだろう。それこそが、<漆黒>に至る病根であると確信し、あたしはその場を後にした。
文責:ファラ・ルーシェ