私達の戦い
ロジック・グレイという、ウルダルグに片足を突っ込んだ強力なドレーガが、彼の愛すべきドレーガ、ホリィ・エヴァグリーンを略奪する為に仕掛けた地返村への襲撃は、ロジック自身が後退を決めた事で一応終了した。とは言え、彼の襲撃を私達が押し返した訳ではない。どちらかと言えば押し込まれる展開だった。ロジック自身が本格的に戦闘参加していたなら、今こうして拙文を会社に提出する私は、間違いなく現世に居なかっただろう。
私やPRAの仲間達、それに数多く集まったアレクサの有志達は、それこそ総力を挙げた万端の態勢で迎撃戦を準備していたはずだった。にも拘らず、ロジック一党は「正面」から車両で易々と村に侵入し、ロジックの血統達が得意とする刀剣での接近戦闘を、戦の初手から被る羽目になってしまった。
この展開は本当に悔やまれる。防衛ラインを徐々に後退させながら非戦闘員を逃がす時間を稼がねばならなかったのに、結局多数の死傷者を出す羽目に陥ってしまったのだ。私達は余りにも邸宅の防御に比重を置き過ぎたのかもしれない。何れにせよ、あの戦いは私自身にとって致命的な敗北だった。ロジックが退こうが、ホリィが捕われずに済もうが、この世で最も邪悪な行為の一つである子供殺しを目の前で許してしまったからには、それは私にとって意味の無い成果なのだ。
しかし、それでも生き残った人々は数多く居る。そして恐らく、彼等の逃走は高い確率で成功するだろう、とは我が社長の曰く。何しろ昼間は棺桶で搬送しなければならないホリィを除き、彼女のロアド達が高速道路を一斉逃走する必要は無い。一般道路、電車、飛行機だって使えるだろう。ホリィの到着地であるブリューメールに辿り着かれる前に、限られた時間の中で高速道路上の戦いを強いられるロジック一党が、散らばったホリィの子供達を各個に潰して回る事は不可能だ。そう思えば、多少なりとも安堵が出来る。
それにしても、何と個人的で価値の無い戦だろうか。あの鼻持ちならないロジックにも、叛旗を翻した彼の血統に対して見せた愛情の深さがあり、詰まる所誰しも愛する者を失なうのは、とてもとても辛い事なのだ。それが分かっていながら、何故その情をもう少し自分達以外の存在に向けられないのか。
この先ホリィを核とする話が如何なる落着を迎えるのかは知らないが、少なくともオレはロジック・グレイというドレーガを、一生涯許さないだろう。
文責:香車仙輔