何処とも知れない村に向かう

 

 この文章が掲載される頃には、私達の戦いは大方の決着がついているはずだ。その勝敗如何に関わらず、私の身の安全に保証は無い。命の有無すら怪しい所だろう。私達が会社活動の一環として向かった村は、そういう危険に満ち満ちている。

 ロジック・グレイという強力なドレーガが、一党を率いて某県の地返村に大規模な襲撃を仕掛けるとの情報が、ADRを通してPRAに伝わってから数日間。私達の準備は、今迄に無い方向性でもって万端を目指し進められてきた。即ち、戦闘を主眼としたものである。

 これ迄も「不確定情報の確定」を謳うPRAとして、危険な調査活動は幾つかこなしていた。が、こうまで露骨に戦いを念頭に置くのは初めてだと思う。それだけ、ロジックという男には呵責が無いという事だ。何しろたった一人のドレーガの女、ホリィ・エヴァグリーンを手に入れる為、彼女の血族を皆殺しにでもするという。私には度し難い話だ。そんな個人的な思惑で数多の人生を破壊しよう等と、成る程、数百年生きた怪物とは相容れないらしい。

 社長曰く、この戦いは俺達に勝ち目は無い。

 それはそうだ。敵の目的は「殺す、ホリィを奪う」の分かり易い2点に絞られ、自然戦闘に長けた連中が集結してくるはずだ。おまけに筆頭のロジック相手では、私達が束になってもまず勝てない。それに対してホリィの側に集う者は、全員が全員戦のスキルを持つ訳ではないし、恐らく思惑も雑多だろう。ならばオレ達は負け戦と分かって突進するのかと問えば、社長はこのように答えた。勝てはしないが、負けない戦をする事は出来る。

 私達の準備は、その一点に絞られる事となった。即ち、この戦場から全力で逃げる用意を揃えておく。非戦闘員を逃がし、ホリィを逃がし、あの歪んだ情念を持つ男から彼方の距離を置き、そうして私達が求めるのは、ドレーガの「始祖」なる存在について何らかを知るホリィと共に、今の歴史が成り立った所以を突き止める事にある。

 状況はとても深刻だし、含まれた謎は深い。それでも私は、或いは私達は、ある種の気楽さを忘れずに行こう。そして口笛を吹きながら戦場に向かい、私は私の仲間と戦えない人達を守る為、拳術の全てを駆使しよう。そうやって私達は、何時か話の深みに辿り着き、忘れられた歴史を見る事すら出来よう。

 それも生きてさえいればだが。

 

文責:香車仙輔

 

 

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